また、ね
神はこのすべての言葉を語って言われた。
――旧約聖書 出エジプト記 第20章1節より
「き、貴様らか、うちの社員を殺したのは」
(中略)
「なんのために」
男はちょっと首を傾げ、
「なんのために、ときいたやつはおまえがはーじめてかもな。きいたらいつでも教えてやったのに、だれもきくものがいーなかった。お答えしよう。俺たちの目的は……」
――田中啓文 「夢の帝国にて」より(※1)
見える、というより感じる。遥かなる
見える、普通に。近しい
見える、目の前に。こっちを見ながら大地の上に在るもの悉く飲み干し、泡立つ沼地へと変貌させ、そこから逃げる者は例外なく感染。異形となってしまった。
いや、例外があった。おれだ。
どういう訳かおれだけはまだ
迫りくる
〉現在地の大気成分比率一覧。
・窒素 75.08パーセント
・酸素 23.25パーセント
・アルゴン 0.93パーセント
・二酸化炭素 0.02パーセント
〉警告。
現在地の大気成分にズレを検知。酸素濃度が急激に上昇中、あらゆる威力の火気使用の禁止を推奨します。または早急にこの場を――
読んでいる間にも酸素濃度は24.13に上昇しつつある。というか機械の体だと迂闊に動こうものならそれだけで火花が散って、ドカン! だ。
恐怖とかそんなもの関係なしにおれは、動けない。
<ご主人様……>
不安そうな声色のブレイン。そりゃあそうだ、何か急いで手を打たないと。おれのこと……いや、この世界についての真実を
非情にもその時が来た。ぐるぐるとおれを取り囲む様に
ぼこぼこと泡立つ玉虫色の
その余りの気味悪さといったら!
こんなんが押し寄せたら誰でも、どんな存在でも逃げるに決まっているわ。この期に及んで冷静に分析してしまうなんと愚かしいこと! それとも何もできないおれの最後の抵抗というやつか。
Shotggoouthh がその
ぐぐ
ぐぅにゃり。
目玉が
そしてShotggoouthh は動きを止める。玉虫色の
今やShotggoouthh は
語るその内容は。
オマエ、クソキモチワルイ。イヤダイヤダイヤーァダ。
……は? もちろんShotggoouthh は声を出したわけではない(相変わらずテケリ・リ!Tekeli-li!テケリ・リ!と五月蠅いが)。ともかく何故かわかるのだ。今あいつが何を思っているのか、を。
それは生理的嫌悪だった。おれが思っているものと同じ。相思相嫌ってか。ったくおれのどこにそんなもん――待てこいつは一体どこを見てこんな表情を――
<ヒィ……>
まるでブルースクリーンのような顔色でガチガチと歯を鳴らし声にならない悲鳴をあげて酷い怯え方を見せるブレイン。
まただ。さっきといい、おれじゃなくて、また、ブレイン。そりゃあちょっと出自不明なところ等はあるけどよ、なんてことはないAIなんだぞこの
どこにもお前らが注目するものなんてないはずなのに、何だよ。何で全員で見ているんだよ!
「いい加減にしろよ……そもそも何が目的なんだよお前らは!?」
こっちを、つまりはおれの横に浮かぶブレインを見ている連中に向けて、ついおれは怒鳴ってしまう。何とかしてこのクソみたいな感覚を飛ばそうとして。それ以上の意図はどこにもない。だから、本当に驚いた。
「おこたえしましよう」
向こうから、返答があったことに。
「わたしたちはただただもといた
「なによりもこのあたりでおうの心臓の気配があつたのですよしりませんかおうのしんぞうを
神仙――
元いた場所に
それらにおれが越えたいとする目標個体である――ヒロシ、が関わっている。という事ぐらいしかわからない……何故だ、何故あいつの名前がこんなところで出てくるんだ。単に奇怪な
ただただ混乱するしかないぞまったく。
「どうやらしらないごようすおうよどうやらここまでのようです」
「の、ようだ」
おれの様子を見てとった
「では
音もなく右に
「
チリン、チリン。
どこからともなく汽笛の音が聞こえ始めた。
次いで振動が強まりながらどんどん近づいて来る。まるで駅のホームに近づいてくる列車のように。蟲
ゴゴゴ、と地面が揺れる。揺れは加速度的に強くなり、そして丁度Haxszthulr らがいる真下が盛り上がった。
瞬後、そこから狂気的な量の蟲が湧き出てくる! 蟲
蟲
その蟲共はから見ると奇妙なことに「蟲」の字とそっくりな形をしている。漢字でいうところの下の「虫」2つから「
蟲 蟲
みちゃねちゃみちゃねちゃみちゃねちゃみちゃねちゃ 蟲
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲
耳が
蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲蟲 その
ケーブルに邪神たちが思い思いのやり方で手に取る。そのまま一気に上に昇っていく―― 「また、ね」 ――まるでエレベーターだ。
女の声で餞別をよこしたHaxszthulr の姿はあっという間に高度3万メートルに到達。そこにはいつの間にか
体長千メートルはあろうかというその巨体はどうしてか悪竜を想起させ、悪竜とは無数の蟲の集合体なのだ。
百、千、万、億単位の脚を一斉に動かし、北へと出発するその姿はどうしてか銀河鉄道を想起させ、銀河鉄道とは冥王へと誘う
呆然と見送るおれの耳に
テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!Tekeli-li!テケリ・リ!אל תהיה לך אלים אחרים מלבדי.テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!Tekeli-li!テケリ・リ!אל תעשה לעצמך דמות מעוטרת. אל תעשה לעצמך צורה כלשהי של מה שבשמים למעלה, או של מה שבארץ למטה, או של מה שבמים מתחת לאדמה.テケリ・リ!テケリ・リ!テケリ・リ!Tekeli-li!テケ――
まだ地獄は終わっていない。
それどころかここから始まるのだ。
奴らは一糸乱れぬ行軍で西へ西へと進んでいく。
失地領域のその先――獲得領域へと。
待ち受ける未来は
その時、未来という概念は終わりを告げるだろう。
過去すら、なくなるだろう。
何もかも亡くなった大地を見て、おれは悟る。
これより先に、おれの出番は、もうどこにもないのだと――
※1 引用した作品は創土社が発行している The Cthulhu Mythos Files の『クトゥルーを喚ぶ声』に収録されています。
また、最後の「……」という部分ですが、もちろん本来であれば代わりに長々としたセリフが続きます。ですが流石に全部書くと本文が食われてしまうため、私の手によりああなりましたことをここに明記します。
※2 百足=ムカデのこと。他にも蜈蜙、蝍蛆などが漢字表記としてある。
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