回想・裏鬼門
昨日、急に呼び出された会議が終わり、30分ほどたった後、再び僕は清涼殿へと呼び出された。今度は姉さんが始めから付き添っている。
「どうしてまた呼び出されたんでしょうか?」
「ん~多分これからの任務についての説明じゃないかな? それはそうとひーくん、今朝はゴメンね」
何故か姉さんが唐突に謝ってきた。
今朝?
裸の僕の隣で姉さんが添い寝してたことしか記憶にない。いや、もちろんそれ以外の出来事もあったけど。
「今日の会議は本来ならひーくんが最初から出席していたはずなの」
「えっ」
その情報は初耳だ。
「でもそのことを朝に伝え忘れていたせいでああゆうことになっちゃったの。本当にごめんなさい!」
姉さんは両手を合わせて謝った。あー、ひょっとして朝に聞いた、また後でね~ってのはそうゆう意味だったのか。
「いや、別に気にしてないですから、謝らなくていいですよ姉さん」
「許してくれるの?」
「最初から怒ってませんよ」
「やったぁ!」
そう言って姉さんは抱きついてきた。
「ちょっ⁉ 家ではともかく外ではや、止めて欲しいんですが」
自己主張が激しいモノがまたもや腕に押し付けられる。色々と保つのに僕は必死だ。
なので、抗議したら、
「やっぱりひーくん照れてるー」
と、前半部分のセリフをやたらと強調した返答が帰ってきた。
「違います、か、らぁ!」
その後、どうにかして姉さんをひっぺはがしながら再び清涼殿へと向かうのであった。
清涼殿入口の薄い扉は実のところカモフラージュだったらしい。というのも桜宮様が座っていた玉座の後ろ側に回転扉となっており、その中の階段を下った先にもう一つの会議場があったのだ。
つまりこの部屋が清涼殿の本体というわけだ。
この会議室は「
室内は比較的簡単な造りで中央を囲むように円状のテーブルが配置されている。中央にはたぶん映像を投射するのだろうプロジェクターとそれを操作するパソコンがあった。
桜宮様はテーブルの上座に座っており、それ以外のメンバーとして
「よっ! ヒロシ」
栗色のミディアムヘアをふわふわと揺らしながら笑顔でチトセが近づいてくる。
「さっきの間違い、面白かったぞ! あれワザとか?」
「いや、あれはただ、何というか……普通に間違えただけですよ」
「ってことはあれが素? ふふっ。相変わらず興味深い奴だな!」
何が面白いのかチトセはダボダボの袖をぶん回しながらそう言った。からかいのネタがまた1つ増えた、という顔をしている。
次にサングラスをかけた毛利大臣がこちらへとやって来た。そしてその180cmにもなる長身を少し曲げて姉さんと僕の顔をペタペタと触ってきた。
「ほおほお……お二人方、先月以来でしたかな。相変わらずご壮健のようで何よりです」
「ありがとうございます。毛利大臣もお元気そうでなりよりです」
顔を触れられたことを特に気にする様子もなく姉さんが答える。僕はともかくとして姉さんの顔も触るのは別に昔よくあったと伝えられている「せくしゅある・はらすめんと」とかいうものではもちろん、ない。
齢50にもなろうかという毛利大臣は十干支としては珍しく超人である(ちなみに国内で最も高齢だ)。
彼は自分の視点を遥か遠くに飛ばして見ることができる「千里眼」という能力がある。
ただし欠点として能力未使用時には視力を失う。今のようにその日初対面の人の顔を触るのは触覚によって人を判別するためだ。ついでにその人の体調等もわかるらしい。
一通りの挨拶が終わった所で風香の真面目そうな声が会議室に響く。
「では、皆さんどうぞこちらへ。早速ヒロシさんに今回の任務の詳細を桜宮様が伝えます」
その声に従い皆桜宮様の元へと集まる。非公式? の会議だからか余計な儀礼などはないようだ。
彼女は今までのやり取りを見ていたようで少し微笑んでいたが、いざ口を開くと微笑みは消え、真面目な顔となった。
「まずはこれをご覧ください。」
僕は桜宮様から一枚の紙を受け取った。どれどれ……?
