Four minutes ago…

 後継者ディアドコイの臨時指揮官たる 祐強ヨウチァン曰く。



「一連の戦闘で気づきましたがヌトスが持つ神器・イージスはその名にふさわしき力があるようですね。自動迎撃オート・カウンターだけではなく……使用者に尋常ではないレベルの硬質ディフェンス耐久力HPゲージを付与するというもの。様子を見るに戦闘の時間経過に比例して度合いも増していく、と。本っ当に厄介ですね」


 実際、邪神がまともにダメージを受けたのはともえの卑劣な股下への初撃のみ。アダンの目から見ても、以降極彩色ごくさいしきの血は流れていない。


回復力リジェネが付与されてないのが唯一の幸いでしょうか」


 これもその通りで今でも邪神の股からはちろちろと血が太腿をつたい落ち、踝を河口とする小川を形成している。場所が場所だけに中々塞がらない様子。


「さてさてもしかすると我らは……彼らの戦術に嵌ってしまったかもしれません」


 戯言ではないようだ。


「ほら、もう長い事りあっているでしょう? 我らの手札と情報がね、盗られているんですよこの瞬間にも」


「もう! 今の一撃はすら凹ませることができるのに!」

「よいよい実によいサンドバッグだ、イツマデいつまでもその硬度を」

「褒めてる場合じゃないよこのおバカ鳥!」

「……(ため息)」

「おじさまのばか」


「とまぁこのように全然ダメージが入らなくなってしまいました。面白い偶然もあるものです」

「偶然?」


 つい聞き返す。

 曰く、

 自分と同じ人種である「あの人」も同じように自ら足を運び情報収集をする癖があるのだと。


「有名な戦場の原則に指揮官あたまが最前線に出るというものは愚策といいます。あたまが潰れれば生き残りたいという本能しか残りませんから。ですが原則は原則。何事も例外があるものです、我らも然り邪神も然り……でしょうか。まことに興味深いことです。そうそう、ついこの間アダンも会いましたよね。THE KING IN BRILLANFINITY、極彩衣の王Haxszthulrハスターに」

「!」

「目撃者がいたのですよ、影が薄い事で右に出る者はいない……そういう者が」


 疑問の声に椀を被せるように。


「さてさて――このまま情報を抜かれっぱなしというのは癪に障りますし、ここは彼女の特性についてより深堀をするとしましょう。あなた方ゲーム風に言えばスキャンとかいうやつ」



「過去の交戦データを――必ず見られる――――思うに――形態そのものに価値はなく――付与効果が強力な――性格もあ―――縛りと言うべきか戦略――――ガチタンクのソロ専――」



混沌人間ケイオス・ヒューマン・異形生命体ヌトス=カアンブル

 VS

 超人・ともえ &

 魔人・ザクウェ

 万融キメラ人工妖怪 百鬼夜行びゃっきヤコ

 邪射被爆妖鬼人ヤマトアヤカシオニ 以津真天ンいつまで




 激闘は終わりを迎えようとしていた。

 最もつまらない、膠着引き分けという形で。


「ザクウェくんザクウェくん、ちょっと聞いてよ」

「断る」

「疲れちゃった」

「真面目に戦え」

「えぇーいいじゃんもう完封したようなものだし、ね!」


 ともえの元に飛んできた雑、かつ尋常ではない力で叩き落とす。その光景に彼の更なる非難は萎んでいく。

 馬耳東風。いつものことであった。



〈神器・イージス……Change……Active mode!〉



 その後、ヌトスの動きは確かに変わったのだ。

 消極防衛パッシブ・ディフェンスから――積極防衛アクティブ・ディフェンスへと。

 彼女の持つ盾はもちろん、槍も神器の一部。

 これまでは盾のみが自動的かつ自在に反撃を繰り出すのに対し、〈Active mode〉以降は槍も加わる。反撃が始まるスイッチは攻撃から攻撃に変わったうえで――手数が倍に。その上加護の勢いが止まることはない。

 防のパラメーターが青天井に伸びていき、かつ攻の苛烈さはより増す。

 対策がなければ敗北は必須だろう。


 だがここに「対策」が偶然にも出来上がっていた。





 ともえの強力な一撃。大地を割るほどの踏み込みから放たれた対戦車砲の如き威力を持つ拳。彼女の細腕からは考えられないほどのその威力、本来なら10センチ以上の装甲を凹ませるほどのもの。それを――擦り傷以下のダメージで耐える。

 さぁ、反撃の時カウンター――!

 左手の槍がひとりでに蠢き、直線と曲線を無作為に組み合わせた軌道でともえに迫る。右手の盾も同じようにして、彼女を殺意が包囲しようとするが――


椒花女ショウカジョゾ天弓〗


 包囲は外より破られる。

 全自動で放たれる弓矢の数々が神器の軌道それぞれに干渉命中しその動きを阻害。

 次の瞬間、弓の主目掛けて神器は一斉に空中に走り出す。

 により殺意の文字通りの矛先が――ヘイトが――変わったのだ。


「フゥハハァアアいつまで隙を晒しているのだイツマデも!」


 そしてまたも包囲は破られ――神器は 以津真天ンいつまでの方向へ矛先を変えようと――


〖小百足ェ遊方ゆぎょう

七歩蛇シチホダェ托鉢〗


 ヌトスの胴体に次々と小百足や小蛇共がかぶりつき、体表・脂肪・筋肉の剥離食いちぎりを試みる。神器はまるで迷ったように一瞬宙にその身を止め、直ちに急降下。小さき不遜共を次々と串刺しにしていく。

 だがこれらは召喚物消耗品。ディアドコイ側に損失ダメージはなし。

 神器はすぐに行動を再開した。

 左右に半分ずつ分かれ、それぞれに展開する妖怪どもを叩こうとして――


「俺のことを忘れるなよ、悲しいだろ」


እሳት――የመሰብሰቢያው ነበልባል ይወድቃል!


 魔人が放つ魔法が頭上より直撃。2人を焼き払い局所的な高熱は大地を溶かし、その後急速に冷化。一面に見にくいガラスができあがる。


「ばぁ~っ、逃げないなんて度胸あるじゃんご褒美にハグしてあげるよ!」


 ともえの脅威的な復元能力は巻き添えコラテラルを恐れない。

 皮膚どころか筋肉と脂肪がドロドロ混ざり合った四肢がヌトスに絡みつく。淫靡さのかけらもないその肢体は一気に引き締まり、邪神の圧壊を試みる。

 だが全く手ごたえを感じず。

 先程の大火球にも難なく耐え、産毛の一本すら焼かれていないこの神体からだ。世界を支える巨木を抱いてるみたい……そう後にともえは述懐した。


「やっぱこのアプローチはダメかぁ、じゃあさっきと同じやり方で続けよう!」


 既に元通りとなった美肌を晒しながら――服は焼け落ちてしまった――ばっ、と拘束を解く。

 そして息を吐く間もなく続行される四方よりの猛撃。



 「対策」とはつまり、数の暴力。

 大人数で囲み、棒で叩く。ただし、一斉にではなく順々に、途切れることなく、延々と。ヘイト対象を確実に分散させ、攻撃の隙を与えない。

 偶然できた対策が機能するのは、これが古来より連綿と続くいくさの必勝法故に。

 が、それは相手がヒトの場合。

 この異常な防御を備える邪神相手には膠着に持ち込むのがせいぜいであった。

 それとも矮小のみで神と渡り合い、互角に持ち込むのだから十分という意見もあるかもしれない。


 ともかく、こういった光景が50分以上にわたって続いた。


 そして唐突に中断するのである。

 

 最もつまらない形である――外部による介入でもって。





「んっ……ちょっとみんな攻撃中止!」


 接近戦を挑んでいる故、最初に変化に気づいたのはともえであった。


 邪神の頭部、その中央に一本のひもが巻かれている。

 つう

   、

    と極彩

       色の血

          血

           血

           ぽたぽ

              た流れて。


 それは切断傷であった。

 

 断たれた北半球がずるり、と落 していく。

               下


(ちょっと、誰の――何処からの攻撃よこれ、今こんな鋭利なダメージを与えられる武器を持っているのはいな……ひょっとしてどこかそこら辺にいるの? ねぇ)


 ともえが、周囲の者らが呆然とする中で……



                        うおぉおおおぉぉぅぅんんんぉ

                       ううぅぅぅんんんんんぅぅううう

                               ぶっぉっぉぅん

                  どどどどぉぅうんぅううぅうぅうううぅどっ


   👀

 👀ギロリ👀

   👀



【来た……宇宙の……意志……果てに在る画面世の果てから……】



    👄

  👂👀👂

    👃



 話はここに繋がるのである。


 時は2301年7月17日、02時42分。

 激闘は終わろうとしていた。


 パラダイム・シフトが始まる。

 この時間はまだ「ゼロ」――何もなく、これより「ワン」となり――とりあえずは視点をしばし宇宙の端に移そう。


 さ、皆様、



               TO BE CONTINUED……END OF THE WALL!



~おまけ~

以下のURLは本エピソードの直前です!

どこがどう変わったか、もしお暇でしたら見比べてみてね!

https://kakuyomu.jp/shared_drafts/BjiXvyv10CriNBUthTt5i35mbatkZazE

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