予期セヌ脅威。ソノ予感。

 果てしてこの戦闘をどう表現すればよいのだろうか。

 少なくとも「どのくらい戦っていたか」、という表現は不可能だろう。なぜなら、時が止まっているのだから。一秒も一億年もここでは、等しく「0」である。


 彼ら異形の者共は戦う。己の役目を果たすため。引き延ばされたの中で。


「妖斬風!」

「長掌筋!」


 十鬼双腕陰陽士・阿部から生える2頭の妖怪から繰り出されるに対し異形の猟犬、Xintahlozzsティンダロスは己の11本の脚の内前方4本の先端から黒々とした「硬い紐」を伸ばし迎撃する。

 互いの攻撃が空中でぶつかり合い、金属音が鳴り響く!

 両者の実力は拮抗しているようだ。

 お互いの技を引っ込めると円を描くようにぐるぐると回り始める。Xintahlozzsティンダロスの動きは素早く、何度も阿部の周囲を旋回。攻撃を仕掛ける。

 ところが攻撃対象となる阿部には頭が3つ。全方位警戒を可能としており、そう簡単にはXintahlozzsティンダロスの攻撃を成功させない。

 結果として両者の戦闘は停滞しつつあった。



エクアドルMw7.1」「バヌアツMw7.2」「オホーツクMw8.3」「スマトラMw8.6!」


 一方でCalar aut 異次元 af fleshの色CuFeS2黄銅鉱の戦いは己の拳をぶつけ合う、極めて原始的単純ななものとなっていた。

 本来であれば大気が震え、轟音が響く──と描写するべきなのだが。停滞した時間内では大気は震えず。ただただ轟音が響くのみ。

 拳が命中するたび両者の肉体はヒビが入り、腐片が、水晶が、鉱石が剥がれ落ち、大地に落下する。

 両者の実力は互角。戦いに終わりは見えず、結果として両者の戦闘は停滞しつつあった。



「うむむ、予想していたとはいえこのままでは永遠に決着がつきませんねぇ。イィス殿、もう一苦労お願いできます?」


 いつの間にか毛利の真横に現れた頂点から触手が生えた円錐状の生物が鋏を打ち鳴らす。カチ、カチという音であるはずなのに、こう聞えた。


はがずだぁ?わかった! ∃1x∈S(P(x)) 存在せよ、f: S → T現れよ、φ同志よ。 、】




 異形の均衡が、崩れる。

 一発の弾丸がXintahlozzsティンダロスに命中。持っていた心臓が弾かれ、大地に落下──する寸前に阿部の左腕から生える「大百足大ムカデ」がキャッチ。毛利の所へ持っていく。

 心臓は再び所属を変えたのだ。


「「!?」」


 新たな存在の登場に距離を取るXintahlozzsティンダロスCalar aut 異次元 af fleshの色


「…………Calar aut 異次元 af fleshの色! Sr Tc 、K Zn Be" Cd Pt Tc Fr"!」


 新たなは風のような「語」で吠える。カウボーイなどが着用するテンガロンハットのような頭部を持つ生きる鉱石、アース神族ニア・ゴッズの1だ。

 全体的に白一色で覆われ、所々黒や灰のまだらがある。

 その名は──


「おや、CaCO3方解石ではないですか。あなたがここにいるという事は、ガダルカナル島で『マゼンタの鍵』を無事回収できたのですね?」


 毛利の問いかけに静かに頷くCaCO3方解石。その顔は半分ほど欠けていて、断面は空洞であった。元々は、とでも言うかのように。

 この瞬間、数の均衡は崩れ去った。

 CaCO3方解石の得物は2挺のレバーアクション式散弾銃「ウィンチェスターM1901」……のようなもの。彼の銃とが握られていた。少なくとも二挺散弾銃、などという珍妙なスタイルはありえないはずだが、彼は当然のように構える。

