意想外、Psychometry
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今より35時間09分57秒前、
これを受けて近場の警備部隊を複数送ったが、これも同じく情報が途絶えた。
故に
何故彼らの連絡が途絶えたか、その原因を調査せよ。仮に
貴官の健闘と吉報を祈る。
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何とも無表情な文章、奴らの本質。毎度のことながらそう感じたね。
ま、それはともかく……まずはこの惨状からだ。
《ねぇご主人様。この色って》
「ああ。間違いなく異形生命体だな。
俺は視界の左上に表示された周囲の状況を改めて確認する。
〉現在地状況。
場所:
天気:曇り(雲量10)、色は灰白色
気温:16℃
備考:第5番ノード・タワー「インスブルック」からの情報。
「天候は曇り、色は灰白色か」
《だとするとおかしいよね。色がまともなんだから》
「うん、もし異形共が大挙として押し寄せるような事態……『
〉本日の
西欧州: 0パーセント
北欧州:15パーセント
南西欧州: 0パーセント
南欧州: 0パーセント
中欧州: 0パーセント<★>
東欧州:25パーセント
東南欧州:10パーセント
「0、か。ひょっとしてこの血痕の持ち主は単独でここに現れたのか? とすれば説明がつくかもな。警戒度を上げて目的地に向かうぞ、ブレイン」
《あいあいさー!》
先程機内で見た付属資料によるとこのプラハには5000の
──おれの予感は半分は当たっていた。そう、半分は。
おれが降り立った場所はかつてMaisel Synagogue、という建物があったらしい。旧時代に存在したユダヤ教という宗教の重要建造物、とデータベースにはあった。
西進し、マーネス橋……だった建造物を渡る。
目の前には表情豊かな廃墟の数々。
あるものは風化。あるものは爆撃で。あるものは熱線で。あるものは略奪で。そしてあるものは調査のため、均等に。
どれ1つとして同じ表情がない、帝国には存在しない刺激的な風景の数々。そこには確かに生命が芽吹いていたという何よりの証拠。本物の世界。
仮に任務中でなければ心ゆくまで堪能したいところだが。レーダーと目視、双方をフル活用しつつ進み続ける。
目的地のプラハ城まであと、750メートル。
そして約15分後、おれはヴァレンシュタイン宮殿とロブコヴィツ宮殿を背後に、目的地を正面とする地点まで来た(もちろん、全ての語尾には「跡」がつくんだが)。
これまでの道のりに如何なる勢力とも出会わず。完全なゴーストタウンではないかと思った。
「とりあえず異形の
《だね!》
「……
〉周囲をスキャン中……
施設内部・最深部に生命体反応、2点。形状・状態不明。共に味方識別信号なし。
《えっ》
「何だと?」
予想外の結果に思わず声が出てしまう。
「マジかよ。というか最深部に2点だと。待ち構えている、ということか?」
《なんかダンジョンボスみたいだね》
「その例えはシャレにならん……もっと情報が欲しいな。ブレイン、周囲の設備をハックしてくれ」
《任せて! って、あれれ。途中から何もできないよ。ひょっとしなくても物理的に切断されていると思う》
「それはどの辺りからだ?」
《んとね、地下20Fからバッサリと》
「付属資料によると、最深部は28Fか。ますます作為的なものを感じる……まぁいい。おれのため、立ちふさがる奴は全て……倒すまでだ!」
おれは城内へ入る。正門からフラッチャニ広場へ。本来であれば煌びやかな光景が広がるはずだが、そんなことはなく表情豊かな色褪せと瓦礫、折り重なる
死体はざっと見た感じ全て一方的につけられた傷が原因のようだ。
第1中庭、マチアス門、第2中庭を経由、そして第3中庭へ。現れるは14世紀ゴシック建築の代表例、聖ヴィート大聖堂。
キリストの受難(6割ほど欠けているが)を描いた
目的地の入り口はすぐにそこに。
それは、入口から数えて3番目のステンドグラス。
チェコ芸術の最高傑作、即ちアルフォンス・ムハ(ミュシャ)の「聖キリルと聖メトディウス」。
グラゴール文字を創造した兄弟の足元には無作法にも
秘密の入り口を隠すためのギミックをはぎ取られた、内臓が地下28F──80メートル下まで続く。
「昇降装置は……やっぱダメか」
〉周囲をスキャン中……
報告。地下58メートル地点にて大きな空洞を確認。
「よし、ならそこまで降りるか」
おれは
システム『ブラード』を使用し幾重もの天井または床をくぐり抜けおれはスムーズに落下する。
着地したのは恐らく大型エレベーターの終着点。壁面はほぼ剥がれ、建造物の血管ともいえる電線やら配管やらがあちこちからはみ出している。
「ふむ、ここから先は別の昇降装置で降りるということだな」
そうぼやきながら先へ進もうとして。
おれは何気なしにむき出しのフレームを掴ん
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「よう、エージェント
「意外だな、もっと最前線…………れは彼の地域が陥落寸…………」
