史上最大の“さばき”
ティマは翡紅の手を借りて壁上に立つ。
「……陛下。よろしいのですか?
「ティマ、それ以上は言わなくていいわ。わかってる。お願い。彼らの……苦しみを、断ち切って、楽にしてあげて」
「……了解いたしました、陛下」
ティマはそう言い終えると両手をゆっくりと、
その様子を
と、ティマがほんの少し首を曲げてこちらを振り返り、その刹那、アメジストの湖が僕の姿を映す。湖の穏やかな波紋が「心配しないで」と語った気がした。そして邂逅は一瞬で立ち消える。幻のように。
改めて迫りくる
後に知ったのだが、その時ほんの僅かに聞き取れたモノは「詠唱」というらしい。
「……ገነት、መሬት、…………የእኛ……በረከት ተቀበለ……………………የእሳት መንፈስ、……ስም……ጠጠርሁለቱም、ሃራእ」
そこで1拍ついて、声帯を震わせる。
〘堕涙絨焔礫〙
そこまで聴いた時、翡紅が大声で叫ぶ!
「総員対
同時に要塞内にサイレンが鳴り響く。
兵士達は建物内に避難するか、付近の遮蔽物に身を潜める。翡紅も即座に壁上より降りて身をかがめ、耳を塞ぎ口を大きく開ける。僕達もそれに見よう見まねで倣う。
その数秒後に。
僕は見た。
また、大いなるしるしを行って、人々の前で火を天から地に降らせることさえした。
──ヨハネの黙示録 13:13
ティマは焔に包まれた隕石を召喚したのだ!
召喚した隕石の数は10、20なんてレベルじゃない。いちいち数えるのがばかばかしくなるような量! まるで
ドラゴンは信じられない、という貌でその光景を見つめる。
石礫が命中する度に──
角は折れ、羽は捥げ、眼玉は潰れ、口は歪み、脚は捻じれ、尾は焼かれ、腕は千切れ、無数の貌は安堵と歓喜と祈りの表情を浮かべて四散する。
周囲には大量の、カラフルな肉片がまき散らされ、それぞれは再び母体と1つになろうと
ドラゴンに着石するたびに、先の爆撃や砲撃とは比べ物にならない轟音と振動が大地を襲う。要塞全体がその仕打ちに抗議するかのように
さばきは十数分にも渡って続いた。
「「「「IIIAAIAAAA!!!!」」」」 「「「「HHHAAZTTTT!!!!」」」」
「「「「AAAA────HHUTTTT!!!!」」」」「「「「AAAGGUNNNN!!!!」」」」
────ドラゴンは断末魔の
(前略)死も黄泉もその中にいる死人を出し、そして、おのおのそのしわざに応じて、さばきを受けた。
それから、死も黄泉も火の池に投げ込まれた。この火の池が第二の死である。
このいのちの書に名がしるされていない者はみな、火の池に投げ込まれた。
──ヨハネの黙示録20:13~20:15
その日、地球上のとある場所で、無数の光が幾度も点滅した。
それと共に轟く歓喜の
○○○○○○○○
■■要塞 アースガルズ
ビフレストの天文台にて
「お、花火がよく見える見えおる」
「始まったようですねぇ」
「もう彼女に連絡はしたのです?」
「ええ。手筈通りに、と。これでまた一つ確かめられるでしょう」
「ちと慎重過ぎはせんか? 事実上もう確定しとるのだろう?」
「まあ、そうですがね。これはいわば余興というやつですよ
○○○
魔法の威力こそ凄まじかったが、その規模に反して爆風はほとんどなかった。一定の範囲のみ効果を作用させる、とはいかにも魔法らしいな。曲直瀬は後に振り返った時そう語ったという。
それはともかく、
僕は慌ててティマを抱きとめる。その体はやけに湿っていて生暖かい。
その顔を覗き見ると、そのほんの少し前まで色素が薄い真っ白な肌は赤に染まっていた。目から、鼻から、耳から、口からだらだらと血が漏れ出ている! 特に口からが酷く、弱々しい息と共に鮮血が湧き水のようにコポコポと流れ出ていた。
後ろから抱き留めた際の水っぽい感触から言って恐らく体中がこうなっているかもしれない……!
勿論、彼らがこの状況をぼーっと見ているわけがない。無形が即座に“
急いで装着しようとするが苦しそうに
丁度そのタイミングで服が
そして2,3回
よ、よかった。取り合ずは一安心だ。ずっとこうして抱いてるわけにもいかないので翡紅と一緒に少し後ろのスペースへと寝かせた。呼吸も心なしか安定し始めているようだ。
「ティマのこと、ありがとね」
「あ、っはい! 当然のことをしただけですよ!」
翡紅から渡されたタオルで顔をぬぐいながらそう答えた。……ん。何か口の中に肉が、入ってる? あっ、つい飲み込んでしまった。
ちょっと甘い味がした。
みんなのところに戻ると睡蓮や力道が駆け寄ってきて口々に無事かどうか聞いてきたので問題ない、と笑いながら軽く受け流す。
周囲を見ると呂玲や無形は要塞内の兵士達を労っている。その様子からかなり尊敬と信頼を受けているのだろう。特に呂玲が。
翡紅と曲直瀬は何かしらを話している。本来の目的である「交渉」の予定を詰めているのだろう。
僕達の頭上を役目を終えたB29がゆっくりと
暫くして打ち合わせを終えたのであろう、翡紅が曲直瀬の元を離れて再び壁上へ登る。そして大勢の兵士たちの前で次の命令を出した!
「さぁて、全兵士諸君! かねて通達した通りこれより金浦要塞を永久放棄、全面撤退するわよ!」
そういえば戦闘前の演説で「ここでの戦いは今日が最後」とか、「もうここは放棄するからな」などと最後のあたりで言っていた気がする。今翡紅が言ったのはこのことだろう。
……? でも、たった今戦闘に「勝った」のに? それともここはさほど重要でもない拠点だったってことなのか?
何か釈然としないが兵士たちは特に疑問を感じてないのか、それとも既に決定事項であったためか、きびきびとその準備に取り掛かろうとして──
その動きが突如として止まった。
そして、全員が、一斉に己の武器を構えて。
翡紅の方向へと向けられる!
えっ?
一体何が起きて
「翡紅閣下、その件に関しては何度も反対を申したはずです。言葉で受け入れられぬなら剣を取るまで!」
その怒気を孕む声に悪い予感がして、振り返ると──
まさか、反乱⁉
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