サバ缶
「
数少ない友人の声に思わず頬が緩む。相変わらずの達磨みたいな体を揺らし、大量の荷物を掲げながらこちらへ向かってきた。
その姿は少し瘦せた気がした。
「おう。撤退戦に防衛戦、最近大活躍そうじゃないか。俺も嬉しいよ」
「ありがとうございます。でも僕は相変わらず意識ないんで実感ないんですが」
「ふむ? 俺ァそんなに深く考える必要ないと思うぞ。過程がどうあれ、お前は立派に務めを果たした。それでいいと思うがなぁ」
博士はうんうんと頷く。
「そんなものでしょうか?」
「おうとも。こういったことはシンプルに考えるのが一番だ! ところで配給は受け取ったか?」
「着いたばかりなのでこれからですが」
「じゃぁこの後一緒に食事、どうだ?ああ、そっちの分は受け取んなくていいぜ。俺のを分けてあるからさ!」
もちろん快諾した。
配給所の外へと向かい適当な場所を探す。辺りは瓦礫だらけなので探すのに少し手間がかかったが、見つけることができた。
かつては飲食店だったのだろう。傾き今にも倒れてきそうな看板には[ E UBA ]と書かれている(ボロボロなため半分以上読めない)。
そして手頃なテーブル、イスを借りて腰を下ろす。
「それよっ、と」
博士が持って来た荷物の中から缶詰を取り出し投げて寄越してくれた。
「おっとと。これは……ええと『サバの味噌煮 道釧 産サバ使用』ですか。ちょっと聞きたいんですけど」
「もぐもぐ……ん? どした?」
博士は既にいくつか缶詰を開けて美味しいそうにほおばっていた(焼き鳥&煮卵タレ風味と書かれている)。
「この、サバ? とかいうの、一体なんです? 食べ物の名前ですか?」
その言葉に博士はポカンとした顔をした。これが俗に言う鳩が豆鉄砲を食ったような、というやつだろうか。
「あー。いや、そうか。教育の優先度低いもんなぁ。海産物は。……そうだ。サバは魚の一種だ。まあ分類はどうでもいい。そいつは、食い物だ」
「食べ物」
「そしてとてもとても重要なことだが、うまい」
「……!! いただきます!」
こうして僕は人生初のサバを食べた。
超、おいしかった!
僕がサバ缶を食べ終わる頃には博士は既に10個目を開けていた(いけだのささみ100%国産肉使用。とってもヘルシー! と書かれている)。
「そういえば博士さん、前会った時より少し痩せましたか?」
「うん? それは例の撤退戦の時に俺の能力を使ったからさ」
「あっ……」
しまった、無神経なことを聞いてしまったかな。
「気にしなくていい。俺は自分の役割を全うしただけさ。ま、おかげで貯蓄が減っちまったからこうして再び蓄えているんだけどな!」
そこまで話した所で博士のポケットが震えた。何かメッセージを受信したのだろうか?
「何だ急に……? 今日は何の任務もないハズだが」
端末を取り出し、メッセージの内容を確認した博士は少し驚いた様子でこちらを見る。
「おいヒロシ、お前なんか御前会議に呼ばれてるぞ」
「えっ? 本当に? 兄さん、姉さんからは何も聞いていないんですが」
「とすると緊急で決まったのか? 何にせよ取り敢えず急いで行った方がいい」
「ですね。じゃあ、ちょっと行ってきます! 缶詰ありがとうございました!」
「おう。頑張ってな!」
別れの挨拶もそこそこに僕は配給所への道を引き返して急いで御所へと向かった。
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