第2章:後会【VERTEX】

戰遺都市ブカレスト編

実績システム、採用!

 ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。

 ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。ザーザー。


 その世界本島ワールド・アイランドより突き出る大半島ヨーロッパ。の内ライン川から西側は2301年6月10日、午後4時の時点での天候は雨、毎時15ミリの雨量。

 ……と、いうことになっていた。





〉会話ログ


「なんとなんと、これはたまげましたねえΣ(・□・;)」

「まさかこんなものが見つかるとは😕」

「いやはや本当に。ですがこれで……(✪ω✪)」

「そう! ようやくレン高原への道が拓かれるのですね🙌」

を解読できれば、ですよ皆様」

「おっとそうでしたな辻中佐(〃▽〃)」

「実際どうなのです? ゲットしたヴォイニッチ写本67~73ページと252~267ページの翻訳具合は❓」

「そうですねぇ、旧時代のデータも参照しながらなのでぇ……約1年ほどでしょうかねぇ」

「🙆、なるはやでな」

「わかりました」


「あああとあの旧時代産のプロトタ」


「で、の処分はどうする(・・?、一応任務ミッションは失敗となっているが」

「本来の証拠は持って帰っていない……が、期待以上の成果を得られましたからね(ゝ∀・)。ここは『隠し実績』ということにしましょう、ウケも良いことでしょうし😀」

「実、績(・・???」

「およ、ご存じない? 旧時代の『蒸気』とかいうゲームプラットフォームではやりこみの成果として展示することができたそうですよ( ・´ー・`)」

「ああわかりました、実績システムの採用で臣民プレイヤーの競争心をさらに高めるということですね=_=……であ、れ、ば」

「賛成ヾ(●゜▽゜●)♡!」

「☻!」

「👍!」

「(✪ω✪)!」

「(*´ω`)👍人👍(´ω`*)」

「👌」

「では、そのように手配しますかねぇ」


「全会一致、大変結構ですねぇ総統閣下」

「…………」

「大変ご喜びのようで、我ら臣下としても嬉しゅう存じますよぉ」


〉終了






「……良かったですねぇ『アダン』サン、運営政府からのお達しで帝国貢献録スコアボード評定ポイントはCのまま。変動はありません。それどころか実績『お宝ゲットだぜ!』を解禁したのでボーナスが出てますよ」

「マジか。じゃ、じゃあおれは」

「もちろんニューゲーム+はないですよ」

「そうか。何というか、ふう……取り敢えず一安心だ」

「そこまで警戒しなくてもいいのに。普通のことですよ? とはいえまーその気持ち少しはわかりますよ。ゲームオーバーなんていい心地しないでしょう?」

「ん、アンタ珍しいな。他のフレンドからはガチ目に馬鹿にされたんだが」

「ハハハハハ──ああ失礼。死を恐れるというのは面白い考えですねぇと改めて思ってしまいました。では私はこれで失礼しますねぇ」


 政府運営直属の配任者フィクサーである臣民キャラクター、『エヴスAves・フィロソフォス』は席を立つ。カランカランとこれまた古風な音と共に彼(ひょっとしたら中の人は彼女かもしれない)はルームアウトした。


ピロン♪

<ああ、支払いは私が既にしておきましたよ。コンティニューの祝いということで👍>


 そりゃあありがたいことだな。


 まだだ。念のため、もう少し……完全にエリアからエヴスが去るまで……



 さらに暫くして。


<おいブレイン、今の演技どうだったよ。小物感、出てたか?>

<うん、びみょう。ご主人様、あうと! 太股グローブの刑!>

<そうか。演技ってムズいな、っておい。なんか使い方微妙に間違ってる気がするぞそのネタ>

<そう? なんかこんな感じのお笑い番組があった気がしたんだけど>

<うーん。まぁいい。それよりも>

<わかっている。Führerbunker電子海の巣盗っハックした会話ログ、共有するね>

<おう、どれどれ>


 で、話は冒頭の会話ログに繋がるというわけだ。



<なんだこれはオッサン構文かよ。あいつらまーた会話ツールアップデートしたな?>

😓こんなのとか前なかったもんね。にしても相変わらず>

<いつも以上に平常運転しているなこの政府運営ども>


 おれは無言のままブレインとのチャットを続ける。まったく、他臣民キャラとの会話は色々と気使わなきゃいかないからしんどいが、ブレインとのチャットは全部本音でできるから楽だ。


