側坐核――nucleus accumbens
あと58分。
人間どもは無防備のまゝに世界に投げ出されたけれども、神々に最も近い動物として自ら武装をとゝのへるために技術を
――藤井義夫(一橋大学名誉教授)『技術と倫理 : テクネー概念についての覚書』(1953年8月1日、
近代の科学と産業の台頭が、人間と動物の関係に次の革命をもたらした。農業革命の間に、人間は動植物を黙らせ、アニミズムの壮大なオペラを人間と神の対話劇に変えた。そして産業革命の間に、人類は神々まで黙らせた。この世界は今や、ワンマン・ショーになった。人類はがらんとした舞台に独りで立ち、独白し、誰とも交渉せず、何の義務も負わさられることなしに途方もない力を手に入れた。物理と科学と生物学の無言の法則を理解した人類は、今やそれらを好き勝手に操っている。
――ユヴァル・ノア・ハラリ 著『ホモ・デウス 上』(2022年9月30日初版発行、河出文庫)より引用
ねぇ、アダン及び皆様方。
この新しい常識、もとい真実についてどう思います?
意外でした?
それとも――ひょっとして、罪悪感を感じたりします?
どうしてそんな質問をするのか、ですか。確かに少し突飛かつ……仮にそう感じたとしたら中々にクレイジーな仮定ですよね。
ここで少し旧時代の
コホン。
文明。
それは何を以てその概念となるのか。
その答えは人の数ほどあるでしょう。
が、それでは話が進まないのでわれらはこう定義することにしました。
『神を彼らから与えられた
『かつ、その集団が奇跡を日常的に行使し、そのことに疑問を持たないこと』
あらゆる時代の、形態のヒトに類するものらは皆その原初にこれを成しています。その結果、皆は様々なテクノロジー……星の、延いては自然の「わざ」をその手にしました。
そしてやることは一つ。
神の「わざ」で神を追放したのです。
「神の「
最初にそれに気づいた者が生誕して以来、様々な回り道をしながらも科学という名の
ホモ・サピエンスの場合は第一次産業革命(1733~1840)という歴史的事実がそれに値します。
ちょうどわれらが世の表舞台に侵食するため『
かくして文明という単語は
皮肉なことに文明人、のほとんどはその事実に気づいていませんでしたが。
少しだけ話がずれますが、私に言わせれば信仰による様々な やらかしが多いのはそのせいですよ。
既に神となった存在が、更に神を求めるという自己矛盾。
信仰の代替として例えば共産主義のようなイデオロギーに縋ろうとした時代もありましたが――わが祖国のように――ま、構造が同じでは駄目ですね。
さてさて、多くの聖典が示すように神には慈悲の心というものがあります。
どういったものがそれに値するのかさておき、その心は自ら追放した神にも向きました。
例えばですね、神の国に降りてきた馬鹿デカい毛むくじゃらの獣を殺さずに保護しようとしたり。その過程で同胞が亡くなったとしても、なお。
『かわいそう』。
そう言い繕って。
罪悪感とはきっとこのことでしょう。
ひょっとしたらこれもまた、神によくある属性――傲慢の表れかもしれませんね。
……こういったことがよくあったのですよ。旧時代には。それこそ当時存在していた200近い国々で。
だからね、アダンも『ただ故郷に帰りたいだけの生物を俺たちは今まで殺し続けてきたのか! なんてことをしてしまったんだ……!』とか思っていたらどうしようかと本気で心配していました、ははは。杞憂だったようですね。
神を追放する。
神々の楽園を乗っ取る。
そして――世界を支配する。
この流れをね、もう一度やろうとしているのです、われらディアドコイは。
邪神は異形生命体。そう、生命体です。
生命体とは、人類が追放した神そのもの。
故に――できる、と断言できるのです!
