あと49分。
激闘は続く。
「だっ誰かたす……げ…………ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ
……■■■■■■……
……XruZrhArhArhArhArhArhArhNrr!
……RUxRHzRHaRHaRHaRHaRHaRHaRRn!」
まるで口が二つあるような
四足歩行の不定形、クティーラの口吻から触腕鋏が二つ。勢いよく、おれと
「
「ハハハ、ァッ!」
一瞬のうちに迎撃に入るのは
それぞれ手にした錫杖と
――――QqqtyaxzaaaA!
その直後、死角より八脚を器用に操り、滑るように現れたボクルグが津波の如く波打つ巨鋏をおれたちの足元に向け振るう!
比喩ではなく直喩。
本当に巨鋏が津波のように広がり、空間を埋め尽くしながら迫り――まずい、氷漬けのままのおれは避けることが――
「ザクウェ殿、アダン殿にかけた魔法の解除を!」
「チッ、この忙しいときによ」
その苛立たし気な言葉と共に氷が瞬時に消える。同時に
邪神の連携攻撃を見事にいなす。
「
「エっ、でも時間ーかかるじャないですカそれ。それじャー不味イっテ」
「お、確かに一理ありますね」
「閣下、マヨネーずの食べ過ギでボケてるとオイラ思うヨ……」
軽いやり取りと共に適当な瓦礫の上に避難。新たな邪神どもを見下ろす形となる。それは先程の李が言うところの神――
「両神共に前回――3年前の台湾沖と姿形がだいぶ違いますね。ボクルグはまぁ小さくなっただけ、と言えますが。クティーラは……とても蛸には見えない」
実際その通りであった。
一体いつから潜んでいたのか、IRINA(イリーナ)に寄生(?)するような形で奇襲を敢行したその姿、一言で表せば蛆の集合体。
ぬたぬたと薄気味悪く光る奴ら一匹一匹から汚水が流れ出て、群れとなることで小川は大河に。大河を纏った奴らはまるで
見よ、実際にギコウキが切り裂いた触腕鋏はのたうち、少数の犠牲者を置いてきぼりにしながら本体と合流していくではないか。そうして合流すれば何事もなかったかのように復活するのだ。
……XruZrhArhArhArhArhArhArhNrr!
……GUxGHzGHaGHaGHaGHaGHaGHaGGn!
クティーラ、怪音と共に復活した触腕鋏を頭上に掲げ、左右に揺らす。その小刻みが表すのは威嚇。小動物が行えば癒しとなるその行動とて、彼の如き邪神の手にかかればげに、悍ましき。
「ふむぅ。擬態、をもう一段階昇華させた結果がこれなのでしょうか。いずれにしてもクティーラとボクルグ、共に物理が効きにくいようですね。いい
彼の顔に恐れの色はなく。
「ははは、予備戦力を持っているのはそちらだけではないんですよねぇ」
そう言って男は懐から
横6センチ、縦9センチ程のそれには何やらデフォルメされた龍……それとも昆虫? を掛け合わせたようなキャラクターが描かれている。
「辻君と違って私は一段階上のアクセス権を所有していますから、こういうとき楽でいいものです。では――
〖
――スラエタオナ。きみに決めた」
李が
「あふぅ……ん、今何年?」
はちきれんばかりの胸部を揺らしつつ、気だるげに欠伸を一つ。そして目をこすりながら伸び。
彼女は裸であった。
そしてとてもこの世のものとは思えないほど奇妙な美しさ。
身長は軽く見積もっても2メートルはある。
純白の足元まで伸ばした髪。
側頭部から後ろに向かって伸びる鱗に覆われた双角。
余分な脂肪と毛がない肌は七色に輝き、表面をほのかに粉塵が舞う。
胸部にはひし形の水晶が埋め込まれていて、臓器のように鼓動する。
臀部やや上の位置から伸びる柔軟な尻尾はそれ単体で身長と同じ長さを誇り、持ち主の腕2本分より太い。
そして振り返りこちらを見る目。違和感しかない。形容しがたい、違和感。
「今年は2301年だよ」
「そうなの。……って予定と違う⁉」
彼女にとって今の年号はよほどの想定外らしい。細かった両目はパチッと限界まで見開かれて――あ。わかった、違和感の正体。
「想定外の事態が発生したという事、なのね閣下?」
「流石主力のお嬢さんだ。残念ながら詳しく話す時間もないけれど」
「ふぅん。どれを倒せばいいの?」
「そうだね――ボクルグの方を。戦場はきみが決めていい。指定の場所に送ってあげよう。寝起きのところすまないね」
「いいの。つい先ほど目、覚まされちゃぅたから――ね?」
「ね」のタイミングで前を向くスラエタオナ。
獰猛な笑みと共に彼女の肉体が拡張されていく。
見よ、双角はいきり立ちながら前面を向き、背からは巨大な翼が堂々と顕現し、腰からは膜状の器官がまるでロングスカートのように下半身全体を覆い、巨大な尾は更に膨張し共に柔軟を失う。
