ゆめのせかいへようこそ・邂逅

 泡

 泡沫うたかた

 今ならわかる。何故かわかる。ここは前意識。


 ぼくはからだをみおろす。

 ぼくははだか。

 そのいろは極彩色。

 ぼくはなに?

 【我らは合作。人と神の、精神と肉体の、5次元世界こちらがわ10次元世界あちらがわの。】


 なぎさ

 潮汐ちょうせき

 ここは境目。現実と幻の。大空と深海の。意識と無意識の。

 

 みおろすさきにあるのは。

 波

 波紋

 【ようやく1つになれる。1を2に。半分を掛け合わせ、今一度1つに。】


 かおをちかづける。

 せかいはかわる。

 まんげきょう。

 1/2×【2/1。】


 θシータ

θシータ波。】





 あなたが無意識を意識しない限り、それはあなたの人生を支配する。

 ──カール・グスタフ・ユング


 「意識」と「無意識」の間に明確な境界線はない。どちらも同じ目的に向かっているのだ。

 ──アルフレッド・アドラー


 夢の解釈は、無意識の活動を熟知する王道である。      

 ──ジークムント・フロイト



 それは世にいう自己対峙というものではなかった。「精神」と「肉体」の対話であった。


 そこは海の底。深い、ふかい、ゆめのなか。眠る者全てが還る場所。源心領域ドリームランド


 19世紀のとある心理学者はある時、人には意識化できない心の領域があることに気づき、それを「無意識の領域」と呼んだ。

 さて、仮に私達がこの領域に入れたとして、そこには何があるのだろう? 自分自身の投影? 隠され、抑圧された欲望? それとも……?




 意外な光景が目に飛び込んできた。そこには先客の姿があったのだ。先客は僕の姿をしていなかった。いや、そもそも人間ですらなかった。


 「ソレ」は奇妙なほどねじくれた巨大な樹木であった。広葉樹のような、太い幹に数えられないほどの細い枝があらゆる方向に伸びている。しかし現実と違い、幹と枝は樹の全方向から等しく伸びていた。

 何よりその色は……この世界の「敵」と同じ色。鮮やかな極彩色ごくさいしき


 僕は即座に理解した。これだ。これが僕の中に潜むもの。そして「力」の源であると。

 自分でも驚くことに僕は「ソレ」を見ても恐怖は感じなかった。それどころか仲間意識を感じる。その理由は見当もつかないけど。


 この領域へと来るまでの僅か「2年」程の半生を振り返ってみる。気が付いたら保護されていて、何故か差別受けて、何故か突然能力に目覚め、ただ言われるがまま

 ざっとこんな感じだ。

 そんな中、心のどこかで思っていた。自分の意志はどこにあったのだろうと。説明できない何かが欠けているんじゃないかと。

 でも、もしかしたらそれも変わるかもしれない。そんな儚い希望を抱きながら僕は極彩色に、奇妙に輝き力強く脈動する樹に向かっておずおずと話しかける。


「えっと、初めまして。でいいのかな?」

【これは驚きだ。オマエの方から俺の方に来るとはな。】


 返ってきたその声は人間のものとは到底思えなかった。男でもあり女でもある、性別を超越した奇妙な、獣のような声。そしてこの声を聴いた瞬間、唐突に悟ってしまう。「ソレ」は僕らとは異なる、いや、逆方向に進化してきたということを。


 獼猴じこうの「君の中に潜むものはその行動から察するに悪意はないだろう」という仮説。


 呂玲ロィレンの「戦場でよく嗅ぐ邪悪なニオイだ! だが悪くない、い者のニオイだ!」という鋭い、天性の勘による評価。


 今まで聞いてきた僕の……いや、僕の中に潜むものに対する様々な答え。その真実を今、ここで確かめる! そう生まれて初めてというものをして「ソレ」と対峙する。



【それで? 何の用だ? まさかこの体から出ていけと言うんじゃないだろうな。癖によ。】

「…………最初はそう思っていたんですけどね」


 息を大きく吸い込み、次の言葉を「ソレ」に向かって投げかける。


「僕はあなたのことを知るためにここまで来たんです」

【ほう。にしても興味深いこと演算結果思考回路だ。】

「興味深い?」

【ああ。よくぞあそこまで未熟な状態でここまで学習できたものだ。創った本人が言うことじゃないかもだが。】

「創った……ということは」

【そうだ。あの獼猴じこうとかいう、恐れ入るぜ。あいつの仮説は不気味なほど正しい。まるで最初から知っていたようにな。……もう言わなくてもんじゃないか? 試しに言ってみな。】


 その通りだった。この場に来た時から、緩やかな大河の流れのように、知識が流れ込んでくる。

 僕はその答えを口にする。

 考える、など必要なかった。感じるのだ。


「僕は……かつて君、■■ォ=■■■qlaの電気信号精神の一部。元々────で開発された──を──で発見────試しに融──、でもどうしてか目覚──多くの知識を遺──。そして目覚めたはその本質、『反射』であるが故に著しく不便で、どうしようもない欠陥を抱えてしまった。は何とかして自分を変える必要があった。そこで試しに──を吸収したところ予想外」


 ……あれ? すごく、おかしいぞ。

 なんで、途切れ途切れに? 言えなかった部分。何度試してもしてしまい言語化できない。壊れたテープみたいだ。

 樹はその様子を見て、微かにざわめく。苦笑、だろうか。


【あー、やっぱり上手く出来ないんだな。間接ではなく直接、でないと統合は不可能か。お前、こっちに来て俺に触れろ。多分それで大抵は解決するはずだ。】

「触れる? たったそれだけで?」

【ああ。そうだ。そうすれば直接2つの人格を重ね合わせることができ、多くのが直る。】


 その言葉につられるように、手を前へ。極彩色の樹に触れる。しっかりと。

 

 密集している? いや、ゆっくりと吸収されていく!

 その刹那、先程よりはましの、途切れ途切れの映像が流れ込んでくる!


 それは数奇な運命を辿った、とある生物の。

 神話。


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