あだ名

 ここに来るのは「暗殺未遂事件」以来だから大体半年ぶりかな? そう思いながら清所門せいしょもんをくぐり抜け、会議場がある清涼殿せいりょうでんへと向かう。

 その途中で恐らく僕を待っていたのであろう兄さんと合流した。


「兄さん。待っていてくれたのですか?」

「ああ。急に呼び出してごめんな。ヒロシは端末を持っていないから誰に送るか悩んだんだが、こうして来てくれたってことは博士に送って正解だったようだな」

「はい! 丁度昼食を一緒にしてたので、その時に」

「そうか。んじゃ、行こうか」


 兄さんと並んで歩き始める。途中、気になることを僕は尋ねた。


「ところでどうして僕が呼ばれたのですか?」

「1つは今回の作戦で活躍したお前に陛下が直々にお礼を言いたいということだ。なにせもしヒロシがいなかったら俺達は完全に敗北、滅亡一直線だっただろうからな。で、もう1つは早速次の任務が決まったからそれを知らせるためだ」

「もう次の任務が⁉」


 僕は少し驚いた。今までこんなことはなかったからだ。


「そうだ。前回の任務で色々と苦労を掛けたばかりなのに、すまないと思っている」


 立ち止まり、頭を下げながら兄さんはそう言った。


「いいんです! 謝らないで下さい! それよりも新しい任務というのはどんな内容なんです?」

「あ、ああ。それはだな──」


 そこまで言いかけた時、唐突に第三者の声が辺りに響いた。


「ややっ、そこにいらっしゃるのは「転生者」殿と「勇者」殿ではありませんか!」


 声がした方向に顔を向けると小走りでこちらに向かってくる宇喜多大臣の姿があった。

 彼はこの国の主要幹部である「十干支じっかんし」の1人で、主に法務を担当していて、大昔21世紀を読むことを趣味としているちょっと変わった人だ。

 そして誰にでもおべっかを使うことで有名だった。


 

 そんな彼は僕たちにぶつかる寸前でキィィッ、とブレーキ音が聞こえそうなほどの急減速を披露して器用に止まった。

 そしてハンカチで顔の汗をササッと拭い、もみ手をしながらマシンガンの如く喋り出した。


「お早うございますお二方。本日は御前会議に途中参加なさる「勇者」、ヒロシ様をお迎えするために参上致しました。先の戦いでは大変素晴らしいご活躍をなさったそうで! 貴方様のおかげで我らは救われた、と言っても過言ではございません。いち神国臣民としてお礼を申し上げます。そして「」、天野様。本日もご機嫌麗しく存じます。貴方様が数十年程前にそれまで敗戦続きであった我らの陣営に与して以降、今日までどうにか存続することができたのはまさに…………」


 凄まじいことにここまでの間息継ぎナシである。しゃべるスピードもそうだがどんな肺活量しているんだこの人。


「わかった、わかったよ宇喜多さん。ところで、その「転生者」とかいうあだ名いい加減にやめてほしいのだが……滅茶苦茶恥ずかしいんだよそれ。暦とか他の人も最近そう呼び始めているし」


 兄さんは顔どころか耳まで赤くなっている。本当に恥ずかしいようだ。


「何をおっしゃいますか! あの突撃しか能のない柴田大臣と違い様々な戦術に精通しているだけでなく旧時代の文化にも造詣がおありである! 「転生者」の二つ名はまさに天野様のためにある! といっても……」


 この後も宇喜多大臣のマシンガントーク(という名の褒め殺し)は清涼殿に到着するまで続いた。

 決して悪い人ではないのだが……

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