『宇宙を超え、神を殺し、その先へと征き、やがて我らは後継者となるだろう!』
先程私が言ったキャッチコピーはそういうことなのです。
質問に答えましょう。
われらの大望の、世界征服。その「世界」とは何か。
それは、
自然という概念を内包した、宇宙全体を指すのです。
われらはまず
名状し
かつての
はははははははははは…………
同時刻。
堆上人都ドッガーバンク、上層にて。
【
VS
激闘は続く。
rrrggrhrrr……
彼、は苛立ちを覚えていた。
嘲笑、
一撃ごとに迫る場所が変わり、防御も反撃も出来ず、雨粒の一滴一滴によって己が、削り取られていく。
海を這い回り採集してきた数々の宇宙が、剥がれ削がれ爆発し粉砕され、錆浮かぶ鉄屑へとなって地層のように堆積していく。
(■■■■)
(繝?繧ォ繝?け?)
(――ムカつく!)
(トニカク、ムカツく!)
(ドゥスレバ――いい)
(
(さっきまでと明らかに攻撃のスタイルが違う――タイプチェンジ、か)
(さっきまでは射撃、今は速度だ)
(避けてばかりなら防御は薄いかもしれない)
(つまり攻撃特化……ダメージを与える……そうすれば動きを止めることが……!)
思考が加速していく。
初期は乱れていたものが、霞が晴れ、感情から論理へと、質が変化していく。
それは黒船・白船を喰らってからノーデンスの身に起きた一番の変化。
それまではただ、読み取るだけ。
だが今では――いかに効率よく、が枕詞につくようになった。
(オレの一番早い武器……ロケット、そして誘導ミサイル!)
(
(でも有効射程、短い?)
(確実に当てられてそれなりに飛ぶ奴……考えてくれる、思いのままに、沢山あって、操れる……エルベ!)
ゆったりと、ふらつきながら膝をつくノーデンス。
無数の目(サーチライト)が不規則に瞬き、何秒もしないうちに光がポツポツと消えていく。艦首から吐き出される暴風の如き吐息はそよ風のように弱々しく。
その姿は瀕死であった。
VyiVyiVyiii……ttaatya……
彼我の距離は100メートルもない。
これは、彼らすると腕一本ぶんにも満たないほどでしかない。
VyiaVyiaaVvyiiaaa……!
何かを確信したように笑いながら頷き、左手を頭上に掲げる。
――Vyiyii!!
詠唱に割り込む形で勢いよく立ち上がり、頭突きを一発、ブチかます。
VVvviiyaiio……!
マルティムは大きく怯み、ふらつく。彼の読み通り防御能力は大したことなかったのだ。
――AWASERO!
――Ggrrryag、GyazaaA――!
ノーデンスの腰に当たる位置から無数の尻尾が飛び出し、アンカーのように大地へ固定されていく。それは姿勢制御の為に生やした――理由はそれだけではない。
尾のやたらと四角い鱗が次々とはね飛び、そこから次々とミサイルが発射されていく。
「9K34ストレラ-3」と「9K38イグラ」。それぞれ旧ソビエト、ロシア製である。
これらはノーデンスがまだ大地にいたころに収集した宇宙たちだった。
Vyiatt!
もちろんマルティムはただ黙って見ていたわけではない。素早く態勢を立て直し、手からの光刃で全て叩き落す。
そして両腕を上に掲げ、再び空中に飛び上がる! が。
!?
遅い。正確には体が思ったように動かないのだ。
ついには氷漬けにでもなったかのように空中で不自然に静止してしまう。
その
肋骨代わりの竜骨が吹き飛ぶ。
そこから次々と飛び出すのは――
♪Die Straße frei Den braunen Bataillonen
(褐色の衣を纏った軍勢に道を空けよ!)
♪Die Straße frei Dem Sturmabteilungsmann!
(突撃隊員に道を開けよ!)
果たして彼はその歌の意図を知って流しているのか否か。
特攻、の名は旧日本軍だけの名詞ではない。
ドイツ第三帝国もまたエルベ特別攻撃隊という名の部隊を編成、1945年4月5日から9日間にわたって行われた「寒雨作戦(Kalterregen Unternehmen)」にて(※2)連合国の補給の要、オランダのアントワープ港港湾施設及び迎撃機を攻撃した――そして今度は悪魔に向けて、もう一度死ぬのである。
Vdiadattazaa!!!
