海馬――Hippocampus
220分経過。あと3時間55分。
「黒のクセに聞こえなかったんですの? わ ら わ は調べものに忙しいのですほれ早くあっちに
「なんだこいつ」(※1)
なんてこった、重要な事だから二回も口に出してしまったぞ。
「もう、重要な事だからと同じことを何度も言わせないでくださる? さぁ早く出ていきなさ――」
どうやらこの娘とは気が合いそうだ。
出ていけと吠えるわりには沢山の手を行使してこないしその場から1ミリも動かないので、良い機会だ――じっくり観察しよう。
前にモナコ行きの車内で出会った
纏う服装は海軍の……いや、違うな。旧時代に極東列島の文化にある「セーラー制服」という奴だろう……昨日の飲み会でやたらとデュークが推していた。
で、肝心の武装の有無はというと。
「~~~っ、なんで@#$#"&*`@#!^\~^=>?_$#%%~~」
目の前の少女はモゴモゴと文句を言いながら殻にこもった。(※2)
背からは八対の……つまり計十六本ある細い自在肢――JIZAI ARMSが装着されており、彼女自身を包み込むように展開している。その先端部にはパズルのように凹凸があるパネルが設置されていて、それらを内に折り曲げると同時にパネルの厚さが薄くなりつつも拡大していく。すると……彼女を包み込む殻が爆誕する、というワケだ。
「なんというかカニみたいなやつだなお前」
「違いますぅー
「えぇ……常用外かよ。しかも自分から認めるのか」
「シャーッ!」
殻、もといパネルの表面はさながら液体のように波打っておりその表面形状をある程度変化させることができるようだ。今、全く脅威を覚えない威嚇音を出しながら左右より鋏が形成され、おれに向かって振り上げている。
残念ながら長さが圧倒的に足りない。そのため威嚇音と同じぐらいの脅威度だ。
「……」
「シャーッ!」
「…………」
「シャーッ! シャーッ! ――シャーーッ!」
どうしたものか。
様子から察するに少なくとも「敵」ではないだろう。真偽の程は依然不明だが幾つかの情報を送ってきたことからもそれは
ゆっくりと武器を下ろしつつ、考える。
<どうやって警戒を解けばいいかな>
<そうですねぇ🤔。一般的には誠意を示すことが必要だと思いますよご主人様>
<この場合の誠意とはこちらの武装解除……ではなさそうだな?>
<はい。ファーストコンタクト時、彼女――
<つまり必要なのは情報か>
<『調べものに忙しい』という言葉からもその可能性、極めて大かと>
<よし>
「さっきから二人で何をこそこそと話しているんですの! いいから早く出て@#!^\~^=>?――」
とってもこちらも大した情報を持っているわけじゃないんだよな。とりあえず
いや、それよりもまずは――こちらが味方であると教えるべきだ。情報とは誰が言うか、という点も重要なもの。
そうだな、ここは
「お前の
「えっひょっとして御姉様がたのお知り合いですの⁉そうであるのなら早く言ってくださればよろしいのに!でしたらわらわと貴方はもう友達いやそれ以上の関係でしてよ!」(※3)
効果てきめん!
いや、てきめんすぎだろ。早口と共に殻から飛び出し駆け寄る
こいつ……もしかしなくてもちょろいな?
