レポート:神国日本の超人たち
神国日本、唯一の領土京都市周辺にて
夥しい色が、そこにあった。
灰色の雲海は今や狂気的な量の色に塗りたくられていた。
京都に降り注ぐは、極彩色の雨粒に極彩色の雷の嵐。
吹き荒れる風すら何処か色を帯びている。
40年にも続いた
そこに
例えるとすればジャクソン・ポロックの描く
そんな京都に蠢くはあらゆる生物の成れの果て。
ではなく──
滅びに抗おうとする超人達も僅かながらであるが、いた。
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京都市 左京区
「はぁっ!」
1人の女性を中心として風が鳴き、風が吹き、暴風となり暴れ狂う。彼女に向け突撃する幽鬼のような人型の異形生命体。
彼らは風に絡めとられ、肉体は切り裂かれ、ねじ曲がり、切断され、小間切れとなり、鮮やかな色々と共に吹き飛ばされ、大地を穢し染める。
「どうした、この程度か妖魔共! ……そうだもっとこっちへ来なさい、私という魅力的な
神国日本の君主、桜宮の
自らを中心とした、ないしは目視可能範囲内の任意の地点に風を引き起こすことが出来る能力。複数の敵と同時に交戦できる、有用な能力である。
能力の欠点は能力使用中に敵味方の識別が極めて困難になること、そして目潰しなどをされた場合能力が使用できない事である。
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京都市 右京区
取得データ 収集不可。
補足事項:
この地を担当する者は
公式的には彼の能力は『摩擦軽減』。
少ない力で、素早く動くことが可能であり、能力の欠点として自らの身体が超スピードに耐えられないことであるという。
……彼については、対面で話したい。マズダ様。
こちらの用向きが完了次第、お邪魔します。できれば、姫のいない時に。
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京都市 南区 九条町跡付近
そこは、他の戦場と比べて遥かに異様な光景が広がっていた。
クレーターである。
巨大なクレーターが空いているのだ。
クレーター内には折り重なるように大量の異形生命体が潰れ、圧縮された状態で埋まっている。その数、千は優に超えるだろう。
異形が潰れた時に放出されたのであろう大量の赤を中心とした色とりどりの汁の湖。そんな地獄のような光景の中心には、2人の女性の姿が。
片方は超人である
そんな彼女に傘を差して控えているのは同じく超人である
能力の代償は1日の活動時間が4時間しかないこと。それ以外は強制的な眠りにつき、完全に無防備となる。
なお、彼女の身体的障害は生まれつきのもので、能力とは特に関係がない。
対象1人のあらゆる種類の
能力の代償、その詳細は不明であるが、恐らく精神的な負荷が非常に高いと推察される。
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京都市 北区
舞う。舞う。極彩色の空を背景とし、様々な種類の武器──細剣、大剣、投げ斧、槌、大槌、槍、大槍、斧槍、薙刀、刀、大太刀、大鎌、円盾──古今東西、様々な種類の武器が奏者の導きにより空を舞い、忌むべき異形生命体へと飛び掛かっていく。
彼らを操る奏者の名は、グラント・麻里。
かつてこの列島に存在した同盟国軍との間に誕生した混血児を先祖とするこの少女は、神国日本で公的には最も強い超人。
その能力は『念力』。実のところ超能力は21世紀中頃より発現例が相次いでいたのだが、その中でもこれはごくありふれたものだ。
しかし、非凡なのは一定範囲内という条件さえ満たせば、操れる数に制限がないという点。であるからまさに今のように──
大地が盛り上がり、
懐に忍ばせた無数の短刀を操り、乙女を下から覗こうとする愚か者を地面に縫い付け、主の危機に飛んできた大槍が貫く。
──この様に、極めて汎用性が高い能力である。
隻眼という常人よりも狭い視野の中、そしてさらに身長がやや低いという戦場ではデメリットが多い体を能力の使用によって打ち消しながら戦うその横で。
──連続する破裂音。
同戦場のもう1人の、眼鏡をかけた女性に多数の五脚の異形が迫る。その身体は
──まるで風船がはじけるような、ただしこの風船は肉なので湿っぽい、ぱちゅん、という音と共に弾け飛ぶ。 チリーン
極彩色の肉汁が飛び散る中、能力を発動した張本人、鈴の顔色に嫌悪や罪といったような変化は一切ない。 チリン、チリン
それは極めて単純な理由で──見慣れているから。
耳元に提げる鈴が鳴り、敵は砕け散る。膨れ上がり、飛び散り、残るは皮と汁。
彼女、鈴の能力は『
自らも傷つけてしまう代わりに、あらゆるものに寄り添う波を常時放ち続ける。波は寄り添い続ける。だが、過度な寄り添いは傷つけてしまうことも、ある。
人はそれを
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京都市
「本日の波は無事、やり過ごせたようです桜宮様」
「そうですか。どうにか、此度は切り抜けられそうですね」
『千里眼』の能力を持つ毛利大臣の報告を受けた桜宮は安堵の息をつく。現在の日付は10月25日。
丁度ヒロシ一行が
桜宮は思う。
この国を捨てるまで、タイムミリットはあと11日。即ち11月4日。奇しくもかつての第二次世界大戦終結の日と同じね。 国捨ての日がそんな記念すべき日だなんて、と桜宮は自嘲する。
だが、直ぐにも思い直す。今はそんな感傷に浸っている場合じゃない、と。
「宇喜多大臣、民の避難準備の進捗は?」
「はい、順調に進んでおります! 黒田、細川大臣の元10月30には比叡山へ向けての移動を開始することができるでしょう!
宇喜多の
「わかったわ。明日は
「はい、仰る通りでございます。流石は桜宮様、その記憶力──」
そのやり取りを聞き流しながら、
(そ、そんなはずはない。こんなにもい、い、異形生命体の数が少ないなんて。い、いつもならこの10倍はあったはず。だ、だから苦戦必須だと、あの時の会議はふ、紛糾して、い、いたんだ……おかしい、おかしいぞこんなこと……彼らにこ、高度な知能は存在しない、はず。でも……何かに謀られている、そ、そんな気がす、する)
──その行動を、密かに注目していた者が2人いたことは誰も知らない──
作成日時:2298年、10月30日 11:18:21
作成者:中央大藩国、
宛:序列十位、アヴラル・マズダ様
機密レベル:4
「……はぁ。まったくDoctorはいつもこんな読みづらい報告書を。それ以外は優秀な方なのですが」
マズダは
端末の送信、ボタンをタップ。
この国の三種の神船の1つ、電子戦闘/工作艦サウスダコタ級戦艦「マサチューセッツ」より、中継基地の海南島、シンガポール、ポートブレアを経由して中央大藩国の一大拠点であるバンガロールへと届く。
この時代、世界に覇を唱える超大国、中央大藩国は単に武力だけではなく、情報も注視している。辺境とも言える神国日本に、最高レベルの諜報員であるDoctorを送り込んでいるのがその証だ。
「それにしても……Doctorがこちらに来るとなると、なるべく
自らの愛する妻、その寝顔をそっと覗き見る。普段の言動、態度と異なりまるで人形のように静かに眠ってる。
彼女は、いわゆる「卑怯な」戦いをするものを毛嫌いしているのだ。
どの時代、どの国、どの組織にも「表」と「裏」の部署の対立はあると聞きますが、私達も先人らと何ら変わりないということでしょうか。
マズダはそんなとりとめもないことを考えながら、寝室へと向かった。
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