パラダイム・シフト、ゼ ロ。

 ねぇご主人様。提案なんだけど――彼らの仲間になったほうがいいかも





 今、おれの視界はさながらマルチモニターのよう。

 最下層、中層、上層、そして月面。

 それぞれが度を超越した実力つよさをもつ連中による大怪獣決戦が進行し、視界共有――〖慧眼えげん符〗――は量子頭脳に強烈な負荷を与え続けている。

 ハッキリ言えば大迷惑。頭が痛いわ。

 そんな状況下でのブレインのセリフである。


<……>

<幸いにも彼らはご主人様の加入をしている。決して悪い話ではないと思いますよ?>

<…………>

<この前プラハで接触してきた中央大藩国の連中だって、決して清廉潔白の『ホワイト』ってわけじゃなかったじゃないですか>

<確かにな。例えばあのハルスネィとかいうやつ。でもよこいつらだって大概だろ>

<ん。それはそうかも、例えるなら暗黒に近いグレーかな>

<ダメじゃねぇか>


 というか、そもそも――


<おれはこれまでに何度か連中に手を出している。それもハッキリと『殺る』という風に、だ。そんなんで歓迎されているとは思わない>

<それ言ったら中央大藩国だってそうでしょ?>

<いや、そんなことは>

<あるでしょ。今のご主人様になるにさ>


 ……!


<これまで第四帝国のデータベースを色々と見て回ったけど、ご主人様ってつい最近まではだったでしょ


                                    ねぇ

                                何人殺したの

                               文化の終着点にほん

                               戒律授かる地シナイ

                              小さき平和の島クレタ

                                神々争う地でエルサレム

                               千じゃないよね

                                   1万?

                                   3万?

                              もっとじゃない?


だからね、ワタシたち、もう何処にも受け入れられないと思う……よ>

<それをやったのはおれじゃない>

<わかってる。でも普通に考えて向こうはそう思わないでしょ>

<だから悪に身を委ねろ、と? 確かにこいつらは文句言わなさそうだが>

<今までの面子を見る限り……ディアドコイの方が『勝つ』確率が高いって演算は示してる。もちろん最終的決めるのはご主人様。ワタシはただ、助言するだけ。というよりこれしかできないから>

<おれ、は……>



「おしゃべり中のところ失礼、お二方。なに、心配は要りません。あの少女は必ずや瓊瓊杵ニニギが助け出すでしょう。彼は手練れですから」

「残念だがその話はしてない」

「おやそうでしたか……少し耄碌しボケましたかな」

「というかさらりと会話に入ってくるな……今まで思っていたんだが」

「なんでしょう」

「ブレインのこと、見えるのか? ホワイトカラーの連中もそうだったが」


 思い返せば<キャラ名×2>も、明確に彼女のことを認識していたように思う。今まではこんなことなかったのに。


「ほう、イマジナリーフレンドはブレインというのですね」

「っ、カマかけたのか」

「今の場合は自滅、というのではないですかな。いやなに、その固まった様子を見ればまぁある程度はわかりますよ。脳内の現象かいわが自問自答か、それとも相談なのか、という塩梅で。これでもそれなりに長生きですから、朝飯前です」