「ところで私たちの本名は『。』までが正式なのですよ? なのでこれからはちゃんと最後まで名前、呼んでくださるかしら?」
そして超面倒くさい。
「なるほど。どうやらアダン様とわらわは巨人の足元にいるようですわね」
「……なんだって?」
ある程度の信頼関係(?)を築けたようなので改めて自己紹介をした後、今までの経緯を彼女と共有したところで出てきたのが先のセリフだった。
「巨人というのは」
「先程自分でおっしゃっていたではないですか、『がっぷりと四つに組み合い闘っている』って」
「あ、ああ。片方は多分『
うっすらとしか見えなかったが、大量の
「未知のもの同士を同勢力にしたいという気持ちはわかりますけど、少々強引すぎるのではなくてアダン様? それにお話によると突如現れ全てを引き裂いた鎌は『そいつ』らも攻撃したのでしょう?」
「む……確かに。だが鎌の持ち主が巨大すぎて足元の味方に気づかなかったという線はありえないか?」
「その理屈、わらわにはこじつけに聞こえますわ。それに」
「それに?」
「仮に味方を巻き添えにしたと仮定して――どうしてアダン様は無傷なんですの?」
「!」
「お話を聞く限り、鎌による攻撃は一度だけだったように思えますわ。アダン様を狙ったのであれば、外してからの追撃が一度もないというのは不自然なようにわらわは思いますわ」
「じゃああの攻撃は意図しない、偶発的なものだったと」
「ええ。最初に言ったでしょう『巨人の足元にいる』と。きっと先程の事は揉み合う巨人の片割れがうっかり手を滑らせて小物を壊した――程度のものだと思いますわ」
「程度、ね」
「そんな顔をしないでくださいまし! 結果としてこ の わ ら わ と出会えたのですから、結果オーライというやつでしてよ♪」
ええ……。
距離を一気に詰め、甘えた仕草をする
<もてもてですねーごしゅじんさまーぁ?>
<うるさいわ>
どう対応したらいいんだと頭を悩ませる一方、この娘、相当頭が切れるようだ。実際わずかなやり取りだけでおれを取り巻く現象の解像度がグッと上がった気がする。
「じゃあとりあえずおれたち以外に『異形生命体』・『謎の存在①』・『謎の存在②』という三勢力がある、と」
「ですわね」
「そいつらはお互いに敵対していると思うか?」
「そうですわねぇ……うーん……あ! もしかしてあの史料って!」
そう叫び、
「ふふん♪ ひょっとしたら謎が解けたかもしれませんわ!」
「本当か!?」
「ええ。まずアダン様を襲った連中。彼らはこの日記の表現を借りると――護鍵存在、ですわ!」
「え? 護……何て?」
「護 鍵 存 在 ! 読み方はプロテキィセル。……変な読み方ですわね」
「お前が考えたんじゃないのかよ」
「違いますわよ! この施設一帯をハッキ……調べて出てきた
「わかったわかった、ひとまず信じるよ。それで
「――こほん。アダン様はこう気になっているでしょう? 名前しかわからない彼らはどこから来たのか、と」
「つい数秒前まで名前も知らなかったぞ」
「細かいことは気にしないでくださいまし。彼らはとある歴史的事件が齎した漂流物や落とし子のような存在で、今回の事件を引き起こした張本人なのですわ」
「歴史的事件だぁ? 一体何の」
「よくぞ聞いてくれましたわ! その事件の名は――
1587~1590年の間に起きたロアノーク植民地消失事件、ですのよ!」
「…………」
よし、本日二度目の前言撤回だその
※1挿絵「初対面警戒少女」
URL:https://twitter.com/reoparutK/status/1738906546846003544
※2挿絵「引きこもりのカニ少女」
URL: https://twitter.com/reoparutK/status/1738906548804743457
※3挿絵「ちょろいカニ少女」
URL:https://twitter.com/reoparutK/status/1738906550616678548
※4挿絵「これは調査ですのよ調査! 決して犯罪行為ではありませんわ!」
URL:https://twitter.com/reoparutK/status/1738906552378204257
挿絵は全てDALL・E 3を使用したイメージ図なので文中と明らかに違うものがでてきても悪しからず。
○
こんにちは、こんばんは。
作者のラジオ・Kです。
恐らくこれが年内最後の更新となります。
依然と比べ相当更新ペースが下がったと思っておりますが、変わらずのご愛読、誠に感謝の限りです。
次回から本格的な謎解き、そして大迫力のバトル回へと移行していくので、ご期待くださいませ。
それでは読者の皆様、良いお年を<(_ _)>
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