RESORT AREA

 夢は五臓ごぞうわずらい 

 ――日本の慣用句。夢は五臓(※1)の疲労から生じるということ。

 














 色が濁る。影が変わる。輪郭が浸食されていく。

 彼女ら、ヒト型は――節足型、細蟹ささがに蜚蠊ごきぶりへと――





 ――ピーンポーンパーンポーン♪

 ――お待たせいたしました。本便は只今『トランサルピーナ=マルセイユ主要第6番ノード』に到着しました。降車のお客様は両側のお出口タラップチューブにお願いします――


「あら、もう着いた。音速を優に超えてるのだから流石ね。それじゃあ行きましょうJOCASTA。イオカステ御姉様」

「わかった、うん!!」


 ふと気づくと濁る色、変わる影、浸食された輪郭、そのどれもがなくなっていた。いつの間に――霧が晴れるように、唐突にそれは終わっていた。それとも最初から何も無かったのか?


「短い間でしたけどお喋り楽しかったわ。また堆上で会いましょうね。お連れの方もまた、どこかで」

「またね、今度ね、半島でね!!」


「ん、ああ。またいつかな。えーと茸狩りだっけ、よい狩りを」


 少しばかり混乱している意識の前で、彼女らは丁寧に一礼する。そしてスリーピースとゴスロリ・ワンピースは慌ただしく降りる他の乗客らとぶつかりながら、少しずつ飲まれて消えていった。


 こうして唐突に始まったFRIENDLY CHAT談笑は終わりを告げた。





 会話が去り、静かになったボックス席でおれは考え込む。


アダン

<なぁ、アセビ>


NLP分離体アセビ

<   👿>


アダン

<……? おーい?>


NLP分離体アセビ

<フン! |`ω´)=3 >


ブレイン

<あらら。ご主人様、これはアレですね。拗ねてるってやつですよ>


アダン

<なんd>


NLP分離体アセビ

<あったりまえです! この、つまであるワタシを、差し置いて!! ぽっと出の泥棒虫とイチャイチャして!!! そんなひとなんて、こうですよーだ、フンッ💢( •̀_₍•́ )💨>


アダン

<ちょっ、おま、やめっ、やめろ、不可視の触手でペチペチやめ――悪かった、悪かったよ>


 周囲から見て不審にならないように怒りの猛攻を避け続ける――保護用ゲルで体が固定されているので首の動きだけで――で、それは当然のように無駄な足掻きに終わった。




 ――そう、

 じゃあなんでさっき握手できたんだ? しかもSHYLOCKのを、で受けた。おかしい。そんなのありえないはずだ。

 だってほら、握手というのは互いが反対側にいるんだから同じ行為は鏡写しとなる筈……だよ、な?


 一通りおれを弄り終えてご満悦のアセビにその事を告げると、🤨🥴こんな感じの顔が返ってきた。彼女も先程の談笑に思うところがあるようだ。


NLP分離体アセビ

<さっきの人達ってどう見てもわたしのこと見ていましたよね>


アダン

<やっぱりそう思うか>


 どうしてそう思うのか。彼女らの発言内容を思い出してみよう。


――そういえばのお名前を聞いていませんでしたね

――短い間でしたけどお喋り楽しかったわ。また堆上で会いましょうね。また、どこかで


ブレイン

<言われてみれば確かに。怖(ll゚Д゚)>


アダン

<……こうなればもうクロだよなぁ。動揺を抑えるの大変だったぞ>


ブレイン

ジュ・トゥ・ヴーJe te veuxの時と違って迫真の演技でしたよご主人様!>


アダン

<……別の場面シチュで褒められたかったよ>


 現在アセビはどんな格好をしているのかというと、自身が繰り出す触手でその体をすっぽりと包み込んでいるという中々衝撃的なものだ。これは出発前、アセビは絶対についていく! とゴネて暴れて、どうしたもんかと悩んだ末のアイデアであったわけだが、何も好き好んでこんなことをしているわけではない。

