λ、ウ(U)→→…め…ざ…め…

 へん-しつ【変質】

 ①性質または物質が変化すること。また、その変じた性質や物質。「-した薬剤」

 ②気質・性格に異常のあること。

 ──広辞苑 第六版 編者新村出 より一部引用



 物事は常に変質する。

 要因は多岐に渡るが「知」あるすべてという括りで見れば、その発生時には共通するものがあるといえよう。

それは、外圧である。

脅威となる敵。恐るべき大自然と色。種として個としての行き詰まり。かれらからの……もの

それらが、外圧である。




 変質 cresc. SOLOひとつめ


 最初の変質は鉄の子宮から始まった。

 2298年10月21日のから。

 のチャフ片……即ち肉片。これに触れたことにより、更にその後危機に瀕したことにより……脳が目覚めた。

 彼女の無意識による分析が脊髄に伝わり、それと同じくして瞳は幻視を得る。

 幻視は帝国の終わりを告げた。

 故にインスピレーションと生存への脅威を感じた超々先史遺物シャッガイの遺物、アカシック・レコードは……を真似たのだ。

 全ての知的生物の歴史的な転換座標と語られるのは、そうした側面から。




 変質 sfzsforzato. DUOふたつめ


 これから始まるのは次の変質である。

 アダンら一行モナコに到着した頃、日付時刻は2301年7月14日、10時59分から。

 病院で、とある患者の、死から。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――


 中央大藩国ちゅうおうだいはんこく、「AH総合医療センタービマリスタン」にて。



 その病室に鳴り響いていたのは、命が失われる音。

 それは激しく乱高下し、患者が危篤である事を伺わせる。


「――――ッ!! ァガ――アァァァァァッァ――!!!!」


 患者がのたうつ。手足を拘束する金属製の輪は肉に食い込み、それは己の手足の先端を犠牲とすることによって枷から逃げようとしているかのよう。

 病は気から、という諺がある。

 は正にそれを体現するかのような病状だった。

 彼女は神国日本で、見て聞いて話してさらけ出され、その果てに宇宙の開闢かいびゃくを余すこと全てを観て。限りなく永遠に近いときを瞬時に体験させられ、全てを簒奪された――と推測される、超人……風香ふうか

 風香ふうかは救出され、目覚めてから徐々に狂い始め、今では……もう。


「――ッ――ッッ――――ァゥッッ、ガァァァァァァ――ァア!!!!」


 彼女の皮膚はもう見えない。目、耳、鼻、口、性器、肛門、そして体毛の穴。体に存在するありとあらゆる孔から血と共に腐肉が噴出し、美しかった肢体を覆いつくしていたのだ。まるで人体というしぼり袋から血と肉と臓というクリームを絞り出したかのような惨状。

 とうに両目は湧き出る血圧に耐え切れず内から外に崩壊し、鼓膜は外耳道に耳垢のようにへばりついているような状態だから、風香ふうかが自分の状態を認識できないことだけが唯一の慰め。それとも、それだから狂ったのだろうか?

 そんな彼女の最大の受難は――こと。

 この容体になってからそろそろ1年が経過しようとしていたのだ。



 この日、奇跡じごくは終わった。

 何人もの医者らが粘つき、山のように広がった腐肉をかき分け、黄色緑色紫色白色赤色に塗れた風香をし、その心臓を探し当てて、己の全力と電撃の補助によってどうにか蘇生を、と試みる。

 心肺停止から1分、9分、15分、30分が経ち。その成果は報われず、瞳孔なんて確認しようがなく、脳波も消失したので――彼女は死亡。

 主治医はそう診断を下す。

 こうして神国人は、ひいては日本人の血はまた一つ、失われることになった。


 ――心肺停止より33分が経過した――


 失われた命を嘆きつつ、死者の安寧のためにまずは部屋と遺体を綺麗にしなければならない。そう医者たちが動き出したその時である。


 


 腐肉が詰まった眼窩が驚く者らを見据える。

 膿に満ちた口が開き、歯がポロポロと蛆のように滴り落ちた。

 

「――λ――Λ―― 𐤋」

「――a――A――א」

「→→→→→→→Å」


 確かに何か云ったのだが、文字化できない。そんな音。

 次の瞬間――


 一斉に肉片が立ち上がった。部屋にあふれていたもの、その全てが。

 同時に彼女の遺体及びそこから絞り出された全ての肉片が淡い光を放つ。それはドット・ペインティング(点描絵)とエックスレイ・ペインティング(レントゲン画法)で描かれたがあった。

 それらは動き出す。

 先頭を行く遺体は当然のようにドアを開け、廊下に踊り出る。

 生前と変わらぬ様子で整然と行進を開始。肉片が後に続く。純白の床を穢していく。ぬらぬらと覆われていく。まるで大名行列である。

 ここは隔離病棟故、警報を出す必要がないのが唯一の救いか。






 遺体・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床床






 彼らは正者の慌てぶりに何の関心を示さず行軍を続ける。エレベーターを使わず階段を下に、下に、下に。

 たどり着いたのは病院の最下層。大部屋である。

 特殊延命治療室、と書かれたその部屋の扉が内側から開く。

 患者の名前が書かれたプレートが揺れる。そこには【桜宮菊華さくらみやきっか 様】とあった。

 彼らは当然のように入室。

 その後、静かに扉が閉まる……




 3週間後。扉が開き放たれたその時、地震と共に声が響き放たれた――


 ――Å。

 ――聞け、星の嘆きを。

 ――思い知れ、宙の怒りを。

 ――わらわは今、層を跨ぎ蘇り。






 こんにちは、作者ラジオ・Kでございます。

 別にこれで第3章、終わり! ではなく次話でちゃんとアダン君の視点に戻ります、ご安心を。

 ではでは。

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