えのとびらのさきに
ティマの細腕に身を預けながら様々な船が並び多数の浮き橋によって
そこはある種の力強さと
「……
ティマの説明を受けながら軍艦の
すると、先の喧騒とはまた違う、鋭さを伴う大声があちらこちらから聞こえ、多数の工作機械の狭間で男女──もちろん年齢問わず──があっちへ、こっちへとせわしなく動き回る姿が見えてきた。
「……翡紅様はあくまで『召喚』するだけ。おまけに、こう表現しては聞こえが悪くなってしまいますが、召喚物は年代も量もバラバラで要はアタリ・ハズレがある。ですから彼らがああやって整えないと使い物にならないのです。『共通規格がないから……』といつもマズダさんが頭を抱えています」
そんな解説を聞きながら僕達は敷設された通路を進む。
これでは
艦同士の隙間は重ね合わせた鉄板や、有り合わせの資材で作られた吊り橋でつなぎ合わされていた。
そして……
*
そして各船の間は
ティマが住んでいるのはPM
見てわかる通りこの船は非常に巨大であるため、もうふらつくことはない。というかさっき見た戦艦よりでかいんじゃないのこの船は。……後で知ったのだが、全長400メートルもあるらしい! ちなみに先程の戦艦「信濃」は263メートル。軍艦より大きい客船って……旧時代は凄いなぁ。
それはともかく。土台が安定しているのでふらつく心配はない! とティマの細腕に預けていた体を開放してもらった。
船内に入るとすぐに目に入ったのは……これが船の中なのか、と思う光景であった。やさしい光で満たされた何階層にも渡って吹き抜けた広場があったのだ。「芝生」とかいうものが一面に敷き詰められている。
先程までの
知人同士で談笑する人、昼寝する人、読書する人、運動する人……皆思い思いの方法でくつろいでいた。殺伐とした世界から取り残されているかのように。
「……ここは『エメラルド』の第5デッキ、憩いの階、です。こうしてのんびりと日々の疲れを癒す場所や店もあります。マッサージ店とか。わたしもよくここでお昼寝をするんですよ? さて、私が住んでいる所へはこちらのエレベーターを使って参ります」
僕達はデッキの隅っこにあるエレベーターに乗り、上方向へと向かう。エレベーター内はガラス張りなので他階層の様子がよく見えた。子供たちが集うのであろう遊園場、軽く1000人は収容できそうな大食堂、大人向けのアクティビティ施設、数多くの土産物店、食事処、果ては室内プール! まで。
しかしそれらは機能しておらず、あらゆる場所に小さなテントや有り合わせの資材で作られた小屋があった。
一見すると粗雑な扱いをされているのか? とも思ったが、彼らの顔に悲壮さや怒りというようなモノはどこにも、ない。
この荒廃しきった世界では「安心」が最も価値あるモノなのだから。
1分と少し。目的の階であろう第14デッキへと到着する。まだ昼間であるためか、ほとんど人はおらずがらんとした、無数の扉が規則正しく並ぶ廊下を進む。ここは船室のみで構成されているようだ。
「……本来であればこの船は豪華客船。様々な施設を稼働させ、民の娯楽と住む場両方を提供するはずでした。ですがヒロシ君も
『遷移計劃』……? なんだそれ? 初めて聞く単語だ。喉に引っかかりを覚えたが、ってちょっと待って。
「あの、ティマ? それ、ただの絵ですよ? めちゃくちゃリアルな扉の」
「……ふふふ。そう思いますよね? でも大丈夫。しっかりと見ていてください」
ティマは自信たっぷりの笑みでそう答えると「Doctor.
その先には色づく虚空が──瞬きする間もなく僕とティマは吸い込まれて──
*
そんなことを思いながら足を踏み入れる。
錆びた鉄と
「……さ、遠慮なくこちらへどうぞ。とりあえず、そこのソファーに座って、お茶を出しますから」
ティマの案内に従い入ってすぐのところにあるリビング。にあるロングソファーへと腰掛ける。……香りもあってなんか、とても落ち着く。
辺りを見渡すと、まず複数のビンに気付く。高さ10センチ、透明で何かの液体が入っていて、その中に黒い棒が何本か差し込まれていた。
次に目に留まるのは、ソファーの目の前にある青い、木製と思われる扉の絵。その絵の中央よりやや左側にも「Doctor.
そこまで観察したところでティマがお茶を持って来てくれた。
「あ、お茶、ありがとうございます」
「……気になさらないでください、あなたはこの国にとって、大事なお客様ですから。私達の部屋、どうですか?」
「ええと、この甘い香りのせいかなぁ? リラックスできる感じがする」
「……それはよかったです。部屋のあちこちにあるアロマボトルのおかげですね。少し前に
「へぇ。じゃ、あの絵は?」
「あれは、私は直に会ったことはないのですが、Doctor.
そう言って入口に当たるところを指差すティマ。改めて見ると、確かに扉の絵がさっきまで立っていた場所の後ろにある。
「とすると、この青い扉も?」
「はい。この扉は陸地の方へと繋がっています。そこで
なるほどね。その後、ティマがこの部屋の間取りを教えてくれた。真上から見ると正方形となっていて、今いる場所がリビング。全体の4割ほどの面積で左上に位置している。その下にあるのが書斎。リビングの反対側にはベッドルーム、そしてその下、書斎の隣が簡易式キッチンや風呂、トイレがあるとのこと。
「……さて、それじゃあお昼、作ります。それで、心苦しいのですが一つお願いがあるのです」
「えっ? それは構いませんけど僕、料理できませんよ? せいぜい缶詰のフタを開けることしか」
「……いえ、そうではなく力仕事ですから、問題ないです」
ティマはそう言い残して一旦キッチンへと向かい、コードに繋がれたある物を持ってきた。
「これを回して欲しいのです。30分ほど」
それは赤い、20センチほどの楕円形で、片側にハンドルがついている──手回し発電機であった。
〇
こんにちは。筆者のラジオ・Kです。
今回もここまで読んでいただきありがとうございます!
例によって本エピソードのプチ解説を。
これらのルビついて。これらのルビは、トルコ語が由来でございます。構想段階では現在の舞台である架空の国、翠玉国のモデルである遊牧民族が使用していたモンゴル語にしようと考えていたのですが、1つ問題が発生したのです。
筆者はこういった外国語由来のルビを振る時、Google翻訳の音声出力機能を使っているのですが。モンゴル語は対応していないのです! これは困った。発音がわからない以上ルビが振れないぞ、と。
そうして他の言語にしようと思い立ったわけですが、モンゴル語について調べてみるとチュルク語族という大きな括りに属している。ではこの語族の中で有名で、音声出力機能が使える奴……見つけました。トルコ語です。
このような経緯を経て、これらのようなルビとなりました。
今回の解説は以上です。
読んでいただきありがとうございました!
感想、指摘等あれば遠慮なくコメント欄にどうぞ!
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