贄部屋、Catacombs of the Living
「その情報を信じているのか? 現世界から離脱を試みているくせに。お前、馬鹿なのか? ……全く閣下はどうしてこんな演出を……鉄くずに話など何もない、さらばだ──〘
「!!」
男の台詞にあった最後の文言──明らかに技名、魔法が来るッ!
おれは咄嗟にそう考え、いつものように
が。その後に起きた事は一瞬で、あっけなく、そして何よりも致命的だった。
まず、鉄雲母がこちらに背を向ける。
彼(?)の背は驚くべきことに空洞であった。まるで本来は何かが収められていたような、そんな印象を受ける。
次に、2つになった
そして彼らの肉体がずぷり、と沼に引き摺り込まれるようにして下へ、下へと消えてゆく。その際、鉄雲母が一言。
「Ra Zr Mo Be Ti V Ca Hg Ta Na Na。Nb" Li Na Fr" Rh PbV Nb Na Hg Ti"」
(仮翻訳)
「した Mo Be を つ Ca ると <母音> <母音> 。で <母音> <母音> がRh って <母音> るぞ」
以上、僅かに2秒半。
おれが我に返った時そこにはもう誰もいなかった。先程までの激闘が嘘であったかのように……。
助かった? いいや。その感想は逆だ。何故ならば。
「クソ、なんてこったまずいまずい不味い! 物的証拠が、戦果を示すモノがなくなったぞ!
《あわわわわ……どっどうどうしようご主人様、下手すると》
「強制ニューゲーム+されて……」
《ワタシ
「おれも死んじまうぞ!」
予想外過ぎる展開に
様々な
この
仮に
もちろん
そしてバックアップを元に
こうして第四帝国はそのウリである不死性を担保しているわけだが。現在のおれは例外中の例外だ。
何の因果か3年前のあの日──極東でヒロシとの戦闘でブレインが目覚め、それによって本来のおれとなった時、おれの不死性は失われたのだ。
本国のバックアップデータにはブレインなんて存在しないから。
ブレインが存在しなければおれは存在することはできないから。
おれは死ぬことができない、許されない。おれ自身の為に。
「どうすればいい……戦闘のデータを提出して茶を濁すか?」
《そのまま提出するとフツーにワタシのことバレちゃうから、色々と改竄する必要があるね。でも……》
「でも、何だ?」
《戦闘データのうち、最初の方はもう向こうに送られちゃっているからサーバーに忍び込んで色々といじくらないと。それ以降のデータだけを改竄するとどうしても粗がちゃうと思うの》
この粗というのはおれ独自の機能のことだ。例えば通常の
「待てよ、アイツらがあるじゃないか、
《ああ! そういえば!》
「特に邪神の死体なんかは『超』が2つ、いやそれ以上のレアアイテムのはずだ、それを提出すれば……!」
おれは急いで周囲を捜索する。同時に心の中で「あれほど目立つものだ、慌てる必要なんかないだろう」とも考えながら。
しかし。
「…………あ? 何処だ、何処に……あ、れ……?」
なかった。どこにもなかったのだ。
今いる場所は半径100メートルほどの大部屋。決して広いとは言えないこの状況下であんなものを見落とすなんて、ありえない。
「まさかさっきの連中が回収したのか? でもあの魔人は『この未熟者を回収して』と言っていたよな」
《それって多分
「だろうな。まさか
《そう、だね。データベースにないし。南東・東欧・北欧失地領域のいずれにも出現記録はなかったよ》
「で、だ。初めて遭遇したのに名前を
《でもワタシもご主人様もそんなの感じなかったよね。あれ、まさか……あの邪神って偽物?》
「仮にそうなら名前の件で矛盾するぞ。というかそもそもアイツ、本当に死んだのか? 帝国軍が総力を挙げても討伐例がゼロの邪神がそう簡単にくたばる筈が──ない、よな」
自分でそう言いながら、何かうすら寒いものが通り過ぎていくのを実感する。何だこの感覚は。違和感? 本能が発する警告?
脳裏に思い浮かぶは、
ポタポタと垂れる
目的地へと向け、道しるべのように、ポタポタと。
流れに沿うように向かえば発生するイベント。
イベントの結果、おれは大ピンチを迎えた。
まさか、最初から仕組まれていたのか? おれを嵌める為に? いやいや、そんなの単なる偶然のはずだ。意志ある者を都合よく操作するなんて娯楽作品じゃあるまいし、ありえない現実味がない。
そこまで考えた時だった。
足元から振動が聞こえてきたのは。次いで何かがバラバラに崩壊していくような音が響き始める。加速度的に大きくなっていきながら。一体これは──?
