語るは戦争

 現在国を挙げて遂行中の軍事作戦「十災禍ネフィラ・ザァウ」の概要は以下の通りです、ヤズデギルド陛下。


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作戦名:十災禍ネフィラ・ザァウ


主要目標:シナイ半島南部に存在する連結要塞群「セント・カリタナ」(第四帝国は第4号要塞と呼称)、以降はこれの呼び名コードネームを「修道院」とする。


副次目標その1:修道院内に存在する超々先史遺物シャッガイの遺物、『アカシック・レコード』の破片を鹵獲すること。

副次目標その2:スエズ地峡に存在するイスマイリア=ティムサーハ湖上要塞(第四帝国は第3号要塞と呼称)、以降はこれの呼び名コードネームを「旋回橋」とする。


参加兵力(兵団の詳細については別資料に記載)

・陸軍、300万。常備軍が120万(予備兵力30万)、予備役よびえき及び後備役こうびえきが180万が内訳となる。後者は万が一の時の兵力で本国にて待機状態である。また、常備軍の中にF文明出身の多種族部隊は計10万である。

・空軍、有人機5000、無人機7000の計1万2千機。有人機には騎竜兵を始めとする調教済み生物群も含む。

・海軍、本作戦には参加せず。但し十災禍ネフィラ・ザァウ前段階助攻として実施される「海上妖精・波風」作戦にはオオキバ提督が率いる第2遊撃艦隊が参加する。

追記:先程提督からの報告によりX艦隊の支援を要請したとあり。


本作戦の目的

1.第四帝国が我が国を侵攻する足掛かりとして建設した4つの要塞基地、その1つを確実に陥落させることで要塞同士の連携を崩し、反撃の一歩とすること。

2.我が国の2つの聖地、首都ギガポリスクテシフォンと起源オリジンエルサレム、これらからなるべく戦線を遠ざける。

3.超々先史遺物シャッガイの遺物、『アカシック・レコード』の破片を鹵獲すること。これにより我が国も無限の物量を再現できる可能性が高まり、来るべき異形生命体への切り札となりえる。

4.紅海及びアラビア海、ひいてはインド洋の制海権の確保を確実なものにする。現在、当海域のシーレーンを脅かしている第四帝国の潜水艦Uーボート部隊は「修道院」にて生産・出撃されていることが判明している。故にここを制圧することで潜水艦Uーボート部隊を壊滅させることができる。


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 まず、オオキバ提督が率いる第2遊撃艦隊が去年の10月31日にマスカット軍港より出撃。彼らは超々先史遺物シャッガイの遺物、『キープレートの錠前』の探索部隊という魅力的な餌をぶら下げつつマダガスカル島へと向け進撃しました。

 そして餌を喰らおうと集まるオオカミUーボート共を片っ端から撃沈。そのスコアは既に47にも及んでいるとの報告が入っております。

 こうしてまず第四帝国のプレイヤーの目を西インド洋へと引き付けます。


 次に同じく去年の12月25日に陸軍6個師団、計10万人がガザ基地より出撃、Bir El エル Malhiマハヒへと進出。仮拠点を設営。その後無数の襲撃大隊を組織しシナイ半島南部に存在する第四帝国の小拠点を襲撃。と同時に空軍が「修道院」、「旋回橋」に空爆を開始。

 いかにもこれから攻めるぞ、というを作り出します。


 そして今年に入って直ぐに陸上部隊の主力35個師団、がアシュケロンとベエルシェバ基地より出撃。Alアル Mazarマザールへと進出しました。


 それを受けて第四帝国軍は「修道院」より出撃。シャルム・エル・シェイクからエルトール、アブ・ゼニマ、ラス・スダー、つまりスエズ湾沿岸部を経由しグレートビター湖東30キロの地点に布陣しました。そして現在、Bir El エル Malhiマハヒを両翼から包囲するような形で展開中です。流石械人かいじん兵ですな、生身の我らではあんな場所に布陣することなぞ普通できません。


「質問があるんだけど、敵の兵力は?」


 通信傍受や偵察機の報告によりますと最低でも100万は超えているとのことです。


「えっ、そんなに!? 敵は兵站とか考えていないのでしょうか」


 そこを指摘されるとは陛下も少しずつ戦略について勉強されているようですな。その通り、敵は。その理由はわかりますか?


