記録映像

 うっ、ぐっつ、あ、あああああぁぁああっ、ぎ、ぎぃぃ

 あたまわれるかきまぜられるすくわれるほじくりかえされるふっとうするしめつけられるうらがえるまふたつになるまざるまざるまざるわたしうすくなるきしゃくされるしずむおりになるにえぎたるあわだつくるしいくるしいとびだす目が

 だれがおまえのような虫にわたっす、ものかぐぅううっ、あ、が、がぎぃぃぃっ!?!?!?づづううう、ぜ、あっぎ、ぐああざか、あああっ

 ⦅強情な女だ。もう200年も経つのに未だ抗うとは。折角多少は自由にしてやっているというのに、わからずやだな。誰も助けに来ないぞ。もちろん元カレもな⦆

 づづづっあ、がぁああっ!まけるものか、おまえたちディア、ぎぃいあぐっ⁉

 ⦅しばし寝てろ。なに、ちょっと覗くだけさ⦆

 たすけ、て、、、あ。

 涙、涙、涙、滝、涙、涙、涙、滴、涙、涙、涙、濁、涙、痛、求、助、助、解放





 静寂と書かれたカーテンが勢いよく開けられた。


 コツ、コツ、コツ、コツ…………

 《南沙人工岛天空/海军基地》、最下層。本来であれば誰かしら人がいるはずであるこの場所は、今、誰もいない。対岸の国で発生した「最終決戦」を支援するべく全ての兵士陸軍が招集されているからだ。

 もっとも、その数は非常に少ない。


 翠玉すいぎょく国はかつて数千年にも渡って君臨した祖先たち中国と違い、その4千年の歴史の中で敵対し続けた遊牧民と似たドクトリン戦術を採用している。

 簡単に言うと腰を据えるのではなく常に移動しながら、「反撃される前に倒す」という、遠距離主体の戦い方だ。

 異形生命体との戦いは接近戦が著しく不利な感染リスクが高まる点もその戦術の採用に拍車をかけた。

 が、決定的に違うのは生活基盤がであることだ。海人を陸人に即座に変えるのは極めて難しい。ガレー船の時代古代や中世やロシア海軍歩兵の様にはいかないのだ。


 翡紅フェイホンがヒロシを欲しがるのも、超人達を受け入れようとするのも当然。欲しいからだ。これから必要になるであろうが。

 陸上での、突発的な事案が発生すると重要施設までガラ空きにせざるを得ない。翠玉国が潜在的に抱える弱点の一つだ。


 扉の前に立ち、かつて日本で売られていたジョークグッズを元に魔改造されたインターフォン。その電子防御ファイアウォールを易々と突破する。

 ギャ────ッ! ヘッヘッヘッヘ~

 愛嬌のある、ちょっと不気味な笑い声電子音が廊下にこだまする。

 

 

 確かハロウィーンで売られたものだったな。そういえば今日も同じ日か。

 彼女は誰に解説をするまでもなくそう考えながら部屋に入った。大量のモニター群が特徴の、その部屋はこの国の主のもの。

 もちろん断りを入れるはずもなく、無遠慮にデスクに近づきコンピューターを起動させる。

 無骨な起動音が部屋に響く。


 ∧ ∧

(≧∀≦*)ノ~いらっしゃい♪ 

ようこそ! わたしはこのコンピューターの管理をフェイホン様より申しつけられている「ねこVer.404」です! 

よろしくおねがいしますね!

ゲスト 様は初めてのログインですね? IDとパスワードをお持ちでしたら下の画面に入力を、お持ちでなければ申請手続きをおねがいします♪


 キーボードを操作する音


 ∧ ∧ 

(≧ヮ≦●)ノ~入力ありがとうございます! 

……縺倥%縺、様ですね! ログインを承諾致しました!

本日はどのような御用でしょうか?


 キーボードを操作する音、Enterキーを力強く押す音!


  ∧ ∧

(*≧ω・)ノ~録画ファイルの再生、ですね! 承知しました!

以下のファイルでよろしいですか?

 作成日時:2298/10/26、09:23

ファイル名:会談録⑨、字幕付き

  作成者:翡紅(フェイホン)

  参加者:翡紅、遣翠使団けんすいしだん団長曲直瀬まなせ、同所属書記睡蓮すいれん


 <はい いいえ>


   ∧ ∧

 \(*^▽^*)ノ~只今読み込み中です

 <再生開始>


翡紅: 「よっと。さて、始めましょう。移動したばかりで疲れている中、しかもこんな朝早くから悪いわね」

曲直瀬:「いえいえ! こちらといたしてもこの問題は早急に解決するべき事案ですから」

翡紅: 「双方にとってもね。その前に……今回はどんな本かしら?」

曲直瀬:「睡蓮、こっちに持って来て。……ありがと。どうぞ、十干支じっかんしの宇喜多からの贈り物友好の品です。お受け取り下さい」


(曲直瀬が両手で翡紅に7冊のを一冊ずつ渡し、更に一枚の、細長い、太さ1センチ長さ20センチ程のを渡す)


 <一時停止>

 <拡大>


 動画の質はかなり粗くわざとか?、紙切れや紙片に何が書いてあるかはわからないが、辛うじて本のタイトルはわかった。

 『ゾンビと不運』、『デンノコ男』、『服を継ぐもの』、『Love Craft 全集3』、『イーリアス』、『就職転生7』、『ロボイドは十一脚獣の角度を見るか?』であった。

 ……全くもってわけがわからないよ。こんなもの文字列をヒトはする生態なのか? くたばってしまえ。脳を喰らうこそが最もエクスタシーを得られるというのに。そんなこともわからんとは!

