激闘再び、Heterologous

「オぬしもあいつと同ジ仇か、、うちはヤコ。夜行、、おかあとおとうの敵討チだぁァァァ、、ウウゥグァァッ! 〖三つ目ン大爪〗ェ‼」


 目の前のおんな、百鬼夜行はっきヤコはそう叫ぶや否や左手全体を1本の巨大な爪に変化させ飛びかかってきた。


「ッ、敵討ちって何なんだこの!」


 おれは即座に右手手根骨から外方向に向けてナノブレイドを生成、迎え撃つ。


 異なる形状の刃が両者の間で交差、激突する!

 そのまま鍔迫り合いを始めるも互いに一歩も譲らず、戦場は刹那に時止まる。

 が、次の瞬間。


「、、ウァ──ゥウゥ、、〖煙羅煙羅えんらえんらァ火煙渦〗カァ‼」

「な、マジかコイツ⁉」


 夜行ヤコの右腕が即座に火煙に変化。更にそれは瞬時に真っ赤な渦となり、それまで密着していたこともあり瞬時に巻き込まれてしまう。

 火煙渦が視界を埋め尽くし義体アバターをもみくちゃに攪拌しようと渦巻く中、そのど真ん中に警告文が表示され無機質なシステム音声ががなり立て始めた。



〉警告。

 現在位置の温度、1500度超。

 危険な温度です。義体アバターが融解する恐れがあります。

 直ちに退避を推奨しま



 るせぇ、んなこと炎の色見りゃわかるわ!

 おれはそう心中で毒突きつつ、HFGシステム『ブラード』を起動。今回は内部フィールドの地磁気をに増幅。

 その結果、義体アバター全体に均一な圧力が発生。おれを即座に瞬間移動の如きスピードで後方へと運んでくれる。更にそのタイミングで発生した電磁パルス波は夜行ヤコを吹き飛ばし、火煙渦を霧散させた。

 傍から見るとおれと夜行ヤコの間が前兆もなく爆風が発生し、両者とも吹き飛んだように見えるだろう。


「、、ウゥ──グ、ァ、うちの、、がァァ、、」


 吹き飛び地面に叩きつけられた夜行ヤコが右腕を押さえ藻掻き呻く。

 原理は全くわからないが、あの状態になっても痛覚があるということか。何にせよこれはチャンスだ。

 おれはコートの内側に忍ばせてあったUMPを取り出し──驚愕する。





 熔けていたのだ。銃口が。ぐにゃりと曲がり、不格好に固まっている。

 それは全体としてみればほんの少しであるが、効果は見事なもの。銃口が塞がれてしまえば銃なんてなんの役にも経たないのだから。


「クソ、さっきの火煙渦か!」


 ほんの一瞬ではあったがおれの全身を包み込んでいた、そのごく僅かな時間に仕掛けたのだろう。よく考えれば火煙渦は夜行ヤコの腕が変化したもの。かなりコントロールの融通が利くのだろう。

 あの程度の時間であればおれには何のダメージもないからとタカをくくっていたら……ということは。

 慌てて背中に背負っていたG11を確認すると……こっちも、か。特徴的な銃口が完全に熔けてかぎ爪のようになってしまっていた。


「、、ヒ、ャハ‼」

「!」


 時間にしてほんの3秒ほど。見ると夜行ヤコの右腕は完全に再生しており、再びこちらに突進してくる!

 おれは──





「こっちはまだ生きていたようだな」


 ホルスターに収められていたP7のグリップを強く握りしめながらセーフティを解除しつつクイックドロー。コック&ロックは機内で済ませてある──構え、撃つ!


 BAN、VAN、VAN!!!


 手始めに3発。さぁどう反応する?


「、、ガァッ‼ 〖唐傘からかさゥ回盾〗ェ‼」


 チッ、

 夜行ヤコの右腕が半身を覆うほどの傘に変化。回転しつつ銃弾を弾き逸らす。避弾経始のようなものか。


「イィィ──〖大百足ェ行脚〗ァ!!」


 今度は左腕。1秒もかからずに巨大な大百足に変化し、切り離され突進してくる。何度見ても信じられない変化の速さだ……だがな。


「ふん、ならこっちも同じようなことできるんだぜ──そらよっ!」


 縦に大きく口を開け、おれを飲み込もうとする大百足。接触する丁度そのタイミングでおれは右腿から飛び出してきたを左手で掴み取り、大百足の口へ突っ込ませ──付け根の引き金を、そっと絞る。




 

 次の瞬間、大百足が炸裂した。

 降りかかる肉片を回避しつつ、おれは数歩下がる。力なく大百足が倒れ伏す。


 おれの義体アバターにはあちこちに分子アセンブラが仕込まれている。それらをほんの少しのアイデアと共に効率よく稼働させると、こうして即席のセラミック製武器を創り出し義体アバターの様々な部位から取り出すことができるのだ。もちろん弾薬も原子構造を変化させて、な。