そこにはこう書かれてあった。
到:新国日本国家元首樱宫菊花
好久不见! 距离上一封信已经过去半年多了。你好吗?我听说有传言说,敌方暗 杀部队已派往你那里。……我希望你和你的封臣平安。(中略)
顺便说一下,顺便说一句,似乎其中一些战士具有巨大的能力。出道时间不长,却 一直在创造着一个又一个的成果。我想看看它的活动一次。 顺便,试着和我的下属比较权力。(後略)
现任翡翠皇帝 翡红
「…………いや、あの、僕はこの
僕は目を白黒させながら言った。
「そこにはこう書かれておるのです、ヒロシ殿」
毛利大臣がそう前置きして訳を読み上げた。
「神国日本元首 桜宮菊華様
久しぶり! 前回の手紙から半年以上経ったわね。そちらの調子はどう?あなた達の元に敵の暗殺部隊が派遣されたという噂を聞いたんだけど。あんたとその臣下が無事であることを祈っているわ。ところで、そちらの戦闘員に凄まじい能力を持つ人がいるらしいじゃない。まだデビューしてから日も浅いのに次々と戦果を出しているって。一度その活躍を見てみたいものね。ついでにウチの部下と力比べをしてみるとか。
現翠玉国皇帝
へえ、そう書いてあったのか。
「その凄まじい能力を持つ人って誰なんです? 麻里さんとか?」
そう言うと周りの視線がこちらに集中する。その目は一様に「何言ってるんだコイツ」と言いたげであった。
「えっとお、それ絶対ひーくんのことだと思うんだけどなぁ」
姉さんが冷や汗を垂らしながら答える。
「ええ……でも僕の能力は」
「ストップだヒロシ。オマエがなんと思うと、周りは皆こう思っているんだぜ。国内で一番強いのはおまえだってな」
チトセが真顔でこう言った。
うーん。何回も似たような事を言われてきたけど僕はどうしても実感がなかった。
何度も言うけど能力使用中は意識がないので自分がどう戦っているかわからないのだ。そのためどうしても他人事に聞こえてしまう。
「この内戦、我々の負けであると思います」
突然桜宮様がそう言った。
そしてこう続ける。
「この事は私が半年前に暗殺されそうになった時に悟ったのです。自国の君主が生活する場という本来なら最も警護が厚くなくてはならないここ御所に、易々と暗殺部隊が潜入されたのですから。これはそれだけこの国がどうしようもなく衰えていることの証拠となりましょう」
「ですが陛下、敵は我々の考えてもいなかった形態で侵入を—— 」
慌てて反論しかけた風香さんを手で抑えて彼女は続けた。
「残念ですが風香さん、それは言い訳にしかなりません。ヒロシさんが居なかったら私は死んでいたことは確実でしたから。……別にナタリヤ姫のことで貴方を責めているわけではないですよ」
「……お気遣い、ありがとうございます」
僕はそう言って頭を下げる。
「もし仮に械国に降伏した場合、恐らく民達は虐殺されるでしょう。何度もここ京都に無差別爆撃をしている時点で間違いないと思います。そこで生き残った民を少しでも安全な地に送り届ける、と考えた時その候補は1つしかありませんでした」
その言葉の続きは流石に僕でもわかった。
「翠玉国ですね、陛下」
「その通りです」
桜宮様はそう言って頷く。
「この話は3ヶ月ほど前から交渉を続けていました。そして今回最後の調整を翠玉国で行います。ヒロシさん、貴方はこれに同行し難民受け入れ交渉を手伝うのです」
そう締めくくった。でも僕にとって腑に落ちない点が1つあったので質問する。
「陛下、僕が行っても何も役に立たないと思うのですが……学もありませんし」
「そこであの文章です」
と、代わりに毛利大臣が答える。
「あの文章通りに解釈すれば恐らく、ヒロシ殿を連れて行けばきっと彼女はよい気分となるでしょう。そして交渉が上手くいくかもしれない」
なるほど。要するに僕はご機嫌取りというわけか。
「ところで、翠玉国ってどんな国なんです?」
「そうですね——これはチトセさん、貴方に任せましょう」
チトセの方向へ目を向けて桜宮様はそう言った。
「お任せください!こういったことはウチの能力の出番ですから!」
チトセはふんす、と胸を張って自信満々そうな声でそう答えた。
……正直いってチトセの能力の世話にはなりたくないなぁ。
アレ、結構気持ち悪くなるし。
最も僕に選択肢などなかったわけであるが。
残念なことに。
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