 彼女は思わずぼやいた。それは自身価値観文化から見てあまりに異質である故に。


 <縮小>

 <再生>


(翡紅は、紙切れを一瞥いちべつし、棒に紙片を巻き付け、それを眺めた後。猛烈な勢いで本たちのページをめくる。時折、特定のページを舌でめ回すようにじっくりと読む。その作業が10分ほど続いた)


翡紅: 「へぇ。そんな感じなのね、そっちは。団長、どうもありがとう」

曲直瀬:「どういたしまして……? 陛下、前からの疑問でしたが、いつも何をされているのですか?」

翡紅: 「うん? そうねぇ……ちょっと聞きたいんだけど。一見バラバラな、意味不明の文字列の中に、特定の記号を暗に仕込むことってできると思う?」

曲直瀬:「その文字列はバラバラなんですよね? なら無理なのでは? そんな人間離れした芸当、できるわけないでしょう」

翡紅: 「そう。ま、これはね、ちょっと集めているだけだから。気にしないで。さてと、は持ってきているわよね?」

曲直瀬:「はい、ここに。それでは」

翡紅&曲直瀬「起動!」


(二人は同時に球をつぶした! すると不可思議なことが起きる。ガラスが割れたような音ともに球は弾け、破片が空中に飛び出す。それらは浮遊しながら、原始惑星群が惑星へと成長する過程のように一か所へと集まり、やがて30センチ程の人型へとなった。人形の形が整えられていき、ある人物の姿となる。その黒いドレスを着た人物は──)


翡紅: 「半年ぶりかしら? 久しぶりねサクちゃん桜宮菊華

桜宮: 「ええ、その通りね。ごきげんようフェイちゃん翡紅

翡紅: 「相変わらず便利な神器ね。創り出す犠牲と手間暇さえ除けば旧文明を凌ぐ道具じゃない、これ? どんなに距離が離れていても一切のタイムラグなしで会話できる。例えば──地球と冥王星の間でも。宇宙開拓時代1960年代の科学者たちが見たら是非とも欲しがるでしょうね」

桜宮: 「ふふ。確かにその通りね。でも当時の人が、この神器を創るには最終的に私の両目をり貫かないといけない、なんて知ったら──どうかしらね」

翡紅: 「さあて。案外平気かもよ。人は見知らぬ他人の痛みに鈍感だから。第三次世界大戦対異形生命体時に徹底的に使い潰した現代の大英雄・凪、のようにね。そんなことよりサクちゃん、大分見た目変わったわね。顔立ちもそうだけど、前会ったときは桜色だけだったでしょ。髪の毛」

桜宮: 「ええ。今の私は桜宮とナタリヤ、2人で1つの体ですから。見た目もそれに影響されているのでしょう」

翡紅: 「そう。さっきその詳細を知ったけど。暗殺未遂事件の時よね? 重症を負ったナタリヤを助けるためにお互いを喰らいあって、あらたな命を、神器を創った」


(桜宮の形をした人形がこくり、と頷く)


翡紅: 「──彼女ナタリヤにも私のこと、見えてる?」

桜宮: 「……Я рада, что со мной все 元気そうでбыло в порядкеよかった。. Давай ещеまた今度、 раз поговорим наいっぱいおしゃべり этот разしましょうね!!」

翡紅: 「──!! да. ええ、Обещать!約束よ!


<一時停止>

<再生速度:3倍速>


 その後の2人の会話は難民を受け入れる際のルールや仮住まいについて、最終的な役割分担の話となった。動画内の進捗バーを30分ほど進めた後、彼女はその手を止める。ここから先の内容が最も重要であった。


<再生速度:通常>

<再生>


翡紅: 「──神国日本のタイムリミットはそちらの混沌予報が正しければ、混沌の颱風ケイオス・ハリケーンが収まるであろう10日後。それまでに大急ぎで多国間用対人転送装置ワープゲートの修理を完了させ、こちらにそちらの全住民を避難させる。私達の人口は50万から60万になる。これで簡単な認識は共有できたわよね?」

桜宮: 「問題ないわ。さて、最後に1つお願いがあるのだけど──あなたが5年前から本格的に準備をし始めた『遷移計劃』の最終的に決定した航路について、教えて欲しいわ」

翡紅: 「いいわよ。じゃぁ、地図を出すから少し待ちなさい」


(翡紅はそう断りを入れ、席を立ち、10秒ほど後、部屋の奥から世界地図を取り出してくる)