「ええっと、『アカシック・レコード』の力を利用したものでしたっけ。無限に物質を生成できるという」


 はい。旧時代、21世紀序盤に存在していた日本国という国が偶然引き上げ、様々な恩恵と狂いを同時に齎した、おそらくによる遺物です。ご存じのように我々はそれを超々先史遺物=シャッガイの遺物と呼称していますね。

 『アカシック・レコード』によって厖大な物資を生成できるから、兵站のことはあまり考えないのが彼らの癖なのでしょう。

 そして作戦目的の3にあるように、これを奪取することで戦略的に有利になりえる可能性があるのです。もっともアカシック・レコードは無機物のみ生成できるので第四帝国ほど上手く扱えるか、不透明な可能性となっています、残念ながら。


「そっか、械人かいじんは飲食とか必要ないから僕らと同じ考えで戦争してないのか……あれ。そもそもアカシック・レコードって僕らにも扱えるの? 普通セーフティとかかかっているイメージがあるんだけど」


 陛下の疑念はもっともです。我らの無能ぶりを暴露するようなものなのでお恥ずかしい限りなのですが、現状「わからない」というのが結論です。なので複数個入手し真理省にて研究をしたいと考えている、とパラケルスス研究主任が。

 前大王、キュロス様はこれを許可し、極東にて『王の刃』ガイアン・アブスパールの手により回収された現物が早速解析され始めております。吉報をご期待ください。


「わかった。話の腰を折ってしまってごめん。報告の続きをお願い」


 承知しました。

 彼我の本日までの動きは以上となります。これから先は予定されている今後の動きを説明致しますがその前に陛下に1つ、確認しておきたいことがあるのです。


「?」


 それは……本作戦のGO! サインです。


「GO!、サイン……?」


 はい。この作戦は元々我々軍部が立案し前大王、キュロス様が許可されたものです。そして陛下は今、キュロス様と同じ立場にいるのです。


「つまり、例えばなんか気に入らんので中止だ中止!……っていうこともできるの?」


 おっしゃる通りです。陛下はこの作戦、許可されますか?


「でも今中止したら、これまでのじゃないですか」


 ハハハ、陛下、で物事を判断するのはあまりよろしくありませんとこのマンデラ、恐れながら諫言させてもらいます。

 簡単に申し上げますとこの地球史上、「明らかにやめておけばいいのにそれまでの積み重ねが無駄となる」という理由で強行され、結果惨敗となった事例が数多くあります。

 そして幸いにも十災禍ネフィラ・ザァウはまだ始まっておりません。いわば準備を終えた、段階なのです。そのため今ならまだ中止が、間に合います。

 これ以上作戦が進むと中止するのも大量のエネルギーが必要となり、困難となるのです。山頂から転がる雪玉が麓につく頃には手に負えないほど大きくなってしまう、そう例えることができるでしょう。

 

「聞きたいんだけど。勝てるかな、僕たちは」


 もちろんですとも。


「でも僕の一言で大勢の人が死ぬかもしれないんだよね」


 敢えて言いましょう。その通りです。既に陸・空合わせて死者は500を出しております。海の方でも400ほど。オオキバ提督からの報告では駆逐艦4隻、巡洋艦1隻、潜水艦3隻がとあります。

 ですが陛下、まず大前提としていくさに犠牲はつきものです……第四帝国は別ですが。そして私は、配下の将軍らは決して犠牲を恐れず、かつ最小限の犠牲で済む戦いしかしないことをここに誓います。


「わかった。君たちを信じるよ。GO! だ」


 ありがとうございます。


「それで、この後どう動くの?」


 それではまず現在の両軍の位置を簡易的に表示した地図をご覧ください。


「…………高台であるBir El エル Malhiマハヒを中心にして右に倒した「コ」の字みたいだね。その上、Alアル Mazarマザールに主力を置くという形になってる。それについ先ほど更新された敵軍の動きにHasnaハスナ方面に進出ってあるんだけど。……ねぇ、これ、包囲されかかってない?」


 正にご慧眼の通りです、陛下。そして彼らの動きは全て予想通りなのです。


「ええ!? 流石の僕でもこの状況は不味いってわかるよ! 予想通りって言ったけど本当に大丈夫なの、元帥?」


 もちろんでございます。これで敵の目は先に申した西インド洋とシナイ半島上部へと完全に引き付けられたわけですな。ご安心を。この動きは全て我々の思うツボなのですよ。


「そうなの? あっ、例えばBir El エル Malhiマハヒにアルカマくんを置いて絶対的な防御を敷いてから……Alアル Mazarマザールの部隊が動く、みたいな感じ?」


 ほう。それは中々に堅実な案でございます、陛下。ですが彼はまだ翠玉国すいぎょくの緊急任務から一週間前に帰還、全身の総取っ替えをしてからもう随分と時間が経ちました。仮に今彼を派遣したとしても3日も持たないでしょう。

 

 さて、恐らく敵は明日の明朝には総攻撃を開始すると思われますが──










 ──その前に、これよりわが軍は敵の中央に総攻撃をほんの少しかけ、少しした後に後方へと退します。包囲の袋が閉じる前に。


 そしてこの一手が、勝利へと導くのです。


 


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