副交感神経の働きにより各部位の静脈は血流で満たされ、同時に表層導出静脈が圧迫・閉塞された――拡張と硬化はこういったプロセスによるものであり、各々の内部構造は
鋭い犬歯を魅せながら吐く息はどこか扇情的かつ――圧倒的な獣性が。
そして限界まで見開かれた双眸に動きはない。
これが違和感の正体、すなわち複眼だ。
「~~~ぁあ、うちらのウチの近所に招待してあげて」
言い終えるより早くスラエタオナの体はボクルグの頭上に。強靭な尾が頭部を強打し、更に顔面をむんずと掴む。
そのタイミングで李が言った。
「よろしい。では楽しんでおいで――
〖
術が発動したと同時に彼らの姿がかき消える。
「レベル……38万、戦闘力のつもりか?」
「はは、まさか。この数字は単なる距離ですよ」
そう言いながら李は上を指さしつつ見上げた。
「上?」
<……! まさか>
視界の隅ではブレインがアワアワとした表情を見せている。滅多に見られないその慌てぶりに底冷えるような考えが這い上がってくる。
「察したようですね。では次に……
「任された」
言われるまでもなく彼は既にクティーラと交戦を始めていた。が、正式な命令を受け取ったことで何の遠慮もなく叩くことができる――と思ったらしい。その身に纏う闘気が密度を増す。
「場所を変えるとしよう。
袖の内側から現れたトンファーを装備し、クティーラの真下に滑り込み――強烈な突き上げ攻撃!
……XvuZxhAyhAyhAyhAyhAyhAyhNrr!
……GUxGHzGHaGHaGHaGHaGHaGHaGGn!
最低でも100キロを超えるであろうクティーラの
「ねーネー閣下閣下、オイラの出番は?」
「大丈夫、ちゃんと後にあるからね」
「( ,,●>●,)ノノノ」
「さて。念のために――
〖
「……!」
李が
「んー」
「フゥハハハハハァアアア! いつまでイツマデ待たせるのか閣下ァ、待ちくたびれたぞ!」
「状況はわかっているね。
「んんんー」
「あい待ったましたぁ!」
妖怪どもが喜びの声をあげる中、最上層から物凄い振動が伝わってくる。それはまさに激闘がより一層の密度を獲得した証であった。
【
&
参戦!】
一方時を同じくして。
太陽系、第三番惑星の
(前方に広がるは黒い岩石の平野、側面に広がるは暗黒と微かな光)
(そして背面には――所々腐り落ちた母なる星)
(得意げな鳴き声)
(彼は波打つ巨鋏を飛膜に変え、自在に推進する)
(そこに迷いはなく、一直線に地上へと)
(着地音)
(玄武岩が弾け、岩埃が舞う)
(先客を追いかけ、翼をはためかせながらもう片方の生物も着地)
(こちらは軽やかに。岩埃も少ない)
ふぅん。やるじゃん。
(先客――ボクルグの鋭い咆哮)
(飛膜は再び巨鋏に変形し、勢いよく前面に伸びる)
おっと。
(もう片方の生物――スラエタオナは地球に居た時よりも遥かに軽やかな動きでそれを回避する)
(この場所の重力が1/6しかないせいである)
んー、見た感じ水の塊っぽいアンタがこうやって無重力・低重力状態でも活動できるなんて――ウザ。こうしてウチの傍まで連れてくればそれでおしまい、って思ったのに。
はぁー。
こっちは寝起きだから色々辛いってのに!
(楽しげな笑い声)
(ボクルグの形状がまた、波打ちながら変わる)
(蟹のような姿から、海老のようなものに)
(眼球は左右に5つずつ凝集し、脚はムカデのように二対が幾重にも連峰のように胴に連なる)
(前面には巨鋏だけでなく先端を丸くした捕脚も生え、腕が四本あるような風に)
仮に単なる水であれば表面張力の作用で球体になるって習ったんだけど。今のアンタはどう見ても多角形だよね――不自然。
外部か内部から相応の力がかかった?
うちみたいに
……まぁ仕組みなんてどうでもいいよね。
(尻尾を己の首に巻き付け、それをへし折るような動作――ヒトで言うところの中指を立てるのと同義だ)
(スラエタオナの嘲りを含む咆哮)
大望を――うちの恋路を邪魔する奴は皆殺し!
(音がない世界――月面にて超常の者同士が激突する!)
【
VS
●
お久しぶりです、中の人ことラジオ・Kです。
この数回に渡って「黒幕直々の解説」→「戦闘シーン①」→「戦闘シーン②」という構図で進んでおりましたが、次回からは「戦闘シーン」のみで参ります。
そのためひょっとしたら1話当たりの文字量が大幅に減るかもしれません。
あと、4月以降の活動及びちょっとしたお知らせを近況ノートに載せておきます。
(引退・打ち切り宣言じゃないですよ!)
よろしければご覧ください。
URL: https://kakuyomu.jp/users/radioK/news/16818093074357995247
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