会議再開

「では、次の議題に移ります。黒田大臣、現在展開可能な兵力はどの程度ですか?」


 桜宮様に指名された黒田大臣(軍民問わず物資補給を担当している)が立ち上がり答える。


「これに関しては誠に残念な報告をせざるを得ない状況です陛下」


 黒田大臣はそう前置きして続ける。


「もはや説明の必要もないと思いますが、念のために(一瞬こちらを見た、気がする)。先の「こん」作戦においてわが方は今までにない規模の大敗北となりました。比叡山の国内用対人転送装置を用いて敵の一大拠点である名古屋城付近に強襲をしかけ敵の主力を一挙殲滅する。というのが本作戦の骨子でした。また、理由は不明ですが敵にとっての最大火力を提供する黒船・白船が三河湾、伊勢湾に停泊していなかったことが本作戦を強行する最大の要因であったわけですが」


 ここで一旦小休止して大臣は続ける。


「今にして思えばこれは敵の罠であったように思います。わが方は転送装置をその限界を越えて作動させ、凡そ20万の兵力を弥富市へ送り込み簡易陣地を作り、その後名古屋城へと進撃しました。異変が起きたのは本隊が名城公園跡に到着、交戦始めた直後に起きました。辺り一帯に突如大地震が発生。周囲の地形が凄まじい速度で変化し……わが軍は大地に飲み込まれてその大半が帰らぬ人になりました。そしてわが方の生き残り、正確な人数は未だ集計中ですが、再集結したわが軍は急いで転送装置を使用。最も近場で転送可能な都市である鈴鹿市へと転移テレポートしました。ここで装置がオーバーヒートを起こし使用不可となったため、徒歩でもって帰還することになりました」


 ここで大臣は少し言葉を詰まらせた。ここから先は言いたくない、と表現するかのように。


「そして帰還中にまるで示し合わせていたかのように敵の奇襲を鈴鹿峠にて受けたのです。壊滅しかけ統制もままならない中、こうして私達が生存しているのは……」


 黒田大臣が体をこちらへと向けた。その眼には敬意と感謝が浮かんでいた。


「そこにいるヒロシ殿が──二つ名は「勇者」でしたかな、宇喜多大臣?」

「そうです、その通りです黒田大臣。大変素晴らしい記憶力をお持ちで──」


 小声でまた始まった宇喜多大臣のおべっかを黒田大臣は無視して続ける。


「──が単身で敵を引き付け、更には一度戦死したかのように見せかけて敵方の油断を誘いこれを殲滅した。この様な経緯で我々は全滅を避けられたのです。ただし! 撤退戦時に突如として発生した「混沌の颱風ケイオス・ハリケーン」による感染により非常に多くの死者を出しました。結果、生き残りは20万人中、僅か1万でございます」


 その悲惨な数字に会議室にいる者達は皆、一様に沈痛な表情になった。予想していたとはいえ改めて数字として出されるとその損害の多さに衝撃を隠せないようだ。

 桜宮様はいち早く衝撃から立ち直り黒田大臣に問いかける。


「つまり、我が国の軍は事実上壊滅したのですね?」


「恐れながらその通りでございます、陛下」


 黒田大臣は俯きがちに答える。

 今回の作戦、立案したのは彼であった。その姿は敗北の責任の重圧を一身に受けているようにも見える。


「今動かせる兵数はどの程度ありますか?」


「……補給の観点と予備役を総動員して、3万程です。それ以上は絶対に不可能です。なにせ我が国の人口はもう10万程しかないので」


 そう答える彼の背中はかすかに震えていた。


「黒田大臣、その兵数で械国との戦いは続けられますか?」


 桜宮様は黒田大臣の目を真っ直ぐ見据えて質問した。


 一瞬、目を逸らしたが直ぐに桜宮様へと視線を戻し……全てを絞り出すかのように答えた。


「……! 不可能です。この状態では精々しかできないでしょう!」


 彼女はその声を聞いて目を閉じる。数秒程何かを考えた後再度目を開ける。何かを決心したかのように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る