翠玉の実力
第4章 ──金浦要塞防衛戦──下編
我は死なり、世界の破壊者なり
──J・ロバート・オッペンハイマー
十分に発達した魔法技術は、科学と見分けがつかない
──A・P・ウェルズ
大地を轟音で満たしながら万を超える異形生命体の群れが呂玲へと迫る!
目が5つあるもの、
喉仏より顔が生えているもの、
顔のパーツが全て舌になっているもの、
八本足のマグロが生えているもの、
腕が20本あるもの、
内臓全てをさらけ出しているもの、
バッタの胴体に顔が4つ生えたもの、
走りながら脱皮しているもの、
目から触手がはみ出ているもの、
肋骨で這って来るもの、
顔と臀部の位置が逆転しているもの、
全身の皮膚が裏返っているもの、
全身が腐り落ちているもの、
水死体のように膨れ上がっているもの、
奇妙奇天烈なゆかいななかまたち!
だが、空より、海より、それを拒まんと命ずる者達がいた。
空よりは爆撃機の後方に控えるアグスタウェストランドAW101汎用ヘリコプター(EH101 AEW、早期警戒システム搭載型)より冷徹な、凛とした声が響く。
「
海よりは戦艦群のやや後方に位置する巡洋艦、「プリンツ・ユージン」より穏やか、けれども芯が強い声が響く。
「
爆弾が、砲撃が迫る木枯らしにも似た音が周囲に鳴り響く。それは死神の宣告であった。
”安心されよ! 我はその形で差別という無粋なことはせぬ。遠慮されるな。その命、平等に刈り取ろうではないか!”
こうして死神は一斉に
それはあらゆる生き物が目指すところの
爆風が無数の着弾地点を中心として逆円錐状に広がり、発生した熱は異形をミディアムレアで焼き払い、爆轟によりまき散らされる無数の破片は異形を雑に切り刻む。
果たして異形生命体は己の命(これを生きていると仮定すれば、だが)を次々と死神に捧げていった。
だが死神とて万能ではない。稀にその刃からすり抜け
そんな彼らにはまるで
だが、
それでも、
なお突撃を敢行せんとする異形がほんの十数体。
しかし、その蛮勇は結局のところ彼らの収穫される時間をほんの数秒延ばしただけに過ぎなかった。
なぜなら、その先に待ち構えるはこの国で2番目に強い者であるから。
「
呂玲は自身が背負っている巨大な大太刀を頭上で、時に角度を変えながら回し続ける。ただそれだけの簡単な武技であったがその効果は絶大だ。
彼女の片腕の長さと大太刀の長さ、柄の部分を除いても合計して3メートル以上。つまり彼女を起点として直径約6メートルもの広範囲を僅か一秒未満で高速回転するその刃に次々と異形が絡めとられ──強烈な遠心力により外へ押し飛ばされる!
当然外に待ち受けるは幾重にも張り巡らされた死神の刃。かくして彼らはその命を刈り取られることと相成った。
このようなプロセスを経て数万もの異形生命体の群れはあっという間に全滅したのである。
その衝撃的な光景をヒロシをはじめとする
「何という火力。本官は初めてこれ程の大火力を見ましたぞ!」
「す、すごい。あんなにたくさん『ばけもの』がいたのに……」
「本当に恐るべき練度だな……正直言って脱帽ものだよこれは」
「
「……あのね、それよりも称賛されるべきは今『その身一つで戦っている兵士達』の方よ。かれらがその命を懸けて戦ったから今の翠玉が生き延びてこられたの。そのことを忘れてはダメよ、無形?」
自身の能力を持ち上げられ意外と満更でもなさそうな翡紅であったが、その一方で思うところがあるのだろう。壁上よりしゃがんで無形となるべく目線を合わせたうえで教え諭すようにゆっくりと無形の頭を撫でながらそう言った。
彼女は彼女で特に反発する様子もなく素直にその言葉に頷いている。よい師弟関係、とでも言えばいいのだろうか。
それにしても、とズキズキする頭をそっと抑えながらこの戦闘を振り返ってふと思う。かなり危ういやり方だぞ、と。
この戦法はいわば呂玲以外の兵士がミス、すなわち同士討ちをしないことが絶対条件だ。陸の各種砲による攻撃はまだいい。問題は爆撃と艦砲射撃だろう。少しでも測的を誤ればたちまちのうちに「囮」役の呂玲を傷付けてしまう。そうなれば間違いなく異形生命体の群れは金浦要塞に向かうだろう。
そのような事態になってしまえばどうやっても確実に同士討ちが発生する。
だからもう一度言うけど翠玉の兵士達のうち誰かが一人でもミスれば……僕たちの敗北だ。
幸いにも今回は勝ったからよかったものを。
……ん? まてよ。
あれ?
何でそんなこと知っているんだ僕は?
何でこんな難しい事を考えられるんだ?
あれ?
何か、おかしい。一体誰の、こんなことチトセの能力でぶち込まれた情報にもない……
あれ?
ずつうがどんどんいたくなってくる。
僕はその奇妙な感覚に意識を奪われそうになるが──呂玲の
「まだ勝負は終わってねぇ! そこに隠れている奴、出て来やがれ!」
呂玲が厳しい顔で数キロ先の小高い丘を睨み付けている。と、ある一点が盛り上がり何かが這い出て来る!
その姿は正しく異形であった。
全体のシルエットはギリギリ人型であった。……特に下半身は完全にヒトと同じだ。問題は上半身。色々と表現の仕方はあるだろうが僕には歪な
その肌は例によって極彩色。思わず目を背けてしまうような鮮やかで背徳的な数々の色。全身を奇妙な粘液で覆い、細かい無数の血管がピクピクと自我を持つように蠢く。その
気持ち悪いことに「顔」は3つあり時たまその位置をランダムに入れ替えている。形容しがたい水音と共に。
と、ソイツは汚らしい臭気をまき散らしながら3つの口でもって時には息を合わせて、時には各々が勝手にしゃべり始めた。なので大変聴きづらいはず。
だが実際には強制的に意味不明の言語を脳内に刻みつけられるような感覚に襲われ、今にも吐きそうだ。
「「「あア、わたシ達のン仲間ガアぁぁ、またばらばらニなつてしむオうた」」」
「nJaa4Ptu。ごノまマではヴぉん方におもぢ還れぬ。おもヂ孵れぬ」「アんというこト。あントイウコと、aんというこto」「しね、シネ、死ね、子ね、梓ね、氏ね、
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「「「iデ8、
その言葉と共に大地が蠢動し──轟音と共に大地がひび割れる。
どこからからっぱの音が鳴り響いた。
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