 今のは手銃ハンドキャノン……前装式の、極めて単純な奴。ライフリングとかいう進歩的なモンはしてないがゼロ距離であれば何も問題はないってわけだ。

 これをうまく使えば夜行ヤコに有効打を与えられるかもしれない。そう思いつつ彼女の方を見ると。




《なに、あれ。暴走してる、の?》

「……だとまだマシかもな」 


 そこにはキメラかいぶつがいた。




「、、、、〖九尾狐くびぎつねォッぽ〗、〖ろくろ首ィ頸尾〗、〖奴延鳥ぬえッぽ〗、〖清姫きよひめン火息〗、〖古籠火ころうかァ煙管〗、〖青鬼あおおにゥ水槍〗、〖鰐口わにぐちェ水咢〗、〖風神ク旋風槌〗、〖雷神ス轟雷鎚〗、〖大百足ェ毒牙〗、〖大嶽丸おおたけまるゲ剣塚〗、〖以津真天いつまでノ尾羽〗、〖一反木綿ィ服手〗、〖大蛸ォ濁砲〗、丙子椒林剣へいししょうりんけん、〖椒花女ショウカジョゾ天弓〗、〖牛鬼うしおにゥ双角〗、〖土蜘蛛つちぐもゲ毛脚〗、〖姑獲鳥うぶめヲ喉泣〗、〖怪火かいかワ飛髪〗、〖鬼面蟹タ皮貌〗、、、、」


 その威容は正に異質同体キメラ。最低でも10を超える妖怪の肉体、その器官が夜行ヤコの肉体から生えている。一部は九つに分かれた尾から、直接。

 先程までは確かに「人」の形をしていたが、今や面影が残るのは顔だけ。そして変形したそれぞれの場所からまるで涙のように鮮血が滴り落ちていた。


「、、ワからナァイイ、、どウジテてこんなニモいたァぁーい、、でも! おかあとおとうの敵討チで、、痛み治マる、、かも、、、、かたーぁキキィィ!!」

《ご主人様、来るッ!》


 ブレインの警告と同時に、夜行ヤコの攻撃……というより暴風が始まった。





 遠距離攻撃というのは最高だ。うまくいけば一方的に相手を倒せる、こちらは無傷で、距離によって相手の苦しむ様を見ずに。この考えは第四帝国の帝国臣民キャラクターにとってほぼ共通の常識、もとい趣味で。なんだかんだおれも影響されている部分が確かにあったのだ。


 おれは今、その真実を一身に受けていた。


「ぐ──あはッ、なんちゅう物量だ! さながら暴風雨だぞッ」

「アハハハハはハハハァ、、くるしめくるしめナきさけべぇ‼ イハハハアハっ」


 全方位から膨大な量の炎が、水槍が、風雷が、光線が襲い掛かる。大部屋の半径は100メートルを優に超え、また旧時代に使用されていた機器の残骸が残されている。

 故に回避は容易──という考えは甘すぎで。実際のところ様々な種類の妖怪達が繰り出す攻撃により片っ端から粉砕され、平地となってしまった。


 しかも単なる物量ではなく様々な特性・パターンがあって


「ぐ、おぉっ──」

「ウ、、ひゃァ串刺し、、可哀ソ、、解ィ放!!」


 避けたと思った〖青鬼あおおにゥ水槍〗の軌道が突然奇妙奇天烈にひん曲がり、真後ろからおれの胴を貫く。

 そのまま空中に持ち上げられ、風槌やら雷鎚やら濁砲が一斉に襲い掛かりその全てが直撃。

 水槍から解放された時には羽織っていたコート……衣類の全ては消し飛び、合金表皮は散り去り、むき出しのシャーシ骨格は欠損、ひび割れが多数。

 通常であればとっくに機能停止しているはずの損害だ。


 そう。通常であれば、な。


「ブレイン。監視装置は全て」

エネミーの攻撃で全部ばっちし壊れたよっ》

「そうか、なら……もう演技は必要ないな?」

「、、???、、、、ナんだと!!」


 夜行ヤコは絶句している──おれの胴を見て。

 なぜなら、なかったからだ。つい先ほど開けたはずの大穴が。


「悪ぃが超回復システムはお前らだけの専売特許じゃないってことだ。で、時間稼ぎはもう終わりにしようか。ブレイン、散布型反射緩衝フィールド展開開始だ」

《あいあいさー!》


 義体アバターのあちこちに開けられた孔から真っ黒な気体が噴出し始める。その色は急速に薄まり、空気とほぼ同化していく。


「教えてやるよ、ってことをな」


 さぁ、反撃開始だ。

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