巣を亡くした熊たちのおはなし
むかしむかし、その国は
西の人達に追いつくため、王様自ら船について勉強するなど、とてもがんばりました。
おかげでその国は近代化し、幾重にも、たぁくさんの赤を流して、いつの日か世界で並ぶ国は
つめたいせんそうに敗れたり、つまづいたときもあったけど、その国を笑う者はもういません。もうあの頃とは違うのです。
こおりが溶け始めました。あったかくなったから。こむぎを作るのに水をたくさん使うから。
2030年。おっきな地震がありました。せかいに亀裂がはしりました。
2033年。北の果てのふかい深いおくそこで「極彩色」をこっそりと見つけまし
た。
おわりの始まりです。
しばらくして、その国のあかのひろばは、たぁくさんの色に染まりました。
それからすうひゃくねんが経ちました。
その国の残滓はまだ、どうにか命の灯を紡いでいました。
てつのみちといちれつにならんだくるまと廃墟都市。
線と点。それがその国のすべてでした。
あるひ、色が襲い掛かってきました。
極彩色の雲と極彩色の空気と極彩色の土と極彩色の獣と。
そして──
とんでもない
その国はたべられてしまいました。
*
今僕の隣にはティマが。そして目の前には1人の軍人がちょこんと腰掛けている。
光を反射し輝く既視感ある銀髪。左右で違う瞳の色、ほっそりとした顔つき、すらりとした体躯、そしてダボダボの軍服。身長は140センチぐらいか。
何となく「守ってあげなきゃ」という謎の使命感が間欠泉のように湧き出てくる見た目であるが、ダボダボの軍服に付いている無数の厳めしい飾り物がその考えを相殺させている。
そんな彼女、ジナイーダ・ペトロヴィチ・ロジェストヴェンナ大将はティマが差し出した紅茶を食べていた。
軍服の内ポケットから2つのビンを取り出す。片方には液体が、もう片方には……ジャム、という食べ物だったっけ。液体入りのビンより数滴、何かを紅茶に垂らして、もう片方のビンよりジャムを掬い出し紅茶に浸しながら舐める。そして紅茶を少し飲む。またジャムを浸して舐め……を繰り返す。
暫くして。
「ふぅ……すみません、今の私達に遺された
「あ、その飾り、そういう単語なんですか?」
「ええ。まあ、これは私のものではないのですが。この服はいつだったか
彼女は軍服の裏側を見せてくれる。確かに胸の裏側辺りに、金色の名前が書かれている。えーと? 「とうごうひらはちろう」って読むのかな。
それにしても彼女の鈴がなるような穏やかな声、どっかで聞いたことがある気がする。それもつい最近に。
「さて、まずは先日、私の雇い主をお救い頂いてありがとうございます。あの反乱が起きた時、私は丁度海上にいましたので、全てを知ったのは何もかも終えた後……誠に恥ずかしい限りです」
「えっと、よくわかりませんがあの場にいなかったんですよね? なら仕方ないですよ。って海上? もしかして戦艦の中に?」
「ありがとうございます。いえ、正確にはあの戦艦群の後方にいた『プリンツ・ユージン』から指揮を取っていました」
あ、思い出した。
「そしてもう1つは」
彼女は大きく息を吸い、こう告げた。
「私達の本来の主人、ナタリヤ・ミハイロヴィチ・ロマノヴァ様のことです」
今、僕の顔はどんな感じだろう。ひきつった
半年前、5月15日の事だった。桜宮様の執務・生活、そして
それが「
強襲部隊の隊長は全くもって未知の液体金属型械人で、その特性も相まって守備隊を斬殺。その変幻自在の刃は桜宮様と異形生命体により祖国が蹂躙され亡命していた、偶々居合わせていたナタリヤ姫へと迫り。
そこから先の話は覚えていない。
でも。
姉さんや暦さん、それ以外の人は口を揃えてこう言うんだ。
「君が
けれども。どうやら僕は間に合わなかったようだ。
微かに覚えている光景は、はボロボロになりながら立ち尽くす桜宮様と、その足元に転がる白銀を赤で染めたナタリヤ姫の姿。
そして桜宮様は瀕死のナタリヤ姫を助ける為に、自分を食べさせて、ナタリヤ姫を食べて、それを繰り返して。やがて辺り一面に散らばった生暖かい2人分の欠片は彼女たちを包み込む
今の桜宮様へと生まれ変わった。肉体を共有した状態で。
「事の
その言葉に背筋が凍る。焼入れをした鉄のように全身が硬直してしまう。でも。
「我ら不甲斐ない部下どもに代わって貴方様はわが主をこの世に留めて置く手助けをして下さいました。ここに生き残った全ての民を代表してお礼を申し上げます。ここに最大限の感謝と敬意を捧げます」
