あと76分。
「💿Ludwig van Beethoven、1824、交響曲第9番 ニ短調 作品125 第4楽章」
「光の巨人、だと」
巨人は今、おれたちをその背丈で守るように前へと移動しNouddxenzs(ノーデンス)と相対している。その姿からは可視化できるほどの殺気が放たれていた――
「味方、でいいんだよな」
「もちろんだとも。『
李の言葉が終わると同時に巨人は猛ダッシュ、輝く両腕を伸ばしノーデンスと四つに組み合う。その衝撃から来る風圧は凄まじく、部屋のど真ん中に台風でも出現したのかと思えてしまうほどだ。
Aaaa……KOKOHASEMAI、BASYO、KAEYOUKA、SOUOMOUDARO?AKUMA……GHATANOTHOA!
――Walo⁉
「喋った⁉」
「ほう。台湾沖――
ノーデンスが最後まで叫ぶと同時に足元から大量の水が一気に噴き出す。それはさながらエレベーターのように組み合う両者を上へ、上へと押し飛ばしていく――!
「ふむ、行ってしまったか。これでは戦闘の推移が……もう少し使うとするか――〖
堆上人都ドッガーバンク、上層にて。
【
VS
ByaAzaaa!
GaaAAaO!
空中まで吹き上がった両者、互いの足を蹴り合い離れ、基地の外周反対側にそれぞれ着地する。全体の形状が円形であるため、まるで会場に浮かぶ巨大な土俵のよう。
その中央に聳えるのはノード・タワー。
その役割は基地内に存在する全
――GiGRooazx!
――WaloARrrrr!
双方共に全身に力を溜めたかと思えば、凄まじい速度で膨張していく。
やがて身の丈は100メートルとなり、息遣いだけでも容易く人を殺せるほどまでになった。
ノーデンスは依然と変わらず、死せる無数の鋼鉄の乙女――旧時代の散っていった軍艦たち――で全身を構成し、肌の錆びつき具合からは想像できないほど滑らかに動く。
対するダンタリオンは巨大化に伴い内部の光が薄れ、その全体像が露になる――それは黒光りするガラス質の皮膚を持ち、マグマの如き滾る高温の血流と臓器を持っていた。胸の中央には巨大な
なるほど、これは確かに――悪魔である。
ダンタリオンがそう叫ぶと共に――肌と顔面が蠢めき融ける。数秒の後、そこには紫の肌と嘲る笑みを持つ細目の巨人があった。
人が、いや悪魔が変わったのだ。
そして構えを――左手を前に、そのやや後ろに右手を。足は逆に右を前、左を後ろにやや開いて。
右手を勢いよく前へ突き出す!
距離は相応に離れている故、その行動は全くの無意味――否!
指を揃えて突き出す形となった指先から光刃が放たれた!
狙いたがわず、ノーデンスの右肩部分へ命中。驚く彼をよそに
同時刻。
堆上人都ドッガーバンク、最下層にて。
おれの目には肩が破損し叫び声を上げるノーデンスが映る。奴の背後に着地し振り向く巨人はそれを見て
〖
「ファースト・アタックはこちらが制しましたね。幸先がよくて実に素晴らしい」
「あの巨人、何なんだ」
「
「はい?」
「正確には進化した石油分解菌なのですが。細かいことは一先ず置いておきましょう、長くなりますし。彼らは他種族の
「差別されても仕方ない具合に禍々しく見えるんだが」
「因果が逆ですよ、アダン。まぁこういった話はいずれまたやりましょう。さてと」
李は適当な瓦礫に腰掛ける。そして懐から……缶詰とクリーム色の液体型万能調味料、そして丸くした白飯を取り出した。
「先程の話を続けましょうか。ああ、これ食べます?」
「なんだそれ」
「サバ缶ですよ。これは……おぉ、梅カツオ味ですね。サバはいいですよ。DHA、EPA等のオメガ3系高度不飽和脂肪酸を豊富に含んでいますからね。生活習慣病の予防にピッタリです」
「
「……確かに。では失礼して」
調味料を缶詰にドバっと吐き出し、混ぜ、気負う様子もなく食べ始める。
