謁見

「ほ、本官はまた1つ、が、学習しましたぞ…………」


 力道、瀕死……であった。


「人は大空なんぞにてっ、手を出すべきではないと…………オエッ」


 どうも彼は高所恐怖症とかいう病になったらしい。


「“小手シャォダーショゥ”、お戻り! お疲れ様! ……力道さんも大袈裟ですねぇ。結構気持ちいいのに空飛ぶの」


 無形は苦笑気味にそう答えた。


「わたしはまた乗りたいなぁ~無形姉ェ、また乗せてくれる?」


 興奮冷めない様子で睡蓮が腕を振り回しながら尋ねる。その様子は姉そっくりであった。


「もちろんですよ~さて、これから翡紅様の執務室へご案内しますよ」


 無形はそう言うと先頭に立って案内し始める。


 その途中、基地を護衛している多くの兵士とすれ違う。男女が混ざっているのは当然として、いろんな武器で武装しているのが面白い。銃(勿論種類はバラバラだ)もあれば剣や槍、斧、薙刀、弓、クロスボウ、スリング……アレは鎖鎌というやつだったか? 少し頭痛がするので本調子ではないけど、はっきり言って見ていて飽きない。ワクワクする気持ちが勝手に湧き上がってくる。


〈男の子ってこうゆうの、好きだよね〉

 

 もしこの光景を暦さんが見たら苦笑しながらこうコメントするんだろうな、とぼんやりと感じた。

 

 基地の入り口にはこのような名前が彫られていた。



 《南沙人工岛天空/海军基地》と。




 基地内に入った後中央にあるエレベーターを使い僕たちは地下へと向かう。エレベーター上部にある簡易図によれば、この基地は逆四角錐の形をしているらしい。何となくだが目的地の執務室は最下層にある気がする。

 そして表示が《下10階、最下層/海抜下50メートル》、基地の最下部になった時、エレベーターは停止した。予想通りのようだ。


「では、こちらへ」


 無形の後に続き僕たちはエレベーターを降りて無機質な白一色のフロアを進む。とはいっても10秒ほどで大部屋の扉の前へと辿り着く。どうも最下層はこの部屋しかないようだ。

 無形が扉の横にある黒と金色で彩られているインターフォンを押す。するとインターフォンの上にある室内の画像を表すのであろう小型モニターに赤色の瞳を持つ一つ目が現れた!


「ギャ────ッ! ヘッヘッヘッヘ~」


 となんか不気味な音がして一つ目が辺りをギョロギョロと見渡す。そして…………


「入ってよし!」


 というハツラツとした女性の声と共にガチャン! という音が扉からする。開錠したのだろう。というか何だこれは? 何故か「ジョークグッズ」という単語が頭の中に響いた。何度も反響するこだまのように。


 頭の中に? マークがわき始めた僕をよそに開錠を確認した無形が“小手”を使って扉を開ける。そして僕たちは皇帝が待っているであろう部屋へと足を踏み入れた。そして目の前に映ったったのは…………。


 


 薄暗い部屋だった。しかし部屋の奥の壁、中央に設置されている10台以上のモニターが無機質な光であたりを照らしているため決して前が見えないということはない。健康に悪そうだな、とは思ってしまうけど。

 そしてその不健康な光を背景にデスクチェアに座ってこちらを見つめる人物がいた。チトセの情報にあった現翠玉国皇帝翡紅フェイホン陛下その人である。


 その姿は中華風の青いロングパーカーに白のスラックスと大分ラフな格好をしていた。顔は自信に満ちた表情をしており、ギラリと輝く紅色の双眸が僕たちを、いや、僕を真っ直ぐジッ……と見つめている。な、何か気に障ったことでもしたのだろうか? 僕の心配をよそに彼女は勝気そうな表情を浮かべて頬杖をつきながらこう言った。


「そこのあなた。ヒロシとかいう新顔ね? 申し訳ないのだけどこの部屋に入るには検査が必要なの。頭の中……思考のね」


 彼女がこちらの名前を知っていることはともかく、予想の斜め上を引く第一声に思わず口が出てしまう。


「えっ? 頭の検査?」


翡紅は当然といった様子で頷き、僕の少し後ろへ声を掛ける。


「というわけで呂玲ロイレン、任せたわよ」


「おう!」



 僕の直ぐ後ろから少し大きい返事が聞こえた。え? いつの間にか後ろに誰か立っていたらしい。でも一切気配感じなかったぞ⁉ 

 驚きのあまりつい後ろを振り返ると……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る