来たのは陰謀
「ふぅ~疲れますねぇこの喋り方。自分で作っておいてアレですけどよく2年もこのキャラを貫き通せたなぁ、なんて。ってあれ? どうしてお二人方私が私であることを知ってるんです? ひょっとしてガイアン様、ばらしました?」
「え? いや……身に纏う雰囲気、というやつかしら。でも見た目が記憶と全然一致しないわ。誰、いや。何よあなた」
<ご自身が言ってたじゃないですか、喋り方って。いやそんなことより……貴方は本当に宇喜多大臣、なのですか? その特徴的な喋り方は確かにあの人のものですが>
「いや話してねぇからな?」というガイアンの目配せを背景として2人の女性(指導者というべきか)は奇妙な表情で疑問を呈する。
その核心は同じもの。確かに本人の筈なのに、容姿が不一致。それは何とも言えない不気味さであった。
「えぇ、ええ。私は正真正銘の私ですよ。取りあえず自己紹介を。自分の名前はもう忘れてしまったのでコードネームをお教えしましょう。Doctor、と申します。
一礼する男、Doctor。彼の容姿は極めて不気味である。残念ながらそれを言葉にするのは極めて、極めて──そう極めて、難しい。
というのも例えば個別のパーツ、目・鼻・耳ごとに見れば何の問題もないのだ。だがそれら全てを一度に見ると、言い知れぬ不気味さを感じてしまう。
あやふやな、上手く言葉にできぬ奇妙な不気味さ。任務中ではないプライベートな姿の彼を初めて見た
──人の形を無理やり真似して安定させているような、そんな感じね──
「どう考えても潜入諜報員とかでしょ」
「ちょ、それは言わん約束でお願いしますよ」
<フェイちゃん、さっき『久しぶりね』って言ったよね。それってこのDoctorと面識があったってこと?>
「ああ、うん。それは……」
『遷移計劃』は短く言うと
実際のところ「先遣队」を通して5年前に彼の国といざコンタクトを取ってみると、大王・キュロス3世は快諾してきたのだ。
勿論細々とした条件というのはあった。
例えば表向きの理由として難民引き入れの理由として『大王の将来の伴侶となる人物が抱える問題解決に尽力するため』とか。
で、公開できない条件の中に
こうして今から5年前にまず派遣されたのがDoctorという人物。彼は表向きは
そして2年後、
その後に彼の役目を引き継いで出向してきたのが
その際に
今は亡き
「……というわけだったのよ」
<そう、だったのですね>
桜宮は、かつては一国の主であった人物は短くそう答える。
自国を勝手に探られたことに対する抗議? それを黙っていた友人に対する非難?
そんなもの、言えるわけがなかった。今の自分にその権利はなかった故。
これが、大国と小国という立場の違い。
これが、
これが──全てを握る者と何も持っていない者という違いであった。
「ところで。どうして次の名前が宇喜多、なのよ」
「ああ。それは簡単なアナグラムというやつですよ」
安芸津→AKITU
宇喜多→UKITA
と、いうことである。
「さてと。本来の用事の前に、今まで正体を隠していたことへのお詫びとして私のことについて少しお話ししましょう。私は自分の外見を好きなように変えることができるのです」
「……」
<……>
「補足しておくと男にも女にも、老人にも幼児にもなれますよ」
「それだけ?」
「はい。言ったでしょう、少しって」
いやそこはもうちょっと詳しくしゃべるのがお約束じゃないのかよ、とツッコミを入れそうになるがグッと堪える。そもそも諜報員が己の能力の一端を語った、それ自体が奇跡みたいなものね。と
「それで? 本来の用事、というのは?」
「おお、そうでしたそうでした。まずは桜宮様に。そちらの国民である
<それは本当ですか!?>
「ええ。一応、そちらに現在の写真を転送しましょうか」
写真を確認した桜宮が安堵の息をつく。指導者としての素質は置いておくとして、ここで偽物なのかどうか疑わない事が彼女の性格を表していた。
「というわけで神国日本人の生き残りは7人、ということになりますね。では次に、
そう言いながらDoctorは胸ポケットより小さな石を取り出した。色は黄金。それを地面に置く。
その動作に怪訝な表情を浮かべる
と、地面に置かれた黄金が薄く伸び始め水たまりのような状態となる。そして水たまりが上へ、上へと姿を変えながら伸びる。やがて黄金は人型となり……1分ほどでメイド服姿の金髪女性が現れた。
彼女は
「初めまして、
感情の起伏が乏しい声でラルヴァンダードはそう自己紹介をする。次いで
「薄くなった
今までに聞いたこともないような言い回しでの、奉仕宣言。自己紹介と同じく感情の起伏が乏しいので果たして冗談なのか本当なのか。
「そう──問題なしね。ようこそ
悠然と頷いた後、
もし今の彼の顔を第三者が覗き見たら、震え上がるかもしれない。
その光景を見ながらガイアンは珍しくも驚きと焦燥が入り混じった顔をしていた。内心が小さいとはいえ、声になっていることが何よりの証拠。
声は語る。誰に向けることなく、聞かれることなく。
「ラルヴァンダード、お前……薄くなったな? 前よりも。一体短時間のうちに何回死んだっていうんだ、いやそもそも何でお前なんだ。確かにニネヴェのニカ姉が配下、《乳香》ホルミスダス と≪
更にブツブツと何かを言うガイアン。そんな彼にティマがおずおずと話しかける。その腕には寝ているアルカマが抱かれていた。
「うん? どうした」
「……その、この子突然寝てしまったんですが……私何かまずいことを」
「寝ちゃった? 突然?」
「……はい」
「おっと、これはかなりマズイな。急がないとやべぇ!」
ガイアンは声を張り上げた。
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