「…………や、実はな。…………部は日…………棄を正式に決…………」
「この前の任務、○○〇ちゃんの救出無事に成…………」
「そうだ。お前にはバルト海に行ってもらう。…………ん盤は恐らくFぶ…………」
「司令、他メンバーの選…………」
「ああ、任せる。…………はあ…………」
「エージェント
「もう──094年になる…………れでお前が…………に入っ…………5年、記念すべ…………祝…………!」
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《──様、ご──‼》
……は? 何だ、今の、は? いつの、誰の、きお、く……? 1人称の光景、まさか。おれの過去、なのか。もしそれが正しければ、ようやく手掛かりを
《──様、ご──‼ しっかりしてください、ご主人様‼》
「…………ブレ、いん、か」
《そうに決まっっているでしょう⁉ 突然倒れて、一体どうしたんです5秒も
おれはその時、ようやく自分が無様にも横転していることに気づいた。慌てて立ち上がる。その際、「頭痛」という
さっき掴んだフレームを観察すると、どうも昇降装置の制御盤らしい。
「さっきの光景、見たか?」
《え? 何のことです──ってそれどころじゃないよ! この先に生命体反応が2つ、しかも戦っているみたい!》
「何だと⁉」
おれは急いで走り出す。
地下58メートル地点──23Fは基本的に1本の廊下と両脇に無数の小部屋(個人用オフィスといったところか)、そして最奥に巨大な円状の大部屋という構造だ。
その入り口を蹴飛ばして中に入ると。
音が、した。
キン。
キン。
ビチャッ──ガキィン。
ギッ。──ビシャッ。
ヒュン──グシャッ──ドサッ。
決着がついた。
赤灰白のコートを纏う山高帽の紳士、
紳士の胴には大穴が。ずるり、と大刀が抜ける。
勝者は、美しいおんな。
「ア、ァァ、、おかぁ、やこのおかあ、、十鬼のおとう、、いずこ。、、いずこの道に逝ったのです、、いずこに、、」
大刀はおんなの一部だった。脈打ち、うねり、収縮し、ヒトと同じ腕に戻る。そして首を傾けおれを見た。一片の感情すら見えない、それなのに湖畔のような純粋な瞳で。
「おい、こいつ邪神を斃したぞ……残念ながら味方には全く見えないが。ブレイン、こいつの正体わかるか?」
《ううん。少なくともデータベースには存在しな》
シャャァァァッ!!
ブレインの報告を最後まで聞くことはできなかった。
おれの胴体に向かって巨大な百足が突進してきたのだ! 慌てて上にジャンプしその突撃を躱す。更にそいつの頭を踏み台にしてもう1回大ジャンプを決行。
空中で身体を捻りながら攻撃主であるおんなの背後に回り込み──
ミシャッ!!
「何ッ」
おれのつま先に何かが巻き付く。妙な既視感を覚えつつ見ると、複数種の毛皮がついた蛇。それが巻き付き地面に叩きつけようとしてくる!
だが。
「悪いな、その手は極東で経験済みだ!」
踵に仕組んであったカートリッジが瞬時に作動。内部に充填された窒化ケイ素・酸化アルミニウムを予め添加された状態のセラミック剤が分子アセンブラを経由、長さ5センチの刃となって射出口より
丁度足の向きから見て水平方向となった形だ。それを即座に前方向へスライド。蛇を一瞬で切断することに成功した。
上記の過程を経て形成される刃、通称ナノブレイドは分子アセンブラを経由する際材料となるセラミック剤に含まれる炭素原子を一部窒素原子に置換した状態の層状六方晶構造を持つ人工ダイヤだ。……立方晶窒化炭素材、別名マキシマムエンド・ダイヤともいう。その
タンパク質如き、多少のスピードを乗せれば抵抗すら許さずに切断することができる。
「、、ウぁ、奴延鳥ッぽが、、オのれおノれおのレェ!!、、おぬしがおかあとおとうを道に逝かせたのかァ!!!」
「あ? 何わけわからんことを」
足元まで垂らした黒髪を振り回し、錯乱した様子で叫ぶおんな。瞳はぐるぐると渦巻き、感情がいきなり浮上し増幅したように感じられる。
それよりも……何だこの肉体変化は。
信じがたいことに、先程の巨大な百足はおんなの右腕だったものだった。また蛇はその位置から察するに尾骶骨が肌を突き破り出てきたと思われる。
肉体変化にかかる時間が1秒にも満たないことも相まって底知れない気味の悪さを感じた。血の色は赤だから異形生命体ではないようだが。
《ご主人様。あのおんなの正体、わかったかも》
「マジか。一体何なんだ、ヒロシの同類か何かか?」
《おんなの攻撃、その形状がデータベースにあったの。巨大な百足は、
「妖怪、だと?」
予想外の答えに思わず固まってしまう。ここはヨーロッパのプラハだぞ? なんでそんなものがここにいるんだよ。
そんなおれをよそに、おんなが名乗りを上げる。
「オぬしもあいつと同ジ仇か、、うちはヤコ。百鬼夜行、、おかあとおとうの敵討チだぁァァァ、、ウウゥグァァッ! 〖三つ目ン大爪〗ェ‼」
ここプラハにて激突、その行方は如何に。
第二部第1章、ここに開幕!
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