 右でXintahlozzsティンダロス、左でCalar aut 異次元 af fleshの色。どちらにも援護可能なように。


「? Cs Na、 Ta" Sr Ti Ir Nb Na Hg?」


 ところで標的の異形生命体はそれどころではないらしい。

 XintahlozzsティンダロスCalar aut 異次元 af fleshの色も、を突き付けているCaCO3方解石を無視してある一点を見つめている。

 両者の貌は驚きと焦り、怯えの色で塗りたくられていた。


「上直筋下直筋! 上直筋下直筋! 前腕屈筋、Calar aut 異次元 af fleshの色?」

「なんと。我が王の危惧が当たってしまった。すぐに富顎ふがくに撤退だ!」

「What. The fear of my king has hit me. Immediately withdraw to Fuji!」

「무려. 우리 왕의 우려가 맞아 버렸다. 곧 후지에게 철수다!」

「Какая. Страх перед моим королем поразил меня. Немедленно уйти в Фудзи!」

「什么。 对国王的恐惧打击了我。 立即撤退到富士!」


 そう言うや否や猟犬は遠吠えを1つ。次に11本の脚の内後ろ8つを大きく広げCalar aut 異次元 af fleshの色を抱き抱える。そして3本の脚で大地を駆け、先に這い出てきた

 僅か3秒ほどの出来事であった。



 異形は何を見て驚き、焦り、怯えたのか?

 毛利たちも彼らと同じ人物を見る。



 それは女性であった。

 上半身ではなく、下半身であった。

 ティマドクネスの、を。



「あちゃぁ。そう来ましたか。完全に予想外ですねぇ。まったく、本当に物事とは全部が思い通りに進まないものですねぇ──皆さん、撤退しましょう」

「Na Na Tc Fr?」

「ええ。こちらの方でも検証とシュミレートをし直すべきです。万が一にも孕んでいたら、計画が根本から崩れ去りますからねぇ」

「………… In Ai Zn Ta Hf Fr" Pd V Nb Ru Os Sn Zr" Cr。『肉の種族』 Ta Re」


 CaCO3方解石が風のような「語」でぼやく。

 それはこの世界で最も原始的な、宇宙と共に生まれ成長した記号言語であった。


「ではでは『ハイドラ』に帰りましょうかね。そうそう、正式な自己紹介はまだでしたねぇ」


 毛利が改めて観客の方に向き合う。


「改めて、はじめまして。我ら一同はこの星の後継者を目指す組織『ディアドコイ』と申します。以降、お見知りおきを。我らの構成員はあらゆる時代、あらゆる地域、あらゆる組織に人員が配置されていますので、でしょう。なので、まぁまたすぐに再会できますよ」


 背を向け、何処かに去ろうとする毛利達。と、「あそうそう、言い忘れてました」という呟きと共に首だけが観客に向く。


「先程ウチの構成員である獼猴じこうが怪文書を失礼致しましたねぇ。もう200年にもなるというのに、未だにテセラクトを制御できていないのですよ。まったくあのじゃじゃ馬は……でも棄てませんよ? 彼女のおかげで200年前の『豊穣』を正確に見つけられたのですから。なのでとても貴重な人材ですから、あなた方にはあげませんよ?」


 この言葉を最後に、彼らは消えた。


 

 この世に永遠は存在しない。

 それは時の停止とて、例外ではなく。

 やがて呪縛は解除された。


 残された彼女達に膨大な情報が途切れ途切れになだれ込み、まず発せられたのは。

 絶望の悲鳴であったという。












 一方その頃。

 京都御所きょうとごしょ清涼殿せいりょうでんにて。



 爆発音!

 カラカラと音を立て、瓦礫が吹き飛ぶ。


「うーし。道がなければ作ればいいじゃない、ってな! 愛してるぜC-4プラスチック爆薬 ちゃん!」


 塞いでいた瓦礫を吹き飛ばし、ガイアン・アブスパールは歩みを進める。粗末な地下式防空壕を進み、内部にある玉座の後ろへ回り込む。

 そして施錠されていない扉を開け、清涼殿せいりょうでんの本体である「うら鬼門きもん」に入った。


 彼の目に飛び込んできたのは──


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