星に罹患せし種、Æsir=Near Gods
「あ……え? ぇえ……?」
思わず一歩、後ずさる。
それはあまりにも一瞬であった。
目の前の「生物」、その動きはこれまで培ってきた
あっさりとおれの左腕は斬られてしまったのだ──
「Nb" Re、V Be" Re Ir Be" Ta Na Sr K Fr」
《ッ、ご主人──》
「生物」が両腕をあげる。握られているのは1本の、無骨な直刃造りの、その生物と同じ透き通った黒の薄い剣。
「生物」の足が滑るように動きおれとの距離を詰める──刹那──上段に構えた剣をおれの右腕めがけ一気に振り下ろした。
その光景をおれはただ黙って見ていることしかできなくて
──なに腕1本ごときで呆けている⁉ しっかりしろおれ!──
「…………!! システム『ブラード』ッッ」
土壇場で己を叱咤、その勢いでおれは叫びながらHFGシステムを起動する。次の瞬間おれの視界は急速に後ろ向きに伸びて、高速移動。「生物」の凶刃から難を逃れることに成功した。
次の瞬間、鳴り響く轟音。その出先を見ると地面に亀裂が走っていた。亀裂の上には当然のように、剣。なんて威力していやがる、まるで娯楽作品だ。
「Co K、Fr In Sc Ta Re。Ti" Sn Fr" Na Mo Ra" PbAg Sn Cs K Fr" Re Cu Na Au K Zr"」
(仮翻訳)
「ほ K、かわ Sc Ta は。ぞんが Na Mo Ra" ゅん Cs K Fr" はや Na よ K だ」
っと、なんだ?
「アイツの言語、解読できたのか」
《ううん。表示の通りまだ(仮)、データがまだ少なすぎて……ご主人様、できればでいいんですけどアイツに色々話しかけてみて》
「データの蓄積、だな。善処しよう」
《あと、恐らくこれがコイツの名前……だと思う。本当に名前なのか、怪しいんだけど……》
再び視界の下部に文字列が。そこには「KFe32+AlSi3O10」、とあった。更に横には(意味:
さて、話しかけてみようか。とはいえ何を……? 一先ず挑発でもしてみるか。
「おい、そこの……『
我ながら安っぽい挑発だ。いや、逆にそれらしくなったか? さぁてどう出る?
「生物」改めて鉄雲母は剣を再び頭上に持っていき、上段構えに。その状態でこちらを見て(目などないはずなのに何故だかわかる)風のように啼く。
「Co K、Co K。 Ca " Sn Sr " Ti Fr Na Ta" Mg Ra V V Li Hg Tc Zr" Cr。 Fr PbV Fr Tc Au Ti K Au Cd Re Cu Na ……Ag K Ra PbAg K Zr"、Pt PbV Ta In Ai Zn Tc Zr Pd Mo Y Na Hf PbAu K Ti」
(仮翻訳)
「ほ K、ほ <母音>、Ca " ん Sr " そ Fr <母音> Ta" Mg Ra V V <母音> Hg Tc だ な。 かっか Tc よそ <母音> よりは Cu <母音> ……ゆ<母音> Ra ゅ<母音>Zr"、Pt っTa In れ Zn Tc た Pd Mo Y <母音> Hf ょ<母音> Ti」
そして再び攻撃──今度は見えた、来るッ!
おれは右腕のナノブレイドを頭上に掲げ取り敢えず剣の受け止めを試みる。
が、刃同士が接触したその瞬間片方が押し負け、折れる。
押し負けたというのは、つまりおれの方で、それが意味するのは鉄雲母の剣が真っ直ぐにおれの右腕に振り下ろされる──
──もちろんその攻撃を喰らう前に再びHFGシステムを起動、速やかに離脱する。一方で相手の剣は愚直にも直前の動作し続け、再び地面に叩きつけられた。底を這う直線がもう1本、増える。
そこからは先程と同じ。再び鉄雲母は剣を再び頭上に持っていき上段に構えて……
「……???」
その光景に何か強烈な違和感を覚える。その正体は幸いにも直ぐに言葉にすることができた。
「何で追撃しない? HFGの動きに対応できない、そんなわけないだろうに。というより……同じ動き?」
量子脳内に保存されていた鉄雲母の動きを再生する。視界の右に1回目(左腕を斬られた時)、左に2回目の攻撃が表示された。
《両方とも……再現率100パーセント。コイツ相当な腕前ね》
「いや、本当に腕前か?」
《えっ?》
おれの立てた仮説、それが正しいか否か、この後すぐに証明されるだろう。
腕1本の状態で改めて鉄雲母と相対する。
そして5分が経ち、戦況は──
──完全な膠着状態となっていた。
「やっぱりな、鉄雲母は恐らく同じ動きしかできないんだ! ならどれ程初速が速かろうと見切るのは容易だぜ」
おれは自信満々にそう言い切る。この5分間で既に100回以上攻撃されたが、その動きは全て同じであった。この結果が偶然の一致、というのは考えにくい。
狙ってやった、よりこれしかできない、の方が自然だろう。
《でもご主人様も一切ダメージ与えられてないよね?》
「……それな。クソッたれが……」
ブレインの指摘は正しい。
敵の攻撃は見切った、幾らでも回避できる。ではその先は?
