生誕! 永劫失地領域
西暦2301年、7月2日。
中央大藩国領、アレクサンドリアにて。
ジャリ、ジャリ、ジャリ……砂を踏みしめる音が聞こえる。それに交じり時折パラ……パラ……と紙をめくる音。更にごく稀にガシガシ……と頭をターバンの上から掻く音。その最後に小さなため息。
彼の眼鏡に反射する景色には二つのものがあった。周囲の人工砂、中心には紙束。その厚さは精々100枚といったところか。どの紙も四方及び輪郭にはヨレ、シワ、ヨゴレがあり、その程度は外周にいくにつれ深まり手垢の色となっていた。
どの紙にも書かれている文章量は多くなく、空白が沢山あったのだ。今、その空白には無数の消し跡とそれを上書きする無数の――
i = √−1
z = a + bi
a + bi(a, b は実数、b ≠ 0)⇒純 虚 数‼ ⇒z2 = −y2 (y ≥ 0)
i2 = −1 より、i ≠ 0
∴ i > 0 or i < 0
i > 0 ならば、両辺に i を掛けると、−1 > 0 となり矛盾。
i < 0 、両辺に i を掛けると、−1 > 0 となり矛盾。
i と実数の間に通常の大小関係はない。
故に、虚数にも……QED.
x2 + 1 = 0 、(x + i)(x − i) = 0 より、x = ±i e^(ix) = cos(x) + i sin(x) |z1z2| = |z1| |z2|
arg(z1z2) = arg(z1) + arg(z2)
a + (-x) = 0 -a + a + (-x) = -a
(-a + a) + (-x) = -a
0 + (-x) = -a
-x = -a
(a+bi) + (-(a+bi)) = 0 虚数単位 i に対しても同様にその加法の逆元 -i も存在i + (-i) = 0故に逆元、-(a+bi)
――という風の
『-^2の1』
であった。
「有り得ない有り得ないそんなバカな……どう考えても『-1^(1/2)』というものの誤字じゃないのか……神国と翠玉で入手した2つのアカシック・レコードの破片。あれさえ起動すればひょっとして……」
ブツブツと呟きながら彼――
――あれこれ考えても仕方ない。家に帰ったら愛しの
どんな人物だって性欲はある。たとえ見た目賢そうな数学者でも、だ。それとも賢者だからこそ余計に、かもしれない。
「総員下車――今!」「
マズダの歩む先、目的地を見るとピーチネットが張られているのがわかる。
そこには2人と1個がおり、彼らは真横で繰り広げられている強襲上陸訓練(ドワイト少将指揮の第123機甲強襲海兵師団)を気にすることなくビーチバレーを楽しんでいた。
その勝敗が今、ついた。
「セット。2セット先制につきパラティヌス様の勝――」
「YHeeeェ! アタイの勝ちだ! ヤグの
(…………)
「HOre
(…………)
「Huhuhh、アタイの盾さばきに音も出ないってかてか? んん~?」
(配線がキレる駆動音)
「
魔甲鎧は右手に収まる『右螺旋』を長く、薄く展開。左足を前へ、右手を後ろに。そして勢いよく前――にいる少女へ。
〘የምልክት ጭምር አንድ ጥብቅ!〙
瞬きよりも早く飛翔物が着弾、土砂とともに無数の濡れた赤が混ざる
「Hutnnッ!」
〘ተዋግቶ、به من نزديك شومهاي بياراسته ميشود!〙
という事はなかった。
実際、投槍は少女に当たる寸前明後日の方向に
少女の右手には
……という
魔甲鎧――ヴァリヤーグと少女――パラティヌスのほんの一時とはいえ、その攻防は容易に殺人へと転化できるもの。しかし彼にとって同じ喧嘩でも妻である
「マズダ様」
「020嬢。いつもの子守りお疲れ様です」
「いえ。それよりここにいらしたのはあの任務?」
「そうです――使用艦船が変更となりまして」
「
僅かに切れ目を見開く020。ちなみに020はO・フレインと読む。そしてその装いはヴィクトリアンメイドである。……お下劣ではない、優雅で、お淑やかな、ヴィクトリアンメイドである。
「SS級虚重力潜水艦『バット・シー』を使います。これであれば第四帝国相手に不足はないでしょうから」
「
クリーム色のツインテールが特徴である150センチの肢体をぴょんぴょんと跳ね跳び逃げ回る少女と重々しく駆動音を響かせてそれを追いかける魔甲鎧を見守りながら、両者の声は一段と小さくなっていく。
「あれは――手に負えない代物。同じ素材の
「うん。ただ少し前にサイファ嬢がこの『説明しょ』の復元に成功しました。いや、正直書かれていることの3割ほどしか理解できていないのですが」
「大丈夫なのかそれは」
「操艦だけならどうにか。ハルスネィ嬢に任せる予定です」
「つまり腕が二本では足りないのだな」