 アセビは神秘部から脱走した身、要はお尋ね者だ。変装せずに堂々と街中を歩けば、まぁ考えられる結末は一つ。

 ところでアセビの触手は何故か「演出」をオンにしていると一切認識されない。そんでもっておれ以外の臣民キャラは常に「演出」をオン状態――であるならば。こうしてその身を包み込めば完全ステルスになるというわけだ。

 我ながらいいアイデアだと思っていたんだがなぁ……。


 そうこう考えている内に目的地である「ポカイア=モナコ1228番娯楽小基地」に着く。マルセイユから出発してまだ10分ほど。

 時速1500キロを誇る真空列車ハイパーループだからこそできる技だ。

 念のためにと警戒しつつタラップチューブを潜り抜けモンテカルロ駅へ。

 出迎えるはド派手な装飾の数々、堕落を誘う広告と賭博遊具、そして行きかうラフな格好の械人達ひとびと

 

 目の前には偽りの癒しが広がっていた――





【🎉🎉よ う こ そ 帝 国 一 の 娯 楽 世 界 へ !🎉🎉】

【o(*^∇)ノ^;+.☆ 初めての方はようこそ! ☆.+:^ヽ(∇^*)o】

【|*´∀`|ノ 2回目以上の方は……もう何も言わなくていいですよね!ヽ|・∀・*|】

【||ョД`*)チラリン♪ さぁさ、とことん遊びつくしましょう! v(。・ω・。)ィェィ♪ 】

【(シ_ _)シ 職員一同、貴方様を歓迎します! シ(_ _シ)】







 ※1 五臓とは、肝・心・・肺・じんのこと。西洋医学のそれとは異なり、より広い概念・機能を指す。危うく肝→肝臓、とかいうクソ間違った解説をしそうになった下調べ不十分な中の人でした。





 その頃。

 『トランサルピーナ=マルセイユ主要第6番ノード』、サン=シャルル駅前、パリ通りにて。


 行きかう黒達の中に白2つ――彼女らがいた。

 白は次々と黒とぶつかるが、黒はただ首を傾げるのみで、白はそのことを一切気にしてない風に見える。何とも奇妙な光景で、それはスリーピースの方が歩き端末をしていることが原因というわけではないようだ。


「御姉様ー、SHYLOCK。シャイロック御姉様ー??」

「…………」



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【∩,,・д)本日のニュース速報!(∩´∀`)】

2301年7月14日版


⚠お知らせ

→→第8000番工廠基地堆上人都ドッカーバンクでは行方不明械人が増加の一途を辿っており、そのペースは指数関数的に増大――

⚠お知らせ

→→特別編成戦隊エイギル〔Eine Million〕の募兵は本日をもって終了します。配属はインド洋となっ――


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「ねぇねぇSHYLOCK。シャイロック御姉様ってば!!」

「……ん、ああごめんなさいJOCASTA。イオカステ御姉様、手元に集中していました」

「もう、ゼッタイダメなんだよ歩きスマホって危ないんだからね!!」

「ふふふふふ、そうですわね。それで――ああ、わかりました。お腹がすいたのですね? もう。さっきあんなに沢山のゲルを食べたというのに」

「あんな程度じゃ、全然、足りないもん!!」

「いつも通りね。じゃあ私の絲をどうぞ?」

「ハムハムハムハム……これでさっきのひとをマーキングしたの?? わたしはね、この口をね、舐めて同じことしたんだ!!」

「まぁ凄い。相変わらずの早業ですわ」

「えへへ、でしょでしょ!! さっきからずっと、ずっっと何を読んでいたの??

「これですよ」

「ふーん??




その時が近づいてる。一歩一歩確実に。脊髄の離れ、遺物子宮の瞳が視た通りに!!」

「そう。だからこそWHITE-COLLARを誰に握らせるか見極めないと」


「「さぁ、まずは茸狩りと、しましょう。会いに行きましょう、茸に。彼らのことをよく知るために。これから先存在し続けるために」」

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