寝起き・おくすり・現状
頭と肩が柔らかく固定される。
最初は接触していただけなのに、やがて少しずつ浸透していく。ドアの隙間から漏れ出る水のように。
やがて扉がこじ開けられ、完全に決壊した。
泡立つ粘性を伴う大量の水と湿り気を帯びたざらりとする肉片が侵入。一方的に蹂躙を始めた。
「……!?、ん、んんー!?」
最初は中の広さや間取りと確かめるように、ゆっくりと。が、5秒ほど経つと動きは激しくなり、自身の肉片と絡み合い始める。
決して大きな音ではないが、確実にそのねちっこい、淫らな音は耳介から外耳道を通り鼓膜を震わせ、それはやがて聴神経に伝わる。こんな風に。
「……んっ。ぺろ、はむ……れろ、ちゅっ。……ん、ぅ、じゅる、あむ――っは、ん、れろ、じゅるぅぅ――」
現在、翠玉国は貨客船「エメラルド」の一等船室。日は28の
頭の中は大混乱。何故か全身、特に顔に強烈な熱気が上がってきて――うまく形容できないけど、とりあえず心臓がやけに鼓動していることだけがわかる。
目の前には潤んだ、見たこともないはずの「星」が紫色の空にきらきらと
やがて、「――っ、は、あぁ」という
証拠である。
ファーストキスをティマドクネスに奪われたのだ。
2人の支配権は熱によって完全に掌握された。
〇〇〇〇〇〇〇〇〇
大地を愛せよ 大地に生きる
人の子ら 人の子 その立つ土に感謝せよ
(人の子ら 人の子ら 人の子ら 土に感謝せよ)
平和な大地を 静かな大地を
大地を褒めよ 頌えよ 土を
――『土の歌 第7楽章「
作詞:大木惇夫 作曲:佐藤眞
なんとしても海へ戻るのだ。放浪の暮らしへ。カモメの道、クジラの道へ。肌を切り裂くナイフのような風が吹く場所へ。
――ジョン・メイスフィールド
第5章:かりそめの新天地にて
あいつなんてことを!どうにかしてかいほ
どうやって
あまいかるいしんけいどくをただよわせ みんなうごおけなく【邪魔はさせない。】あいつにはげんかくをみせて【ほう。この歯、イイ感じだ。採用!】みぎへんけい、かみつきえぐりはんぶんになった へしおるじゃま。とおくどばず。どくをいれる【さて、上澄みたっての希望だ。優しく回収っと。】びちゃんびちゃばちゃっぺちゃりするりぐちゅりどばぁべちゃっばちゃぐちゃっ……はらり。「……あなたにはな……」「なまえなんていう……」「そりゃーいまおまえをいきおいでころ」「はじめてこんたくとするそんざ」
「……? ちょ、ちょっと待ちなさい! なら最後に」
閃光。帰還。起床。
「……はっ!」
はぁはぁ、と急いで荒い息を口でつく。一筋の汗が頬をつたい、
「ここ、は、どこ? あれ、さっきまで僕は確か……」
僕は
「……あっ」
「……お加減、どうですか? 突然……酷く
人差し指1本ぶん程の、至近距離でティマがこちらを心配そうにのぞき込んでいる。目だけを動かして右手を見ると彼女の両手に包まれていた。看病してくれていたのだろうか。
「だ、大丈夫です。夢? を
「……私はそう思いました。 つい5分程前までは静かに寝ていたのですが」
ティマは少し小顔を傾けながらそう答える。ん? 待てよ。さっきまでの記憶がなくて、知らないところで目覚めて――まさか。
僕はまた【 】既視感。を感じた時! 一陣の電撃、が頭に響き、強烈な頭痛が僕を襲う! 思わず右手を振り払い、両手で頭を覆う!
「ぐっ!? が、が、はぁ、ああぁぁあっ!?」
「……!! 大丈夫ですか、頭、痛むんですね!?」
こちらの容態を見るとティマは急いで傍にあったベットサイドキャビネットから何か取り出し、
「በእኔ ውስጥ የሚኖረው መንፈስ፣ እባካችሁ የዚያን ሰው ስቃይ በጊዜያዊ ንድፍ አስወግዱ።」
〘 飛忘痛〙
すると、スッ……と痛みが急速に引いていく。な、何、いや。これが魔法? ティマの方を改めて見ると、その手に細い複雑な紋様が描かれている……タッチペン? のようなものが握られている。長さは15センチほどだろうか。
「ティマさん、それは一体?」
「……ティマ、と呼び捨てで大丈夫ですよ。これは魔道具というものです。……予め彫られた紋様に対応した『魔法』を発動させることができます。私は、特定の分野以外の魔法は
ティマは少し「恥」の感情を表情に出しながらそう説明してくれた。その後さらにキャビネットから小ぶりな箱を取り出す。薬箱のようで、『Q:|| 頭痛薬 EVA 60錠入り すぐによく効くシン薬にリビルドされました!』と書いてある。その中からティマは2錠取り出し、コップと共に差し出してくれた。
「……急いで飲んでください。私の未熟な腕では精々10分ほどしか忘れさせることしかできませんから」
その言葉に従いすぐに薬を飲み干す。薬は喉の中を通る間に溶けたようで、胃にたどり着いたのは水のみ。胃に着地してかすかな衝撃が体内を襲った。
コンコン、とドアからノックの音が聞こえた。誰だろう?
「……どうぞ」
「私、
と、長い口上を経てスタイルのよい女性が入室してくる。身長は170センチほどだろう。艶のある真っ黒な髪がふとももの辺りまで遠慮なく伸びている。非常に生真面目そうな
「約18時間ぶりに目を覚ましたようですね、ヒロシ様」
雷天はそう言うとベッドの傍まで近づき片膝を立てた状態で
「私は直接目にしておりませんが、この度は我らの主を裏切者より守護して頂き誠にありがとうございます。貴方様のお陰で
そのセリフからして、僕はあの時能力を発動したのだろう。……てっきり怖がられたりするものだと思っていた。
だから、初めて会う人に感謝されるのは、生まれてきてから2年の間で初めてで。なんというか、むずがゆい。
雷天はそう言い終わるとすっ、と立ち上がりティマにこう告げた。
「
『遣翠使団との交渉はつつがなく終わったわ。今日から数えてだいたい10日後に彼らを受け入れることを正式に決定、各々の面子は早速各種調整に向け動いているわよ。さて、ティマ。しばらくの間あなたがヒロシのお世話をしなさいな。とりあえずはこの国を案内してあげて。頼んだわよ』
……とのことです。それでは私はこれより
雷天は
「……頭痛、収まりましたか?」
「あっ、はい。薬の影響でいつの間にか治りました」
「……それはよかった。では、早速ガレー船でもって
「はい! ってあれ? ここがそうなのではないんですか?」
その疑問にティマはくすりと笑い、こう答えてくれた。
「ここは《南沙人工岛天空/海军基地》内の下3階にある医務室ですよ」
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