あと■■■。

<視点:All>


 彼らははやっていた。

 決着を付けたがっているのだ。

 何故か。

 互いに疲弊していたからか、単に機嫌の問題なのか、それともこれがいくさ機運ながれだからか。

 

 ――実のところ。

 本能的なものであったのかもしれない。


 これより、もっと強大なヤバいヤツが来る。

 だからこそ。

 この程度の戦い、すぐに終わらせないと余力がなくなってしまう――


 ここに一つの不幸が発生する。

 それは極めて単純シンプルなことで。

 拮抗していたこと。

 それはラクに終えることができないということ。

 全力を出さないと――られるということ。


 

 現実は常に厳しく残酷。

 一度始まったものはエネルギーが切れるまで、止まること、なし。



<視点:near Adan>


 度重なる戦闘とこの宇宙せかいの真実の示唆。そして視界がめん共有。

 それらはアダンの量子頭脳に多大なる負担を与えていた。

 フェムトサイズ(10のマイナス15乗)の回路が悲鳴を上げ始め、この後にしばし続く叙述の質に影響を及ぼす原因となる。

 

 具体的には音が消えるのだ。

 地球だろうと、星の外だろうと、関係なく。




<堆上人都ドッガーバンク、上層>

混沌混剛骨人ケイオスキメラボーン・異形生命体ノーデンス

 異形斧足ケイオスペリシポダ・異形生命体イオド

 混沌貧毛ケイオスオリゴケイダ・異形生命体ルリム・シャイコース

 VS

 悪硝状魔デビル・ソロモン72柱】


 激闘は終わろうとしている。


 悍ましい蠕動ぜんどう音と共にイオドの殻より伸びる吻から錆びついた鉄塊が吐き出されていく。いくら馬鹿デカいとはいえ、ホタテガイのような薄い身体のどこに格納されていたというのか。

 吐き出されたその大小、実に52!


 それらに真っ白な触指を伸ばすノーデンス。白という漢字のイメージとは程遠い気持ち悪さを醸すそれは、彼のいたるところから飛び出していた。

 そうしてかつて「フリードリヒ・デア・グローセ(1910~1919)」という名前だった鉄塊を掴むと……信じ難いことに、少しの間を置いて……蠢き始める!

 各種砲塔が甲虫の脚のようにもがき、船体は陸に上がった魚のように跳ね、最後尾の暗車スクリューは蟹のように泡を吹き始めた。

 やがて彼女だったもの――今はと化した――は破れた船体より濃い塩分濃度を持つよだれを垂らしながらノーデンスの元へとつどいて。

 

 一つになった。


 これが彼の捕食行動であり、混剛骨人キメラボーンという生物の生態であり、一般的には筋トレともいう――自己強化方法である。


 こうした光景を巨人――悪硝状魔デビルはもちろん黙って見ていたわけではない。なにせ目の前で敵がより強大になろうとしているのだ。それを妨害するのはもう戦場における様式美のようなもの。

 が、行動に移すことはできなかった。


 妨害は足元から忍び来る故。


 

 ルリム・シャイコース。

 彼女の蛆体にくたいからは強烈な冷気が発せられ、巨人デビル半液体からだを蝕む。その結果デバフが行動の鈍化という形で表れていた。

 更に彼女の口――というより単なる呼吸のための孔――から無数の糸が絡みつく。もちろんこれも尋常ではない冷気が付与されている。皮膚に触れる度に巨人デビルは苦悶によりのたうつような怪音が放たれた。


 この幸運な現象は、別に彼女の意図することではなかったが、巨人デビルという生物の弱点を見事なほど突いていた。

 マグマの如き体温を持つ生物の弱点が冷気とはいかなる理屈なのか?

 簡単な事。

 マグマとは、端的に言えば融けた岩石。

 融けるという事は冷やせば――元に戻るということ。

 相転移と呼ぶこの現象は彼らにとって肉体的アイデンティティを失わせるのだ。

 何物にもなることができる過熱状態の硝子ガラスが、冷えることによって形態が定まる……これが彼ら岩融種族にとっての死。その概念である。


 こうして硬化ガラスのような巨人デビルの肌は恐るべき勢いでを失いつつあった――






咆 哮 !



 巨人デビルMarthimマルティム⁆が最後のあがきと言わんばかりに吼え猛り、半液体からだが蠢めき融ける。

 紫の肌と嘲る笑みを持つ細目の⁅Zeparゼパル⁆。

 シュモクザメのように横に飛び出た頭部に青白い肌と「^」状の目を持つ⁅Marthimマルティム⁆。

 そして今、現れるのは――



咆 哮 !


 真っ黒な肌に六角形の顔、異様に深い眼窩、全身に隆々と筋を浮かばせる⁅Kimarisキマリス⁆。



咆  哮  ! ! ! 



 その圧倒的ぶつりてきな「力」があると思わせる姿に……更なる変化が。


⁅⁅⁅⁅⁅⁅仮面を変えよ。配役を変えよ。自己を変えよ……ひとつの真鍮に入りし我ら、高慢たる我ら、奔出せし我ら……変し融け混ぜ……ここに歓喜の音を!⁆⁆⁆⁆⁆⁆


⁅⁅⁅⁅⁅⁅悪魔編曲第一重奏『求憐誦キリエ』⁆⁆⁆⁆⁆⁆


⁅ Crocellクロセル ⁆



 その姿、極めて冒涜的。

 に光るは真っ赤に爛れ堕ちた天使の如き光輪ヘイロー

 その上背に生えたるは毒々しく、黒々とした一対の有翼。

 まるで天使と悪魔を掛け合わせたかのような……


 そうしてクロセルが動き始めた時、邪神共は一様に驚愕する。

 別にエル・シャダイ満たす神に中指を突き立てるような見た目のせいではない――その速さに。

 ルリム・シャイコースの冷気は今だ戦場にあるのに……鈍化デバフが機能しなくなったのか。いや、真相はもっと単純。

 光輪ヘイローと有翼が持ち主を強化バフし、鈍化デバフを打ち消している。それだけの力技。

 そして力技というのは――


                   どぅん、どぅん、どぅん、どぅん、どぅん


 長く持たないというのが鉄則である。


 見よ、巨人デビルの胸にある十字架の如き鉱石が赫から蒼に。そして激しくなりだす。活動限界を示すタイマーのように。

 

 彼らははやっている。

 決着を付けたがっているのだ。


 であれば、ノーデンスに向け突貫する巨人デビルがやることはだだ一つ。


                          避けれないように――

                 必中を期すため――

 減衰しない最大威力で放つため――


 巨人デビルは右手を水平に振り

                 次いで高々と頭上に掲げ

                            目の前に、縦に垂直に


                       そうして右ひじの根元に

               左手の先を接続し

「L」字を描くそのフォームより



 両手が交差する点より聖なる光が溢れ


 両腕全体を覆いつくし


 密着状態ゼロ距離から放たれるは――


 必 殺 光 線 !




           TO BE CONTINUED IN THE "Paradigm Shift Zero"……!

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