残念なことにこちらの攻撃も一切通用しなかったのだ。
あらゆる近接攻撃は黒雲母に触れた途端切断され、用をなさない。銃撃さえも弾が真っ二つになってしまった。ナノブレイドも同じく……ダイヤモンドの何倍もの硬さを持つはずなのだが。
黒雲母の肉体と武器はまるで空気を切り裂くような手軽さで万物を切断できる性能を持つらしい。試しに肉体の一部を掴んでみたら……
視線を右手に向ける。
そこには指の本数が10本以上となった、つまりズタズタになってしまった手が映っている。ゆっくりと自己再生を続けているのでこれでもまだマシなほうではあった。即座に手を引っ込めたからこの程度で済んだのだ。
ともあれ、このような理由でお互いが決定打を打つことができず時間がただ過ぎていったのだ。
「こうなりゃ、賭けるしかないな。もう仕込みも終えたし」
《ご主人様? 一体何をする気です?》
「逃げてもダメ、防御してもダメ、中途半端な攻撃もダメ。なら……正々堂々とした攻撃ならどうだ!!」
おれは叫びながら駆け出す!
もちろん、黒雲母目掛けて。何の工夫もなく、一直線に。
「Co K」
(仮翻訳)
「ほ <母音>」
鉄雲母の行動はこの期に及んでも一切変わらず。
すなわち剣を再び頭上に持っていき上段に構えて、振り下ろす──今だ!
おれは仕込みを解き放つ。場所は、左。肩口の切断面が盛り上がり、何かが飛び出してくる。何かって? 答えはただ1つしかない。つまり、再生した左腕だ!
時間をかけたとはいえそれはまだ不完全。筋肉がなく骨しかない、そんな感じだ。ただしその先端は手ではなく……液体、が急速に固まり1本の小刀となる。
液体の正体はプラセオジム磁石を粉末状にしたもので、これに電流を流すことで固定化させる。その際流す電流を色々と微調整することで様々な形状に変形させることが可能……
不完全な腕をまるで触手のように振る舞い、万物を切断する剣の先端へ勢いよく小刀をぶつける!
パリン。
「!」
「よしっ!」
その結果は満足できるもの。黒雲母の剣はバラバラに砕け散ったのだ。
《ご主人様……あの鉱物のデータ、持っていたんです?》
「データ? 何の」
《
「いやデータなんかねぇよ。ただの……カン。勘だ」
それは一般的な
だがおれは違う。おれに「コンテニュー」だの「ニューゲーム+」なんてイージーなもの、存在しないのだ。
ま、そのことは後でいいだろう。
今重要なのは相手の武器を完全に破壊したということ。しかもその相手は決められた動きしかできないときた。これで相手はもう何もできないはず。事実上の勝ちだ!
「…………おいまじか」
その考えは次の瞬間に一掃される。パリン、パリンという音と共に。
黒雲母が取った行動は、文にすると簡単なものだ。
下顎を掴み、その部位を胴体から引きちぎる。それを繰り返し、頸は頸椎2つまでになった。引きちぎる……取り外された部位はそれぞれが連結し、新たな剣となり再びおれに向いた。
「なるほど、下顎から先はそうやって消えていたんだな」
黒雲母の謎がこうしてまた1つ解けたというわけだ。好意的に解釈すれば。
さて、これから先、お前はどう動く? 新しく剣を作成する度に動きが変わるのか、それとも今までと同じ動作を繰り返すのか。後者なら対処は楽なんだが。
ま、答えはすぐに──
「準備完了した、もう遊ばなくていいぞ、
「──何⁉」
《ご主人様、新たな生命反応が!》
今度は何だよ⁉
鉄雲母の横に新たな人影が蜃気楼のような揺らめぎと共に男が現れる。
黒い皮膚、ヤマアラシのように反り返った赤髪、顔のあちこちには4色の複雑な紋様……紋様、だと。
急いでHUDに現在の大気成分比率を表示させる。すると……
〉現在地の大気成分比率一覧。
・窒素 77.88パーセント
・酸素 20.25パーセント
・アルゴン 0.93パーセント
・二酸化炭素 0.02パーセント
・魔素 0.92パーセント
〉警告。
現在地に
「貴様、魔人だというのか⁉ あの攻撃で全滅したはずじゃ」
その問いに対し男は傲慢で冷たい色をたたえた声色で答える。
「その情報を信じているのか? 現世界から離脱を試みているくせに。お前、馬鹿なのか? ……全く閣下はどうしてこんな演出を……鉄くずに話など何もない、さらばだ──〘
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