第3章:変質【TRIO】

WHITE-COLLAR。

 ぴちゃん、と何処かで音が鳴った。


――ぴちゃん。ぴちゃん。ぴちゃん。


 また音が、鳴った。



 、は最も深い場所。全ては深き場所から始まり、深きから浅きに、やがて点は円柱に。

 つまり、は中心。又は発生地点。それとも起動地点。世界の。



 第四帝国 ノード・ゼロ地点『ブレッド』。






 崩壊した 聖母被昇天教会Cerkev Marijinega vnebovzetja。そこに唯一残された下向きの階段を999段下ると、にたどり着く。


 、は数多の無表情で覆われていた。全て艶のみの、黒。光はなく、それ故に内部構造が実際どうなっているか、誰にもわからない。

 運営政府の一人は言う。


、はいきものなのだから――つまりだね、刻々と震え小刻みに慄きながら変態していく――だから構造なんてわかる筈ないだろう」



 今、は湿っていた。

 空気中に格納しきれない水分が溢れだし四面を湿らせる。更に足元に広がるオイルと奇妙な結合を見せた結果、何とも形容しがたい不快さを醸し出す。


 、には子宮があった。鋼鉄の子宮は小刻みに震え刻々と慄きながら拍動と鼓動を続ける。

 やがて中心部が


  くぱぁ。


 と裂け


   べちゃり。


 と子を産み落とす。


  くぱぁ。べちゃり。 くぱぁ。べちゃりべちゃり。 くぱぁ。べちゃり。 くぱぁ。べちゃり。 


 そんなことが計6回起きた。


 少女らは不快に塗れていたが起きる様子はない。


 暫くして子宮の側面にある2つの円状突起から左右それぞれ3つずつ、卵が産み落とされる。卵には瞳があり、管があった。

 管は器用な所作で立ち上がり、皺だらけの卵は


   とてとて。とてとて。とてとてとて。


 と歩き出す。


 そうして皺だらけの卵は少女らと結合し、彼女らの瞳に光が入り込んだ。


 立ち上がり、お互いを見る。


「ごきげんよう、御姉様」「「ごきげんよう、御姉様」」「ごきげんよう、御姉様」「ごきげんよう、御姉様」「ごきげんよう、御姉様」


 ニッコリと笑い挨拶を交わす。

 名を呼びあう。



「SHYLOCK。」「「JEKYLL。」」「「HYDE。」」「JOCASTA。」

「MELISANDE。」「IRINA。」


 今や、は黒一色ではなかった。対色が混じり合い、明確な輪郭を描く。輪郭は

     細蟹と。

        蠼螋と。

           馬陸と。

              蜚蠊と。

                 螧蛯と。

                    蠏蟹が。



 こうして大いなる流れに異色の械人かいじんが加わったのだ。

                    







 もし進化の仮説が真実であるのならば、生物というのは非生物から生じたのであるに違いない。

 ――トマス・ヘンリー・ハクスリー(1825~1895)、生物学者


 凡人の脳みそは、どれもこれも似通っている。全員、一つの同じ鋳型からつくられている。同じ場面に遭遇すると、誰もかれもがまったく同じことを思いつき、さらに各人のさもしい魂胆が加わる。

 ――アルトゥル・ショーペンハウアー(1788~1860)、哲学者

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