翠玉国の正体

第3章:──金浦要塞防衛戦──上編   


 意志の集中、力の集中こそが勝利をもたらす

 ──アルフレッド・マハン


 「そんなバカな──あなた方は魔法使いでしょうが! 魔法が使えるでしょう! それなら間違いなく処理できるでしょう──つまり──何でも!」

 ──マグルの首相『ハリー・ポッターと謎のプリンス』より








「…………凄いな、これは。これが翠玉国の首都、海聚府ハイジューフーか!」


 チトセからの情報で概要こそ知っていたが、実際に見るのとではまったくもって大違いだ。

 今、僕たちは空の上……US―2 9905号機の小窓から翠玉の首都である海聚府を見下ろしている。

 その都市の姿はまあ、一言で説明できるだろう。


 船である。

 船、船、船、そして船!


 眼下に広がる杭州湾こうしゅうわんにはこれでもかと言わんばかりの船の大群で埋め尽くされている。そのスケールの大きさに思わず頭が痛くなるほどだ。

 その浮かんでいる船の種類も実に様々だ。漁船にクルーズ船、客船、大型客船、タンカー、コンテナ船、タグボート、サルベージ船、気象観測船、などの民間の船だけじゃない。

 もちろん軍艦も沢山ある、のだが。それらに対して素人な僕でもわかることはただ一つ──その年代が信じられない程にバラバラであるということだ。


 見覚えのある戦列艦──帆船だけじゃない。近代的な見た目のフリゲート、コルベット、ミサイル艇。かつて勃発したという2つの世界大戦で活躍したであろう巡洋艦、駆逐艦、軽空母など。巨大な浮きドックもある。

 その中で一際大きいあれは世にいう戦艦か。……湾内には3隻ほど見ることができる。

 とにかく、そういった鋼鉄の艨艟が何隻も何十隻もいる。

 そして数千年以上前のキャラックやガレオン、ジャンク、果てはトライリーム(三段櫂船さんだんかいせん)や五段櫂船まであった。まるで船の博物館みたいだ!


 そしてそれらのうち8割ほどがおしくらまんじゅうみたいに一か所に纏まっている。それらは更にもやい綱や鎖でつながれていて──つまりそれらでもって1つのを形成していたのだ! 

 何とも凄い光景だ。つまり翠玉国の正体は言うなれば、というやつなのだ! 首都(というべきか?)海聚府を真上から見ると所々欠けた丸いパイのように感じる。ざっと見た感じ、パイ海聚府の直径は20キロ近くありそうだ。一体全部で何隻の船で構成されているのだろう? 真面目にカウントしようとすると眩暈がしそうだ。


 他のメンバーは何度も翠玉との間を往復しているだろからそこまで驚きはしないだろう、と思っていたのだがいざ様子を見てみると皆目を丸くしていた。

 曲直瀬や睡蓮は瞬きも忘れて眼下の光景に魅入っている。

 陸(と言っていいのかわからないが)で見るのと空から見るのとでは印象が違うということなのだろう。力道は何故か口元を手で塞いでいるが。


 そんな僕たちの様子を見て満足したのだろう。無形は自慢そうに解説をし始めた。


「あれらの様々な船舶はそのほとんどは我らが主、翡紅フェイホン様の能力によりされたもの。つ・ま・り、今の翠玉の発展は翡紅様のお力があったからこそ実現したのです!」


 自国の誇らしげな点を話して気分が高揚したのだろう。

 更に無形は先程活躍した艦達のことも少し解説をしてくれた。

 曰く──


 ブラック・コールドロン黒き大釜号とノーブル・ピルグリム尊き巡礼者

 18世紀頃の戦列艦で元々はグレートブリテン王国(イギリスの基盤となった国)という国の軍艦だった。だが当時活躍していた海賊たちにより鹵獲されてしまった経歴を持つらしい。

 本来の武装はカロネード砲が中心であったが艦首のもの(計2門)以外は全て撤去し、代わりに片舷につき10門の76ミリ速射砲が搭載されている。


 巡洋潜水艦シュルクーフ

 1934年にフランスという国で作られた当時最大の潜水艦。潜水艦に搭載された砲としては史上最大級の20.3cm連装砲塔を1基装備していた。この艦は通商破壊を目的として建艦され、航空機も搭載できたので当時の各国の海軍関係者の度肝を抜いたそうだ。

 因みに砲の部分は元々露出してあったが改造し水密式ハッチを設置したとのこと。更に砲塔を連装から単装に変え砲撃間隔を短くし、命中精度を高めてある。


 UボートXIV型「U488」

 第二次世界大戦中に建造されたドイツ海軍のXIV型潜水艦の内の1隻。乳牛ミルヒ・クーの愛称を持つ。補給用潜水艦であり、第二次世界大戦中、大西洋で通商破壊等で活躍していたUボートの補給任務を担った。

 この艦も改造を施されており翠玉海軍では飛行艇の燃料・人員補給を行う。


 無形の解説が終わった頃、機体は海聚府を飛び越えて更に湾内へと進む。すると1分もしないうちに巨大なコンクリート製と思われる構造物が見えた。こちらは真上から見ると真四角の形をしている。


「あれは……?」


 その時、僕は構造物の隣にもう1隻戦艦がいることに気付く。その艦はがある、というかスマートかつずっしりとした見た目であった。先程の3隻に比べてより大きく、より洗練されたデザインの艦橋を持っている。高さは40m以上はありそうだ。

 その戦艦は3つの巨大な砲塔を装備しておりそれぞれ異なる方向へ向けられている。その姿はさながら国の姫を守る騎士や守護神を連想させた。


 丁度建造物の真上を通り過ぎると同時に無形のアナウンスが入る。


「今からあちらの基地に着陸します。只今翡紅様はあそこの執務室にいらっしゃるので」


 そうアナウンスをしている間にも機体はグングンと高度を下げ着陸の態勢に入っていった(なおこの機体は水陸両用機である)。

 やがて基地の滑走路に着陸する寸前に巨大な戦艦を横切った時、一瞬だけその艦の艦名が見えた。

 本当に一瞬だったのでなんて書いてあるか読めなかったけど、多分だったと思う。

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