《うわっ、施設内部がどんどん崩壊していってる、このままだとこの部屋崩れちゃう!》
「さっきの戦闘で耐久が限界になったというのか⁉」
そう叫んだ時、足元が割れた。
下は底知れぬ空洞が広がっており、重力の手が
約20秒後。
派手な音と共におれは底に叩きつけられる。
相次ぐ連戦でそこら中にガタがきている。残念ながら自動修復には相応の時間がかかるからな……普通の
ったく、クソッたれが。
不死性を失えば鉄も肉も変わんねぇってことだな。
「で、ここは何処だ?」
《ん~どうもデータベースにない場所みたいだね。秘密の部屋、ってやつ》
「ふむ」
おれはデータベースにアクセスし、この場所についての詳細を確認する。
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現在地:中央失地領域:
プラハ城地下施設「ヨーロッパ地域防衛拠点
概要:この場所は西暦2085年に当時の地球大半を収めていた世界統一政府……正式名称は人類生存域保護機構(Habitat Conservation Mechanism)、通称ハコメが設置した対異形生命体用の軍事拠点である。
施設名にある通りこの施設はヨーロッパ地域最終防衛拠点(主にライン川に沿って展開される)、高架可変式軌道要塞群トイトブルクから見ると突出する形となっている(司令部はコンスタンツに置かれた)。
当然、これは意図的に配置されたものである。
我が帝国に残された数少ない資料によると、この地に多数の異形を誘引しトイトブルクによって包囲・撃滅するという
なお、トイトブルク要塞群は高架橋と可変
現在我が帝国でも研究中の施設である。
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というような
ふむ。やはり資料中では地下28F、深度80メートルが最深部となっているな。
《現在地の深度は200メートルだって》
「つまり今いるのは隠し部屋ということか? 高さ100メートル以上とは随分と大掛かりだな。で、ここは何なんだ」
とりあえず辺りを見渡す。光源となるものがないので、頭部のフラッシュライトをつけながら(これは
真っ先に目に飛び込んできたのは……厚さ2メートルの長方形。縦横のサイズは人間1人ぶんといったところか。
生体反応は……なし、と。近づいてみる。
「何だこれは」
《これは棺っていうモノだと思うよ。データ送るね》
「死んだ個体を格納する物体、ねぇ。なるほど?」
お、小窓のようなものがある。堆積していた埃を払うと……おっと。これは棺ではなく柩というやつだな。ブレインが渡してくれたデータにそうあったぞ。
小窓だけでは全体がわからないので無理やりこじ開け、検分してみる。
中の死体は死後相当経っているように思う。かなり崩れており、底には液化した脂肪が固まっている……中途半端な生分解だな? 密閉されていたからだろうか。
そして周囲をよーく見渡すと、山のように柩が積まれている。更に壁には無数の四角形の穴が開いており一部柩が飛び出していた。
本来であればこれらは全て壁に格納されていたものらしい。視点を上に動かしていくと……この構造がずっと上まで続いているようだ。格納できる柩の量は万を超えるかもしれない。
「察するにこの部屋は集団墓地ということになるのか? でもどうしてこんな場所にあるんだ」
「違う違う、ここはね『贄部屋』なんだよ。異形を誘引するためのね」
「ッ、誰だ⁉」
背後から突如発せられる声。首が捥げてしまいそうな、と錯覚するようなスピードで振り返ると。
「おにーさんも知ってるんじゃないの? かつて異形は知能が高い生物、つまり人間が多いところに引き付けられる生態だって。それを利用して前線を固定するために造られたカタコンベなんだよここは。まぁ収納されたのは全員生かされた死者らしいけどね? 難民とかを無理やり、みたいな感じで」
そこにいたのは紫の髪と目元を覆う仮面を着け、赤・黒・白で彩られるゴシック風軍服に身を包む女。さらに黒のシルクハットを頭に乗っけている。
左手には緑の杖。右には何もなく純白の手袋。
要約すると怪しさ100パーセントの格好をしていた。
《何よこれ……生体反応0.1って一体どういうこと⁉》
脳内でブレインがヒステリック気味に叫ぶ。なんだその、「0.1」って。見たくれは普通の人間なんだが、何か仕掛けがあるということか。
それよりもこの女、一体どこから現れた? そして何者だ? さっきの連中とは根本的に違う気がする。
とりあえずこの女を「人間」と仮定してみよう。するとどの国に所属しているか、これだけははっきりとわかる。選択肢なんてないからな。何故ならこの時代に普通の人間が住まう国家はだた1つなのだから。
現在帝国と矛を交える、その名は──
「おっとその前に自己紹介だね。改めて……おっはー☆、アタシはハルスネィ。ハルスネィ・リーパーって言うんだ! 中央大藩国っていうところから来たんだけどね? キミのことは
──おにーさんを
両腕を広げ、大げさなテンション・身振りと共に目の前の女はそうのたまわった。
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