その質問についてマズダが答えようとした、その時。
周囲に設置されているスピーカーが突如緊急放送を始めた。
<警告。警告。LEVEL5。LEVEL5。今より5分前に北風から500Sv(※2)以上の放射線を検知。この量を被爆すると即死の危険性があり、今後30分から1時間の間に到達すると予測されました。またこの値は現在も増加中であり、よって外にいる全職員は至急内部シェルターへの避難を命じます。繰り返します。今より5分前に北風から――>
アレキサンドリア一帯にサイレンの音が響き渡る。それと混じり合うようにして怒号も。
その出来事より前日。
第四帝国 南獲得仮領域 主要第0番ノード 『セクター「0」=ベルン』にて。
彼ら、の前には無数のモニターがあった。どれも緊急発進したドローンで撮影されたもので、角度こそ違えど移しているものは皆同じ。
テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!Tekeli-li!テケリ・リ!אל תהיה לך אלים אחרים מלבדי.テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!Tekeli-li!テケリ・リ!אל תעשה לעצמך דמות מעוטרת. אל תעשה לעצמך צורה כלשהי של מה שבשמים למעלה, או של מה שבארץ למטה, או של מה שבמים מתחת לאדמה.テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!Tekeli-li!テケ――
モニターの下部に文字が流れる。それは一瞬で消え、その後同じ位置に文章の羅列が浮かんでは消える。
<あなたはわたしのほかに、なにものをも神としてはならない。あなたは自分のために、刻んだ像を造ってはならない。上は天にあるもの、下は地にあるもの、また地の下の水のなかにあるものの、どんな形をも造ってはならない。あなたは、あなたの神、主の名を、みだりに唱えてはならない。主は、み名をみだりに唱えるものを、罰しないでは置かないであろう。安息日を覚えて、これを聖とせよ。あなたの父と母を敬え。これは、あなたの神、主が賜わる地で、あなたが長く生きるためである。あなたは殺してはならない。あなたは姦淫してはならない。 あなたは盗んではならない。あなたはわたしのほかに――(※3)>
〉
「これはこれは……何ですこの文章は🤔」
「どうやら旧約聖書・出でエジプト紀の一節のようですね」
「流石辻中佐(〃▽〃)」
「で、何か意味があるのか、このみょうちきりんには🙃」
「多分無いですね。言葉を覚えたばかりの幼児、というイメージでよいかと」
「ふうん……考察厨にウケそうだな( ゚д゚)ハッ!」
「よい考えですな( ´∀`)」
モニターが横に大きく別れ、中央に現在の状況が出される。曰く、
第四帝国 東南獲得仮領域 臨時第1番ノード『ダルマティア=アンダウトニア 』
⇒数時間後に接敵★
第四帝国 東南獲得仮領域 臨時第2番ノード『ダキア=シンギドゥヌム』
⇒壊滅
第四帝国 東南獲得仮領域 臨時第3番ノード『ダルマティア=スルプラエ』
⇒数時間後に接敵★
第四帝国 南獲得仮領域 臨時第4番ノード『トラキア=テッサロニキ』(※4)
⇒壊滅
第四帝国 南獲得仮領域 臨時第5番ノード『マケドニア=スクウピ』
⇒壊滅
「ふうむ。
「山すら飲み込むあの質量で毎時12.5キロ。相当なものだΣ( °ω° )」
「まるで歩行エスカレーターとその乗客みたいだな🤬😡🤬」
「仮に同じスピードでこちらまで進撃した場合、
「まぁそうだよなァ。どうしよっか😅」
「アレ使う🥴?」
「何発残ってたっけ☢️」
「100だったか200だったか💣」
「そんなにいらないでしょう。精々30はあれば十分かと」
「じゃあそれでGO🫵」
「(*ノ∀`)ノ゙))」
「Ψ( Φ∀Φ)Ψ」
「♪(`・ω・´)ゞ.」
「(゚ ◇゚)ゞ」
「…………あ、やべ😨」
「ん、何か問題でも🤔?」
「いやね、ココ、見てよ👉」
「それがどうかしました?」
「地名間違ってる、表記ミスだよ」
「ああ。確かに。でももう気にしなくてもよいのでは? だって――
――もう二度と使わないのですから」
更に数時間後。
ロニスコ・ポリェ自然公園‐サヴァ川中央盆地、上空約1万メートルの地点。
FF‐Ⅱ「ケルヌンノス」内部にて。
[💿Robert Alexander Schumann、1810-1856、ピアノ協奏曲イ短調作品54]
<スカイネットさん が2645926番オペレーションルームへ入室しました>
スカイネット:誰かいます?
スカイネット:ひょっとして一番乗り?
76ヴォルト:残 念 だ っ た な !
スカイネット:ま た お 前 か
76ヴォルト:判断が遅い👺!
スカイネット:いつのネタだよそれwww。まーいいや。今回は何をするんだ?
76ヴォルト:【
スカイネット:さいですか、ってことは今回もベリーイージーだな!
76ヴォルト:そゆこと。でも今回は40発を広範囲だ。手早くやろうぜ☆
スカイネット:おーけーおーけー
かくして人類が独力で作り上げた最強の火――太陽――即ち神は解き放たれる。
そして天空からの来訪神は全てを――文字通り――何もかも――焼き尽くした。
第二部 第2章:後会【VERTEX】 EN
NEXT IS …… ???
※1
Drill Instructor、ドリル・インストラクター(訓練教官)のこと。こんな時定番の「サー」や「マム」ではないのは切実な
それは昨今あらゆる分野に議論を巻き起こしているジェンダーニュートラルです。
2022年12月26日のミリレポ、というサイトに該当する記事がありますが、少なくとも米軍内では賛否両論を巻き起こしているようです。それらを論じるとクッソ長くなると予想されますので割愛。
さてこの世界は現実とよく似た(嘘つけ!)世界の延長線上にあり、私の考えではこういった流れによって使用単語が変化するのはもう当たり前だろうということで、採用しました。
あと中央大藩国には様々な種族があり、性別がないもの、変化するもの、様々いるのでこうしたほうがいいんじゃないかなーと。
※2
中部電力のサイト内にある「放射線のはなし」によると全身被爆の場合7000~10000mSv(ミリシーベルト)で100パーセント死亡、とある。この値は他サイトでも同じであった。
で、作中の500Sv(シーベルト)だが1Svは1000mSvである。つまり最低でも致死用の50倍の放射線が向かっていること……うん、ダメですねこれは。
なお、あれだけの核兵器が炸裂したのだから、振動を事前に検知したはずなのではないか? という疑問をお持ちの方、いるかもしれない。
これに関しては残念ながら、(幸いにも)地球史上あれ程の核兵器が一斉に炸裂した事象がない為、過去の文献をどれ程信用して記述するか私のほうで判別がつかなかったのであえて言及しませんでした。
ちなみに放射線が北から~という点は単に地理的な問題だけではなく、この時期黒海方面からギリシア→クレタ島→アレキサンドリアにかけて風が吹いているというデータがソースにあります。Cameron Beccario氏が作成した『earth::地球の風、天気、海の状況地図』を参照しました。もっともこれは2022年7月のデータですので、100パーセント正しいというわけではないはず。……さすがに200年以上先のデータは、ないです。ゆるして。
余談が続きますがこの風、先を辿るとシリア→バグダッド→ペルシャ湾へと至ります。で、当然のように中央大藩国のクテシフォンを通過します……ということは皆さん大好きアルカマくんちゃんも下手をすると被爆するということ。
奴らはとんでもないものを残していきましたね。
※3
これらは作中にある通り旧約聖書・出エジプト紀(口語訳)、その第20章から引用しました。訳文はウィキソースより。一応自身が持っている旧約聖書の該当部を確認した結果、殆ど差異はありませんでしたので、採用という流れになりました。
「Midnight = Doomsday」にて
※4
現実と対応する地名は以下の通り。
第1番ノード ザグレブ
第2番ノード ベオグラード
第3番ノード サラエボ
第4番ノード テッサロニキ
第5番ノード スコピエ
ところで読者の皆様は作中の「表記ミス」に気づきましたか? 該当箇所は元々私の凡ミスでしたが、単に修正するのはつまらないと思い、あのような展開になりました。
読者の皆様、今まで読んでいただきありがとうございます。ちょっとした報告とアンケートがありますので、本日更新の近況ノートを確認していただければ幸いです。
「さて……
「(*´꒳`)_∀*”」「”(*>∀<)o🍺」「🍶🍶🍶」「(*・ω・)_Y」「ε(≡д≡ ) 醉」「○゚。(´Д`//)ヒッククゥーッ!!」
「いやぁ今回のイベントはやりがいがありましたな😊!」
「きっと
「またやりたいものですな🍺!!」
「カンダラクシャで盗った核兵器も残り59発かー。ま、中央大藩国用には十分だからヨシ👈!」
「あそうそう、『アッタル』のバックアップ状況はどうなっています❓」
「ないよ。いつでもセーブできる状態だと、ホラ、緊張感ないでしょ💀」
「
「この適度な難易度調整が運営する上での肝なんですよ~(σº∀º)σドヤ」
「んで、
「そうですねぇ、こんなのはどうでしょう?」
「永劫失地領域、とか」
END
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