異形ノ、天ヲ貫ク塔
あの後、チトセによって翠玉国に関する情報を頭に叩き込まれた——これは比喩ではなく直喩だ。めちゃくちゃ気持ち悪くなるわ、酷い頭痛に襲われるわで散々だった。
まあそのおかげで超短時間のうちに翠玉に関する情報を得ることができた。
そして姉さんの激励を受けながら比叡山の転送装置を使い、未だ自動で稼働する港(AI制御だそうだ)がある種子島へと移動し使節団である遣翠使と合流。
その後、大量にある船の残骸から動くものを探し、翌日の早朝に無事に出港。
今に至るというわけ。
艦橋の真下へ到着し、入口へと扉を開けようとすると先に金髪の女性が扉を開けて出てきた。
今回の使節団の団長である
「おっ、丁度艦内に戻るところだったか」
「はい、その通りです団長」
「あのねぇヒロシ君。昨日も言ったけど、ここは公式の場でないから曲直瀬、と呼んでも構わないよ。まあいいや。それより、待望の海、どうだった?」
にやけながら団長、じゃなくて曲直瀬が聞いてきた。
「なんか、凄く拍子抜けというかなんといううか……」
「わかるよ、その気持ち。私も最初そうだったから。全く、海から殆どの生物が絶滅するとか、一体過去に何があったのやら」
あきれたような口調で、そしてどこかあきらめたような目と共に曲直瀬が言った。
そんな会話をしているうちに艦がゆっくりとその向きを変える。
進路の変更、ということは今の艦の位置は丁度佐世保とかいう旧時代の港町辺りにいるはずだ。このことは昨日見た航路図に記されていたのでわかる。
そうした会話の後、いざ艦内に入ろうとすると。
一瞬だが、何か、妙な感覚がして思わず後ろを振り向く。そうして目に飛び込んできた光景に——絶句する。
「ま、曲直瀬、さん。あれ……なんですか?」
「うん? あーあれね。初めて見るとビックリするよねー」
それは塔であった。
茶色と赤黒い色、まるで人の血と黄土色の土とで練り混ぜたような色で出来ている雲があった。
塔の形で。
特筆すべきはその高さ。首をほぼ直角に折り曲げてもなお、先が見えない。天の先、宇宙まで達しているのではと思ってしまいそうだ。
「凄いよね、あの雲。なんか私達が生まれる前からあるらしいよ。ちなみにあの塔がある場所、出雲っていう場所なんだって」
「そ、そうなんですか。何というか『バベルの塔』みたいですね」
「何それ? 食べ物の名前?」
怪訝そうな顔と共に曲直瀬が聞いてくる。
「ご存じないんですか?『バベルの塔』というのは16世紀の画家ピーテル・ブリューゲル氏の作品の1つで——」
ちょっとまて。
え?
僕は今何を口走っているんだ?
「——そのモデルは紀元前6世紀に存在したバビロンのマルドゥク神殿の——」
突如脳内に無数の知らない情報が溢れ出す。
「——そもそもバベルの塔というのは——」
口が止まらない。
どうなってるんだ?
なんで僕、こんなこと知って——知らない、こんなこと知らない——。
そして意識が暗転する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます