?章:2298年 10月28日

邂逅

第?章 無意識の奥底にて             

                         

 夢の解釈は、無意識の活動を熟知する王道である。      

 ──ジークムント・フロイト













 

 それは世にいう自己対峙というものではなかった。「精神」と「肉体」の対話であった。


 そこは海の底。深い、ふかい、ゆめのなか。眠る者全てが還る場所。源心領域ドリームランド


 19世紀のとある心理学者はある時、人には意識化できない心の領域があることに気づき、それを「無意識の領域」と呼んだ。

 さて、仮に私達がこの領域に入れたとして、そこには何があるのだろう? 自分自身の投影? 隠され、抑圧された欲望? それとも……?



 ヒロシの場合、意外な光景が目に飛び込んできた。そこには先客の姿があったのだ。先客はヒロシの姿をしていなかった。いや、そもそも人間ですらなかった。


 「ソレ」は奇妙なほどねじくれた巨大な樹木であった。広葉樹のような、太い幹に数えられないほどの細い枝があらゆる方向に伸びている。しかし現実と違い、幹と枝は樹の全方向から等しく伸びていた。

 何よりその色は……この世界の「敵」と同じ色。鮮やかな極彩色ごくさいしき


 僕は即座に理解した。これだ。これが僕の中に潜むもの。そして「力」の源であると。

 自分でも驚くことに僕は「ソレ」を見ても恐怖は感じなかった。それどころか仲間意識を感じる。その理由は見当もつかないけど。


 この領域へと来るまでの僅か「2年」程の半生を振り返ってみる。気が付いたら保護されていて、何故か差別を受けて、何故か突然能力に目覚め、ただ言われるがまま

 ざっとこんな感じだ。

 そんな中、心のどこかで思っていた。自分の意志はどこにあったのだろうと。説明できない何かが欠けているんじゃないかと。

 でも、もしかしたらそれも変わるかもしれない。そんな儚い希望を抱きながら僕は極彩色に、奇妙に輝き力強く脈動する樹に向かっておずおずと話しかける。


「えっと、初めまして。でいいのかな?」


「これは驚きだ。オマエの方から俺の方に来るとはな」


 返ってきたその声は人間のものとは到底思えなかった。男でもあり女でもある、性別を超越した奇妙な、獣のような声。そしてこの声を聴いた瞬間、唐突に悟ってしまう。「ソレ」は僕らとは異なる、いや、逆方向に進化してきたということを。


 獼猴じこうの「君の中に潜むものはその行動から察するに悪意はないだろう」という仮説。


 呂玲ロィレンの「戦場でよく嗅ぐ邪悪なニオイだ! だが悪くない、い者のニオイだ!」という鋭い、天性の勘による評価。


 今まで聞いてきた僕の……いや、僕の中に潜むものに対する様々な答え。その真実を今、ここで確かめる! そう生まれて初めてというものをして「ソレ」と対峙する。



「それで? 何の用だ? まさかこの体から出ていけと言うんじゃないだろうな。癖によ」


「…………最初はそう思っていたんですけどね」


 息を大きく吸い込み、次の言葉を「ソレ」に向かって投げかける。


「僕はあなたのことを知るためにここまで来たんです」



どうしてこうなったのか。話は一週間程前に遡る。


                               第?章 END

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