<一時停止>

<拡大>

 

 ……ちっ。画面が荒すぎだ。どんだけ解像度を低くしやがったんだ! はぁ。面倒くさいが仕方ないな。


<Yindowsキー+← 画面分割コマンド>

<Yindowsキー+R [ファイル名を指定して実行]ダイアログを起動>

<cmd コマンドプロンプト起動コマンド>

<Command: C\Home Huyeihon>Data>World>type Atoras_30:122~6:79.sys 「アトラス世界地図」アプリケーション起動>


翡紅:「さて、それじゃあ。私達が今いるのがここ上海の杭州湾。まず、私達の唯一の領土、海聚府ハイジューフーは基本的に4つの『』に別れて行動するわ。『先遣队』、『搜集队』、『防御队』、そして『大篷车キャラバン』。ちなみに、今いるのが『大篷车』ね。それ以外は既にあちこちに出立しているから、彼らを回収しつつ、『遷移計劃』の最終目的地である中央大藩国の最東端の都市であるコルカタへと向かう。その進路はというと──」


 翡紅の指が進路に沿って動く。その動きを要約するとこんな風になる。

 現在の海聚府は3つの大キャラバンとなり、上海の杭州湾を出発。中国沿岸を南下し、台湾海峡にある金門島にて数か月停泊。

 その間に台湾やバシー海峡の小蘭らんしょ島、バタン島、コレヒドール島などにいる『防御队』を回収。香港島、海南島を経由しダナンへ。

 その後はインドシナ半島に沿う形で南下し、中継地点のシンガポール島へ。

 一年の休息期間を経てマラッカ海峡を通過しアンダマン海のニコバル諸島、そしてアンダマン諸島へ。

 そうしてヤンゴンへと向かい、この時点で各地に散らばっている『先遣队』、『搜集队』を全て回収。

 そのうえでベンガル湾へと入り、チッタゴン、そしてコルカタに到着する。

 ……改めてみると凄まじい規模だな。「ゲルマン民族の大移動」のようだ。彼女はそう思った。


桜宮: 「ずっと陸地沿いに進まないのは異形生命体の群れを避けるためよね? 長時間とどまると集まってくるから。そしてコルカタに到着したら、翠玉国は中央大藩国に併合される」

翡紅: 「その通りよ」

桜宮: 「ねぇフェイちゃん。彼の国と私達は全く対等の立場じゃないわよね。何を条件として犠牲にして、私達をどうか保護してください、ということを大王に頷かせたの承諾させたの?」

翡紅: 「簡単な話よ。私の純潔を捧げるのよ。大王・キュロス3世にね」

桜宮: 「……!!」

翡紅: 「そんな顔しないでよ。私はただ「膜」を守り通して参上するだけで、大勢の民が保証されるのよ。尊厳と命を。なら、いい取引じゃない。どの道貴方と違って私のはあとちょっとで消える。なら、使えるモノは全て有効活用しないと、ね?」


<一時停止>


 フン。明らかに無理をしているな。心情的にも、肉体的にも。まあ、「召喚」の能力は数ある超能力の中でもトップクラスの代償を請求するからな。

 さてと。もう用事は済んだ。


 キーボードを操作する音、マウスを左クリックする音!


 ∧ ∧

o(*≧ー≦)〇ノ~ 縺倥%縺、様。ご利用ありがとうございました! 


 電源が切れる。

 響く足音。

 コツ、コツ、コツ、コツ…………

 ドアが無機質な音と共に開かれて。

 再び静寂のとばりが落ちた。



 読者の皆様、こんにちは。ラジオ・Kです。

 今回のようなクッソ読みづらい本エピソードを読んで頂きありがとうございます!

 地名等で ??? な部分がありましたら世界地図と比較しながらお読み頂けるとわかりやすいのではないかと思います。


 また、この場にて海聚府ハイジューフーの各「」について若干の解説を行おうと思います(本文中でもサクッと解説する予定です)。


・「先遣队」:太平洋(主に南シナ海)各地に赴き、停泊拠点になりそうな場所を                

       捜索、前哨地を建設する。最も人員が少ない。

       旗艦は重工作艦(旧コロッサス級航空母艦)「トライアンフ」。


・「搜集队」:太平洋各地に存在する旧時代の遺物、資源を回収、各拠点間の兵站

       輸送を担う。最も隻数が多い。

       旗艦は仮装巡洋艦「ヴィダー」。


・「防御队」:「先遣队」が建設した前哨地を防衛する。最も隻数が少ない。

       旗艦は海防戦艦「デ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン」。


・「大篷车キャラバン」:翠玉国の首都を担う。「先遣队」が設営した停泊拠点を約4ヶ月ご 

       とに転々とする。当然、最も人員が多い。現在ヒロシ達がいる場所で

       もある。上海の前は青島チンタオにいた。

       旗艦は大和級戦艦「信濃」及びブルー・リッジ級揚陸指揮艦「ミッチ

       ェル」。

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