新任務発令
「では……
「は、はい。え、えっとですね……」
指名された成析が立ち上がりぼそぼそと話始める。その顔はぼさぼさとした髪の毛によって半分以上隠されている。なので僕は彼の目をまともに見たことはなかった。
「げ、現在の近畿地方のCCPA値(大気中に存在する「混沌」の濃度Concentration of "chaos" prese in the atmosphereの略)は既に1%もの割合を示しています。こ、この数値は先週と比べて2割ほど増しており、こ、このままCCPA値が急激に増加し続けると仮定すれば来週頃には混沌の颱風の発生条件となる1・2%をみ、満たしてしまいます。せ、先日にも突然発生した混沌の颱風もそうですが、
そこまで成析が言ったとき、突如として議場が振動する。建付けの悪い机や椅子がカタカタと鳴る音が辺りに響く。これは、地震だ!
「い、今の地震は恐らく富顎のげっぷか何かの余波でしょう。み、皆様のご存知の通りあれはかつて存在した霊峰富士の生まれ変わりですから、す、少しでも身じろぎするだけで周囲に多大な被害をも、もたらすので」
成析は自身の予報が半ば的中したことに嬉しさと悲しさが同居したような
「それでは数日中に異形生命体の
桜宮様は立て続けに発生する苦難に疲れを感じさせるように小さなため息と共に言った。
その後、会議は残された数少ない兵力を市内のどの地下通路に配備するかという話になり、そこからは暫く議場は荒れた。
誰を何処へ配置するか、そもそも防衛ラインを縮小するべきか……云々。
今までなら超人の数は1万を軽く超えていたので都市防衛にはある程度の余裕があった。でも今は戦闘向けではないのも含めて数えるほどしかいない。
議論は白熱していく。
そんな彼らの様子を僕は冷めた目で見ていた。
僕の能力はその全容を全く把握できていない。普通の超人であれば自身の能力について生まれた瞬間から正確に把握し自らの意思で行使できる。でも僕は何故かそれが出来ない。生まれつき、ではなく半年ほど前に突然能力が出現した、ということもあるかもしれないが……。
大勢の人達に超人として認められていない最大の理由がこれだ。使用時には意識が飛びまるで別の誰かが乗り移ったかのように大暴れする、らしい。その間の記憶は一切ないから、こんな言い回しになってしまう。
そしてこの大暴れする誰かさんは異形生命体に対しては何のアクションも示さないのだ。
観察していた博士さんやチトセ曰く、「ただボーっとしていた」とのこと。
こんなザマなので異形生命体との戦いには何の役にも立たない。なのでこの議題になってしまえばもう僕は関係のない、というわけ。
兄さん、姉さんを含めて議場の人達はどうやって残された臣民を救うか、という事に知恵を絞り、頭を悩ませる様子を見ていると、いつの日からか頭の中に濁ったモヤが湧き上がって来るようになった。
基本的にこの国では彼らの行いはその成果の是非を問わず殆どの臣民に支持される。
「この苦しい状況で
「それ故結果を問うなぞ誠に恐れ多き事である!」
「ありがたや、ありがたや……」
大体こんな感じで大きく感謝される。
その一方で自分は? 活躍してもしなくても、いやすればするほど嫌悪や恐怖による差別の勢いは増していく。
そう考えるとうまく言葉にできない感情が湧き上がって来る。
これは、一体何だ?
一人で悶々と考えていると、時は早く過ぎるもの。いつの間にか結論が出ていたようで桜宮様の声が議場に響き渡る。
「では、左京区は風香さん、最も異形生命体が出現すると思われる北区にはこの中で最も強い麻里さんと鈴さん、右京区には天野さん、そして南区には叶さんと替さんをそれぞれ担当することにしましょう。七癒さんは私と共に中京区に万が一に備えて待機を。皆さん、今まで以上に激しい戦いとなるでしょう。どうかその力を貸してください」
桜宮様はそう締めくくった。
名が上がった超人たちは一斉に立ち上がり(麻里は体が弱いため杖を借りて。叶は下半身が麻痺しているので車椅子に座ったままで)、
「我ら一同、謹んで命をお受けいたします。この国の為、民の為にこの力を振るい、極彩色の悪鬼羅刹共を駆逐することをお約束いたします」
と全員が息を合わせて拝命の受け答えをし、桜宮様へ一礼した。
「さて、最後に……ヒロシさん」
「は、はい」
急に名前を呼ばれて慌てて立ち上がる。そうだった。ここに来たもう一つの目的は新しい任務を受け取ること。そのことをすっかり忘れていた。
果たしてどんな内容だろう?
「あなたにはこれより
……へ? 僕は予想外の内容に固まってしまった。
てっきり「単身で敵陣に侵入し大将首を取れ」みたいな内容だと思っていたからだ。なので次の一言は我ながら大分マヌケなものになった。
「それって……俗に言う左遷ってやつですか?」
議場は水を打ったように静まり、前方の席に座る麻里のあきれたようなため息が辺りを満たした。
第1章 END
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