「そうかい。……おたくらの本拠地、随分と遠い場所にあるんだな」

「ええ。我らは『従星しょうほ』と呼んでおります。良いところですよ――ご招待しましょうか。一生に一度できるかどうかの宇宙旅行ですよ!」

「何かの勧誘のつもりか」

「そのつもりですが?」

「……それに関しちゃ結構。帝国だって月に行けるしな。というか既に――そのうちお前らも討伐クエスト対象になるかもだぜ?」

「はは。それはないでしょう。一般のと場所が違いますから」

「何?」

「答えが知りたければ是非とも加入を勧めますよ――歓迎するので。あ、そうそう。わりと重要なアイテムである『黄色遺鍵イエロの鍵』等についてお話しないといけませんね」

「おい――話をそら」

「これらを組み合わせるとですね、六次元目以降の世界に――『裏』の世界に行けるのですよ。格好つけた言い方であれば『神々の園』ですね」


 李の口からまたもやとんでもない事実が明るみとなった。

 話を逸らすなというせっかくのつっこみが靄となり量子雲に隠れ、彼の話に耳を傾けざるを得ない。


「もちろん、鍵たちだけではダメです。扉がないとそれらの意味はありませんから。で、扉を象徴するものが――錠前。我ら及び他のはこれを


 黒錠――【キープレート】と呼んでいます。


 恐らくアダンもご存じでしょう。鍵は複数あります。


 ・藍色遺鍵【シアーンの鍵】

 ・紅色遺鍵【マゼンタの鍵】

 ・黄色遺鍵【イエロの鍵】


 という風に。ちなみに四つ合わせて<<<CMYK>>>と言います」

「確か真ん中の奴はおれらが確保したはず」

「ええ。極東列島――神国日本の瀬戸内海は淡道之穂之狭別島あはぢのほのさわけのしまで。丁度3年前の古都決戦のどさくさに紛れて、黒船・白船がね」

「……そこまで具体的には知らなかったぞ」

「流石に情報入手経路はまだお教えできませんが、ね。ところで鍵には数字が表示されていませんでした? 確か『17』と」

「ああ。何の数字なんだそれは」

「ちなみに我らがオーステン山で見つけた紅色遺鍵マゼンタの鍵は『20』でした」

「そういや目盛りがついていたな、ひょっとして同じ数値に動かせ、ば……」

「どうしました」


                        うおぉおおおぉぉぅぅんんんぉ


 仮にタンパク質の義体からだであれば青ざめていたところであろう。

 懐をまさぐって、気づく。


 


                       ううぅぅぅんんんんんぅぅううう 


「あー、皆まで言わなくても大丈夫。取られちゃいましたか」


 更に「剽窃ひょうせつした『わざ』、プロメテウスは元の持ち主に還ったということですね」と小声で付け加えた。

 どことなく緊張感のない物言いに違和感を覚える。


                               ぶっぉっぉぅん


「予定とは違いますが問題ありません。途中まではみな、同じですから」


                  どどどどぉぅうんぅううぅうぅうううぅどっ


「それよりも――


                        うおぉおおおぉぉぅぅんんんぉ

                       ううぅぅぅんんんんんぅぅううう

                               ぶっぉっぉぅん


 終わりが近づいたようですね」


 先程から断続的に聞こえる不快。

 その出所を求めてマルチモニターを化した視界の一部を拡大する。

 そこには呆然とした様子で立ち尽くす邪神の姿が。






 頭部は横半分に割れ、さながら地球儀の北半球を取り外した形に。


 超人、魔人、妖怪どもが遠惑星のように楕円を描く公転軌道の中に――


 

 太陽系の縮図があった――



 頭部の中央の

   👀

 👀ギロリ👀

   👀


 と一面を睥睨し、回転するそれは極彩色ごくさいしきの側頭骨とこすれ合い、


                        うおぉおおおぉぉぅぅんんんぉ

                       ううぅぅぅんんんんんぅぅううう

                               ぶっぉっぉぅん

                  どどどどぉぅうんぅううぅうぅうううぅどっ


 と周波をかき鳴らす。

 そこにぷかりと浮かび、内惑星の要に規則正しい円を描く感覚器は


     👄

   👂👀👂

     👃


 やがて訴えを興した。





【来た……宇宙の……意志……果てに在る画面世の果てから……】


 その視線は時点の末、下を

             向いた。



 時は2301年7月17日、02時42分。

 激闘は終わろうとしていた。



中の人です。

お待たせしました。予定より少しだけ早くの帰還です。

され、今更ながら本作はよく環境依存文字を使用しております。

もし「見えてないんだけど⁉」等ありましたらコメント欄にお願いします。

今後の表現方法について一考するかもしれないので。

では(@^^)/~~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る