苦悶の声をあげるマルティムに更に接近する影が。それはノーデンスの両膝から放たれた対艦ミサイル、AM39エグゾセ。
そして更なる追い打ちが――
数の暴力による哀れな犠牲者に
不敬を討つのに遠慮は配慮は慈悲は要らぬ。
PILiipervveee!
dGqqQqqjcooo!
【
&
参戦!】
同時刻。
堆上人都ドッガーバンク、最下層にて。
【
VS
超人・ともえ & 魔人・ザクウェ】
激闘は続く。
(面白くないですね)
彼女は苛立ちを覚えていた。
「あれあれー、守ってばかりじゃ勝てないって簡単な理屈すらわからないほどかみさまは
「……」
「キャッチボールがなってないよ。ヌトスちゃんヌトスちゃん、無視って他種族間コミュニケーションにおいてもいけないことだよ。旧時代ならそこまで重い罪でもないと思うけど――ちゃんと時代に合わせようね! ぷぷ、なんちゃって!」
「…………」
「さてそれじゃあインチキじみたその
「………………!」
殴る、殴る、殴る。武術も構えもクソもない、雑な殴打が命中するたび、全身に夥しい量の切り傷が発生し、床を極彩色に染め上げる。
彼女は訝しむ。
(なぜ裂傷が? わたしは殴られているのに)
(じくじくと痛い。不愉快だ。最初の――股にできた傷も、動きを阻害する。これが狙いだったのか)
実際、彼女の股間部からは滴定操作のように少しずつ、だが確実に血が流れて出て
(大きく動くとここがより大きく裂けてしまう可能性がある。わたしの回復力は
ヌトスは決して棒立ちであったわけではない。その手に持つ神器・イージス――円盾は持ち手が攻撃を受けるたびに変形し、ともえの四肢を確実に引き裂き、無力化に成功しているのだ――0.2秒程の無効化を成功、と言えればの話だが。
(ともえの異常な回復力。いや、これは最早復元だ)
(損傷部位が映らなくなったと思ったら元通りだ……一体どういう仕掛けだ)
(切り飛ばされた腕の切断面が徐々に盛り上がって……ならまだわかる、が。現実にともえの破片は1ミリも落下していない)
(不可解だ。不愉快だ――あの魔人も!)
防御姿勢から少しでも移動に
(戦術が変わっている)
(初期はともえと魔人、双方共に
(連携が取れ、かつ即座に柔軟に対応できる。とっても不愉快な奴ら)
(どうすればいい? 決まっている。連携を崩せばいい――物理的に分断してやる)
(そしてあそこで呑気に食事している指揮官を倒してやる!)
(予備戦力をここで投入だ!)
ヌトスはともえの殴打を受けつつも堂々と直立し――大声で叫ぶ!
【さて、出番ですよ出番ですよお
「更に 〈神器・イージス……Change……Active mode!〉 ここであなた方全員を倒して――鍵と心臓をもらい受けるとしましょう!」
QqqguaxzaaaA!
いつの間に潜んでいたのか、天井より巨大な甲殻が現れ、着地。殺意のさざ波が全身を震わせる。
そして……
「えっちょ、いやだ、そんなげぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
「な……IRINA(イリーナ)ッ!」
こちらもいつの間に潜んでいたのか。小柄な彼女の口から恐るべき勢いで汚水が噴出。それらは蠢きながら彼女を取り込み――ついには冒涜するべき四足歩行の不定形となったのだ!
【
&
参戦!】
激闘が次のフェーズへと移行する。
TO BE CONTINUED……!
――ははは、予備戦力を持っているのはそちらだけではないんですよねぇ。
そう言って男は懐から
※1 PDFで閲覧。2024年3月4日、午前11時。同タイトルの書籍が国立国会図書館のデータベースに存在するのを確認済。ルビは筆者によるものです。
※2 一応ネタバレしておきますが、原作こと史実にこのような
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