<とにかくご主人様はもっと小物感出すべきですよ。今のだとなんか演技臭いです>

<わかったよ善処する。もっとオドオドすればいいんだな?>

<なーんか違うと思うよ>


 見せかけだけの、のっぺりとしたモーニングセットを「食べ」終えておれは席を立つ。カランコロン。カランカラン。特定の距離を電子が往復するより速く──外に出た。光に彩られる建築物、多様なスタイルの各臣民キャラ、規則正しい道路、そして雨がおれを迎える。


 ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。

 ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。ザーザー。

 雨が降る。雨が降っている。そういうことになっている。


<ブレイン、この演出をOFに。頼む>


 ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。ざあざあ。

 ざあざあ。ざあざあ。ざあざ■■■■■■。

 雨が消える。天候は回復した。そもそも上にはのっぺりがあるだけだ。


「チッ」


 舌打ちを1つして、おれは歩き出す。目の前に広がるは第四帝国。鋼鉄の自称、理想郷はどこまでも無表情だった。イヤな現実リアルだよ全く。






 ひょう‐じょう【表情】

 ①心中の感情・情緒を、顔つきや身振りに出しあらわすこと。また、そのあらわれたもの。

 ②比喩的に、社会のある面が持つ様相。


 む‐ひょうじょう 【無表情】

 表情のないこと。表情に乏しいこと。


 ひょう‐しょう【表象】

 ①象徴に同じ。

 ②[哲・心](Vorstellung ドイツ)知覚に基づいて意識に現れる外的対象の像。対象が現前げんぜんしている場合(知覚表象)、記憶によって再生される場合(記憶表象)、想像による場合(想像表象)がある。感覚的・具体的な点で概念や理念と区別される。


 ──広辞苑 第六版 編者新村出 より一部引用 

   ※ふりがなは筆者によるものです。










「こうして逢うのは初めてですね、『おべっかイテル』サン、『電探・元帥』サン、『砂漠ノ狐☆』サン」

「あなたこそそのような義体アバターであるとは、良い趣味をしていらっしゃる『もるひね中毒』サン。鉤十字がよい味を出していますな」

「ふふ、どうですカッコイイでしょう」

「ええ、ええ。さて皆様、わざわざこのような奇妙な逢い方となったのは──」

を防ぐため、ですな?」

「ですです。さてさて、本題に入りましょう。大藩国はちゃーんと罠にかかったようですな」

「破壊ではなく占領・前線基地化とは、見事なまでに常識的、まさに我らの狙い通りになっていますな」

「うんうん。『電探・元帥』サン、の調子はどうです?」

「既にインド洋各地に〔Tausend〕を眠らせていますよ。〔Eine Million〕も9割方準備できてます」

「うんうん。『もるひね中毒』サン、の調子はどうです?」

「ふふ、〔神殿〕、〔病院〕、〔植民〕、〔再征〕、〔金羊〕の5つが既に準備できてます。で、〔高貴〕、〔大聖〕、〔金民〕が製造中」

「うんうん。『砂漠ノ狐☆』サン、の調子はどうです?」

「〔イケニ〕、〔アレウァキ〕、〔ウェネティ〕、〔ゴート〕、〔スエービー〕、〔オボトリート〕、〔マッサゲタイ〕。等が既に編成を終えて残りも順次完成していくかと」

「よしよし。ではでは相手の出方にもよりますが、約半年後に進撃を開始するとしましょう……レン高原への道を造る為に、なによりも皆様方のエンターテインメントの為に、ねぇ」

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