13:44.00
比叡山中腹、京福電気鉄道叡山ロープウェイ中継所跡にて。
遂に最後の戦士が、
直ぐ後ろには半円状の
今の彼女らにその力はどこにも残されていなかった。
この時場にいる生存者は、5人。
能力の使用過多により、自力呼吸すら覚束なくなってしまったグラント・
両腕の肘関節は粉砕され、その結果貧弱な筋肉と薄皮一枚で辛うじて繋がっているだけという状態になっていた。力なく垂れ下がるその腕が本来の機能を発揮することは二度とないだろう。
それを支えるチトセは五体満足ではあるものの、戦闘力は皆無。この場でできることは敵を睨みつけることぐらいだろう。
桜宮も五体満足ではある。纏う衣類は己をかばって戦死した大勢の命、その痕跡に毒々しい色に染まり腐臭を漂わせていた。とても一国の君主とは思えぬ。
彼女は残り4人を守ろうとするように両腕を精一杯広げ、「彼」の前に立ちふさがる。だが圧倒的な力の前にその姿勢は蛮勇とも言えよう。
ティマドクネスは力を、
そして
彼女の能力は周囲の生物の自然治癒力を底上げするという単純無比にして強力なもの。そのレベルは粉砕骨折が1分もしないうちに完全治癒することが可能であった。
ただし、この能力は自身に傷が一切ないときのみ発動する。仮に彼女が負傷した場合、能力の対象はまず自分に向けられるのだ。
逆説的に捉えると、
簡単に表現すれば「内側から解体され続けられた」ということである。残酷なことに持ち前の能力により、細胞個々の死と再生を繰り返し、中々死に切れぬ。だがそれも時間の問題であろう。
そんな彼女らの前にはたった1体の
「ああ、誠に残念よ! 先程の奴、もっと本気を出すべきであったのに。全く倒しがいがなくてつまらぬ、つまらぬ。他の者どもも、全くもって大同小異だ!」
そう喚く
その姿は怪人という字で表現するべきかもしれない。
「なかなかいい勝負をすると思ったそこの魔人はMP切れで早々に脱落するし、
ビシッと怪人は地面の一点を指す。そこには人間大のシミと細切れとなった破片が散らばっていた。
「自分の力に耐えきれず崩壊するとは、とんだクソボスであるな!」
「っ! ねぇさんの死を愚弄するな!」
長女の死を、肉親の死をここまで馬鹿にする台詞もそうそうないだろう。だが相手の反応はこれに輪を掛けて不愉快な物であった。
「? 何を言っているのだ。全く話が噛み合っていないな。いちユーザーとしてゲームバランスが悪い敵エネミーについて文句を運営に言うのは当然の権利だろう。常識だぞ常識」
それは冗談でもなんでもなく。怪人には世界がそう映っているのだ。
桜宮は静かに喉を鳴らす。まさか、ここまで解り合えないとは思ってもみなかったのだ。話し合いによる和平。40年前から延々と続けようとしていたその望みは今、完全に断たれた。
「さて。もう飽きたしそろそろミッションクリアとするか」
怪人は己が手を後ろへと持っていく。その手を彼女らに向け突きだそうとした時。
「む。ようやくエリアボスの登場か!」
空から人影が降り注ぎ怪人へと突進する!
金属同士がぶつかり合うような異様な音が空中で鳴り響き、人影が弾かれ地面に叩きつけられた。
それを見て怪人が叫ぶ!
「この時を待っていたぞ、グンソー・ヒロシとやら!」
「俺はそんな名前じゃねぇぞこのゲス野郎!」
俺は再度突撃する――も再び金属同士がぶつかり合うような音! まるで見えない壁に激突したように。バリアーって奴か、これは?
そう思う間もなく目の前の怪人が大声をあげる。
「
突然見えない重量物がぶつかってきたような感覚と共に俺は吹き飛ばされる。慌てて立ち上がり――足元を見ると。地面に埋もれる顔と目が合った。額には角があって、恐ろしいほどまでの既視感が。
拾い上げて見ると……これは、
急いで駆け寄り、付近に散乱していた
「大丈夫か、ティマ!?」
「…………はぁ、はぁーっ、あ、ありがとう、ございます……」
次いで辺りを見渡し、目に飛び込んできたのは。あれは、まさか
ティマをそっと地面に寝かせて慌てて駆け寄り、触れると。
もう温度がなかった。
「そん、な……どうして……」
間に合わなかったのか、遅かったのか、俺は。何もかも。
クソ、どうして。どうして……。
燃え上がる。心の奥底から、燃え上がる。火種になるのは、憎しみ。そうか、これが「憎しみ」というものなのか……。
その対象は、世界。世界の残酷さ。不条理さ。運命そのもの。
だから、とりあえず。目の前の敵を、倒す!
「お、ムービーシーンは終ったかな? 流石にムービー中に攻撃するのはシステム上できんからな!」
「うるせぇよ。なぁ、なんでこんなことができるんだ?」
「何のことだ?」
「ここに来るまでの間、見たぞ。多くの人が毒ガスで次々と倒れ、胸を掻きむしりながら死んでいく様を」
「ああ!
「効率だと? ならなんで
「それも効率の結果に決まっているだろ。まぁあそこまで粘るとは想定外でな、おかげでよい画が採れたと本国から通知が来ていたぞ!」
よくわかった。
よく、わかったよ。
お前らはこの世に存在してはいけない、そんな連中の第1号だ。
だから……してやる。
「皆殺しにしてやる‼ お前らを、全員!」
吸った息を背中から噴射し、俺は怪人へと攻撃を仕掛け……
「フハハ、やはり悪役のボスはそう来なくては
その時まであと、519秒。
太陽は沈みつつあった。
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