「閣下ってば
ジトッと湿り気多めの目でともえがそうつぶやく。
「……」
「私が呑気そうな無能に見えますか?」
「そりゃあそうだろ」
「至極真っ当な意見です。が、これでよいのですよ。見ての通り私は高齢で荒事はできませんし。私の役目は皆に目標を与えること。後は見守るだけです」
「なら今の状況、勝てると?」
「はい」
「随分と余裕なことで」
「約紀元前500年にギリシアでわれらディアドコイが結成されて以来、こういった危機は何度も何度も何度も――ありました。が、その全てにおいて生き残ってきたのです。今回だって
「そうはいきませんよ、皆様、皆様」
「⁉」
声と共に上空から何か飛来してきた――巨人らが飛び出していった穴を経由し、彼女は降り立った。
「ほう。そちらも指揮官がお出ましですか」
「N'qzzs-Klivncl(ヌトス=カアンブル)……!」
それは3年前に台湾沖で初めて存在が確認された異形生命体で、かなり流暢に言葉を扱うことから連中の中でも上位の実力をもつと言われている存在。
女性のフォルムだが、最低限の衣服さえ一切ない文字通りの――全裸。乳房も陰部も丸見えな格好。全身の皮膚は長い間海水に浸かっていたように
「さてさてお集まりの皆様、皆様方。上でやんちゃしているノーデンスくんはすっかり忘れていますが――『鍵』、渡してもらいたいです。それと王の心臓【【
「それは無理な相談だ。われらも大望を果たすため、これらが必要なんでね」
相変わらず飯をかきこみながら
「では、この場にいる戦闘員に命じます。アダンとこのお嬢さんをなんとしても守りなさい。ヌトス=カアンブルは、ともえとザクウェに任せます。ともえが前衛・ザクウェが後衛で行けば勝ちやすいでしょう。
「わぁい、指名されちゃった♪ それじゃ、女の子同士仲良く踊りましょ?」
「俺男なんだが」
名指しされた二人がヌトスを挟むように布陣する。
「二人。二人掛かり。複数で単独を相手にするのは卑怯。そう思いませんか?」
「邪神が人間にガチの喧嘩を仕掛けるんだ、その時点でもう卑怯だろ。にしても神も寝言を言うんだな、寝不足か?」
心底馬鹿にした口調でザクウェが答える。肌に広がる多種多様な紋様は既に輝きだし、その手には火球が生成されつつあった。
「あはは、ザクウェくんも殺る気まんまんだぁ。じゃあ私も!
長々とした技名を言い終えたとき、既にともえはヌトスの真正面まで移動していた。その移動速度は果たして超能力由来なのか、或いは単なる身体能力の賜物か。
「それじゃ挨拶も終わったし。たのしいたのしいバトルの始まり始まり~えいっ」
「――!」
肉付きの良い、やや太い太ももがばね仕掛けのように勢いよく上へ。すべすべとした膝が――ヌトスの股間部に命中した!
ぐちゃっ
何かが、潰れた。
そこから
「ココって男の子も女の子も、それ以外も含めてみーんな弱いからねー。じゃあ次はその垂れた邪魔くさいおっぱいを貰っちゃうね!」
ともえの両手がそれぞれを鷲掴みにする。そして勢いよく引っぱ「あれっ、
「かかりましたね」
〈神器・イージス……Activate……Passive mode!〉
わたしの手と足は?」
答えは難しくなかった。
それらの不埒物は宙を舞っていたからだ。
「ともえ。ともえ。痴漢は同性でもいけないことです。平安時代はそこまで重い罪ではないかもしれませんが――ちゃんと時代に合わせましょうね」
口調とは裏腹に物凄い笑顔を浮かべた――もし口があればの話――ヌトスが槍を突き出し、ともえの端正な顔立ちが一瞬でひき肉へと変わった!
【
VS
超人・ともえ & 魔人・ザクウェ】
TO BE CONTINUED……!
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