海獣現わる

 昨日、海は命の気配を感じないということを話したと思う。

 あれ、僕の誤解でした。生き物いました! 

 出来れば一生会いたくない部類の。


















 異変は今日の昼過ぎに起きた。

 その時、昨日の歓迎会の余韻が抜けておらず皆だらけていたのだが突如部屋の赤ランプがビー‼ ビー‼ と警報を鳴らしたのだ。


「な、何事――⁉」


 慌てて曲直瀬が懐よりタブレット端末を取り出し何が起きたのかを確認する。


「嘘だろ……⁉ 未確認物体をレーダーが感知したみたいだ」


 その顔は少し青ざめている。一目で動揺しているとわかった。


「団長、直ちに艦橋へ行きこの目で確認するべきです」


 その様子を見てすぐに力道が意見具申をする。その言葉に曲直瀬は頷いた。


「その通りね。全員直ちに艦橋に行きましょう!」


 そして数分後。

 僕たちは艦橋に到着し、艦橋前方にある操舵装置の横に取り付けられているレーダーが示す4時方向へと目を向けた。

 そして全員が驚愕する。



「「「「何だありゃぁ⁉」」」」



 そこには…………名づけるとしたら多分「」となるだろう巨大な生物がいた。


 見た目としては半年ほど前に見た『図説! 古代の海洋生物』に紹介されていた中生代白亜紀に生息していた最大クラスの首長竜、エラスモサウルスに似ている。

 但しその大きさは一回り以上デカい。頭のサイズは縦に4m以上、横に7m以上と資料映像で見たことのある大型トラック並みかそれ以上のサイズだ。その巨大な頭部を支えている長い首は最低でも10mはある。その太さも直径1mはありそうだ。

 波に見え隠れしているので正確に把握できないがその長く太い首が繋がっている胴体は20m以上。その全身は固そうな鋭利なトゲで覆われている。

 そんな見た目なのでとても草食には見えない。

 そして最も肝心なのはだ。その色は……極彩色。間違いない。アレ海獣は異形生命体だ!


 そんな化け物がゆっくりと、だが確実にこの艦に近づいて来ている。この艦は輸送船だ。言うまでもなく武装は一切ないから追い払うすべがない。もしこのまま襲われでもしたら一発アウトだ。


「文献でその存在は知っておりましたが、本官、海に生息する異形生命体は初めて目にしました」

「わたしも初めて見た」


 力道と睡蓮がお互いに感想を言い合う。


「不味いわね。どうにか逃げられないかしら」


 曲直瀬は端末を急いで操作し進路変更を試みようとする。ふと覗き込んで見るとこんな表示があった。


 ▼現在のルート 

  出発港:種子島国際第3輸送拠点

  到着港:上海、洋山深水港ようざんしんすいこう


 端末には簡単な地図が表示されている。日本列島の九州地方、沖縄、東シナ海を挟んで中国沿岸部、そして台湾が描かれている。

 同時に艦の航路も簡易的ではあるが表示されていた。種子島を出発、九州に沿って北上し、佐世保港の辺りで西に変針しそのまま上海を目指す、という感じだ。

 一方、画面上部には別枠で到着港変更の一覧があった。


 ▽到着港変更一覧

  国内:鹿児島港、志布志国際ターミナル、長崎港、那覇港、本部港もとぶこう天願てんがん港、済州チェジュ港、第1メタンハイドレート採掘基地、第2メタンハイドレート採掘基地、東沖島

  国外:八里パーリー港、高雄港、安平あんぴ


 曲直瀬は取り敢えず到着港一覧から適当なものを選び艦の進路を変更しようとした。が、次の表示が出現し操作をキャンセルされてしまう。


 注意!

 現在の管理者ではルート変更は出来ません! 

 変更したい場合はパスワードの入力をお願いします。


「えっ? 何で? 進路変更ができなくなってる……」


 曲直瀬は呆然としながらポツリと呟く。どうも事態は想像以上に不味いようだ。

というか進路変更ができないって、そんなことあるだろうか普通。何か言い知れない不気味なモノが僕の心の中を満たす。


「AI制御がダメなら……力道! 舵を手動で変更して!」

「了解です!」


 その言葉に力道が急いで操舵装置に飛びつく。そして動かそうと試みるも全くの無駄に終わる。装置のハンドルは何故か置物みたいにびくともしない。


「団長、ダメです! 全く動きません!」

「あんたの能力使いなさいよ!」

「そんなことしたら最悪壊れてしまいますよ!」


 そんな緊迫したやり取りの中海獣を双眼鏡で見ていた睡蓮が慌てた様子で叫ぶ。


「皆! あれ見て!」


 僕達が一斉に海獣の方向を見ると、海獣はその大きな口をがぱり、と開いていた。  

 その口内からは明るい光が現れ、どんどんと光量が増していく。


そして……を発射した! 

立て続けに2発も。


「「「なっ……!」」」


 ズドン! ドッカァァァン‼


 という音が凄まじい振動と共に艦橋を襲う。命中したのだ! 僕は咄嗟に睡蓮を、力道は曲直瀬の上に覆い被さり、振動により割れた窓ガラスの破片から2人の身を守る。そして顔を上げると直ぐに異臭に気付く。

 言うまでもなく光弾の命中箇所にて火災が発生しているようだ。急いで離れたほうが良さそうだが、その前に。


「睡蓮、ケガはない?」

「だ、大丈夫……ヒロシ兄ィは?」

「こっちは切り傷程度だから大丈夫だ」


 睡蓮は安心したように息を吐く。曲直瀬と力道の方を見ると向こうも同じ状態のようだ。曲直瀬が急いで被害状況を端末で確認する。


「なんていうことだ……ヤツの光弾は後甲板と機関部に命中したらしい。艦の速度が一気に低下している……このままだとじきに自力航行出来なくなるだろうな」


 怒りと悔しさで顔をゆがめながら吐き捨てるように言った。


「となればウダウダしている場合じゃない! 総員直ちに退艦せよ!」


「「「了解!」」」

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