「え? ……いや、どうか頭を上げて……、ど、どうして? どうしてお礼なんか」
本気で困惑していた。だってナタリヤ姫は死んでしまったのに。僕が間に合わなかったせいで。
それは心のどこかでずっととぐろを巻いていた思いだった。
しかし、目の前の彼女は、はっきりとこう言い切った。
「ナタリヤ様は生きておられます。私達の心の中に。そして貴方の君主の中に。もしも貴方様がいなければ、ナタリヤ様の肉体も精神も消え去っていたでしょう。ですがそうはならなかった。これは全てヒロシ様のおかげなのです。……どうか自分を責めないであげてください」
椅子から立ち、こちらへと近づき、彼女は僕の両手を握りしめる。最後の言葉と手から漏れ出る暖かさに、目が霞んできた。どうしてか水が溢れ出し、両頬に川を作り出す。
そっと頭の上にティマの手が載せられ、ゆっくりと撫でられる。
しばしの間、やさしい空間がふわりと形成された。
その後、僕とジーノチカ(ジナイーダから愛称で呼んで欲しい、と言われた)は神国日本でのナタリヤ姫の生活について色々と話した。
言葉が不自由ながら誰でも分け隔てなく接していたこと、食べ物の差に苦労していたこと、旧時代の資料収集に協力していたこと……などなど。
「さて、そろそろ軍務をしに『信濃』まで戻りませんと。ただ、その前に……」
話が一通り終えると、ジーノチカはそう切り出してポケットから端末を取り出す。その顔はさっきまでのリラックスしていたそれと違い、幾分か青ざめ緊張の色を孕んでいる。
「ヒロシ様にはこの事を知らせておいた方がいいと思いまして。わが祖国、ウラジミール=ブリヤート・サハ都市連盟群を壊滅に追い込んだ存在についてです」
そう前置きしてジーノチカは一枚の粗い写真を端末上に表示する。そこに映っていたのは……巨人? 高さは40メートル程だろうか。何というか、凄まじく歪な形をしている。よーく見ると、車や列車、家、電柱、戦車、戦闘機……無数のモノを強引につなぎ合わせた構造をしていることがわかった。
「これがその「存在」なので……2人共? 大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ?」
端末より顔をあげるとティマも、ジーノチカも顔を青く染め上げ汗が滝のように流れ落ちていた。ガタガタ、ガチガチと体の、歯の震えがこだまする。
「……Nouddxenzs。この存在は、そういう御名なのですね」
その写真から目を背けながらあらん限りの侮蔑の色を含んだ声でティマが吐き捨てる。今までと全く違う態度に僕は驚く。
「そう、その通りですッ……!! この
さっきまでと打って変わって歯軋りと共に憤怒の声を上げるジーノチカ。ところが、震える手で写真を非表示にすると、2人の調子が、侮蔑と憤怒の色が急速に収まる。
「すみませんでした。この写真を見るとほぼ全ての者が何かしら、この様な根源的な恐怖を覚えたり、激しい怒りに支配されたりするのですが。ヒロシ様は平気なんですね? ここまで冷静な方は他にいませんよ。今まで最も普通の反応だった
ジーノチカが僕を見る目はこの時から感謝と敬意と、そして畏怖の色が追加された。
「ひょっとして、ヒロシ様であれば……この
ジーノチカは最後に「もしお時間ありましたら、戦艦『信濃』か防護巡洋艦『アヴローラ』に遊びにいらしてください。きっと、いや絶対に歓迎されますから」と言い残して
ところで。
Nouddxenzsの写真による洗礼は当然のように遣翠使団のメンバーも受けたわけだが。余りの恐怖に泣き叫ぶ
「一応、常識の事だと思いますが、異形生命体は
〇
こんにちは。ここまで読んでくださりありがとうございます!
この話を2日で書き上げてみた筆者のラジオ・Kです。
現段階の己の限界に挑戦すべく、短時間(当社比)で書き上げてみました。
例によって解説のお時間……と言いたいのですが、解説ポイント、特になくね? と思ってしまったので。
解説して欲しい単語を募集します!(もしあれば、の話でございます)
そういったものがありましたら応援コメント欄やこのエピソードの宣伝ツイートにリプする形で教えていただけると幸いです。
内容は次回のエピソードに追記していく形にしようと思います!
よければ応援する! 等よろしくお願いします!
それではまた、次のエピソードでお会いしましょう。
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