それぞれの旅路。

果ての激戦

時系列をほんの少し、遡り……

2299年1月2日。


グアテマラ共和国イサバル県、イサバル湖の北2キロの地点にて。







 変異した命の森。200年前に発生した宇宙的災害により降り注ぎ、未だ残留する厖大なガンマ線が瘴気のように漂い、薄暗いとなる。


 それを眺めるのは石のみで構成された、建造物群。シウダー・ブランカ白い街とも呼ばれる未知の文明が遺した、家、広場、スポーツ球戯施設、墓、生贄施設、ピラミッド。

 彼らはとうに色褪せ、語る言葉を持たず、ただ在るのみ。


 今、そこに


 ──ドン、ドン、ドン……DOMM!!


 無粋な


 ──ズカカカカッ、BARARARARAッ!!


 銃弾の発砲音と


 ──ガ、キィンッ!! ギリギリギリッ…………ボ、キィッ!!


 妖刀とナノブレイドがぶつかり合う──

 両者一旦離れて。


「フハハハハハッ、そちの近接武器はもう品切れかッ?」

「残念だな、いくらでも生やせるんだよ!」


 再び、影は交差する。

 硝煙とブレイドの破片、火花と紫色の血が、変異した命の森にて、無数の呪符と共に舞い踊る。






 両者は既にこうした戦いを30分にも渡って続けていた。

 元々互いに予定にはない出会い、遭遇戦。故に前持った連携というものはなく、それぞれが、それぞれの相手にただ全力を出すタイマンするのみ。


ーれの優秀なる部下たちよ、そちらの状況は如何──」


 BA、BBANN!!


 鉛玉が通信機、つまりスマホAIpphoneを破壊しようと熱い手を伸ばし。


「人が話す時は邪魔をしてはならぬ。そう教わらないのか、卑劣な第四帝国からくりのガラクタ人よッ?」

「たわけ。敵の通信を絶つのは常識だろうが」


 余裕の動きで銃弾を回避、スマホAIpphoneを無事に守った大嶽ケ丸おおたけまるは余裕の表情で問いかける。

 それに対し目の前の男は呆れた様子。そして返答しながら両腕を前へ伸ばす。「前へならえ!」のポーズだ。


「ナノブレイド、射出」


 両腕に仕込まれていた刃が放たれる! そのスピードは人間に比べてはるかに高い身体能力を持つ大嶽ケ丸おおたけまるにとって実に、のろい。なので回避は容易、ではなかった。


「何ッ!?」


 並行して飛んでくるブレイド。それが内側から弾け、無数の破片となり辺りに舞い散る。そして破片群は互いにぶつかり合い、次々と軌道を変えながら大嶽ケ丸おおたけまるに迫る!

 向かってくるが突然包囲するに変わり、反応が遅れ、すぐにその代償は支払われた。


 一際大きな大嶽ケ丸おおたけまるの両膝を打ち砕く!


「ぐう、ッッ……」


 痛みに襲われるも、地に伏せない。ここは邪射被爆妖鬼人ヤマトアヤカシオニの頑強さを褒めるべきか。しかしその移動力は大幅に減衰した。


「ふん。これで銃弾を避けるのは難しくなったな。お前みたいなには銃が効かない。……というなんてのは嘘だな」


 だってお前、避けまくっていたしな。と続けて男は言う。そしてゆっくりと近づきながら背負っていたI.W.P模倣武器、M97トレンチ・ガンを掲げて大嶽ケ丸おおたけまるの眉間に突き付ける。額と銃口の距離はスラグ弾一発ぶん。


もっと詰め0距離にしないのかッ?」

「おっと、その手には乗らねぇよ。てめぇが触れた物を溶かすとかいう力を持っていたらクソやべーだろうが。さて、教えてもらおうか……超々先史遺物シャッガイの遺物の1つ、『イエロの鍵』、出してもらおうか」

「やはりお主らも探しているのだな。だが大人しく出すと思うのか?」

「出すさ。何故なら、お前らの命は常に1つ。喪えば二度と復元できない、脆弱なタンパク質。弱き存在なのだから」


 その答えに大嶽ケ丸おおたけまるはほんの少し、意外そうな表情を見せる。


「お主……他の卑劣な第四帝国からくりのガラクタ人とはだいぶ違うようだなッ?」

「なんだと? あんまし舐めるなよ。いいか、もう一回聞くぞ、超々先シャッガ

「残念ながらここにはないぞッ。以前寄った黄金郷エル・ドラード伝説の総本山、グアタビタ湖にもなッ。その代わりに面白いものを見つけたのだがなァ。あと、もうつまらぬ演技はしなくてもよいぞ?」

「なんだと」


 最後の台詞に対し、明らかな狼狽をみせる男。1歩、後ずさってしまう。仮に人間であれば顔の色が変化している、と書くところなのだが。

 肝心の男──械人かいじんの顔色は、意外なことにほんの僅かにしていた。


「お主、無理して悪役を演じる必要などないぞッ…………安心せいこの周囲5キロ圏内での通信は既に妨害済みである故なァ」


 その時になって男はようやく気付く。いつの間にか戦場の周囲には大量の呪符が舞っていたのだ。慌てて「主天使キュリオテス、デュークA13、応答しろ!」と今更呼びかけるが……反応なし。


「まるであの時のチャフみたいだ……嫌なことを思い出させてくれるなオイ。──どうしてだと?」

「お主があまりにも人間臭いのよ、今までの卑劣な第四帝国からくりのガラクタと違ってなァ。そして何より、罪悪の色が、見えるんでなァ」


 ニヤリ、と笑みを浮かべる大嶽ケ丸おおたけまる。その紫の双眸には懐かしさの色が浮かんでいた。


ーれも昔似たような事をしたことがあってなァ。、とかでいう、だったかァ? 敢えて悪役を演じ、正義のに倒され、というわけだッ。まったく田村丸に鈴鹿め、数人がかりで攻めて来おって……」


 突然始まる大嶽ケ丸おおたけまるの回想話に毒気を抜かれる男。先程までの激戦はどこかへ飛んで行ってしまった。


「そうそう、お主、名はなんというッ?」

「え? ああ、俺は──」


 あまりにも自然というか、緊張感がないというか。ともかく、男はつい馬鹿正直に返答しかけて。


 大嶽ケ丸おおたけまるの懐からの音声が遮る。






〈主様ッ、突然異形の神が出現、わらわを無視して物凄い速さでそちらへと向かっております!〉

〈こちら鈴ズ鹿すずかです、そちらの方角に裏切りディアドコイの大馬鹿鳥が向かっております、念の為お気を付けて──〉





 流れが、変わった。

 変異した命の森が、ざわめく。

 かくして偶然に思われた遭遇は急転直下を見せる。

 彼らとの出会いがどう世界を動かすのか。


 それを識る者は、大いなる流れのみ。



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