海獣VS戦列艦
戦闘は意外なほど早く終わった。
戦列艦と海獣、その距離は約6000m。怒りに震える海獣はその巨体からは想像もできない速さで戦列艦へ向け突進する。
GGGOOOOAAAAAKK!!!
対する戦列艦はすぐには動かない。戦列艦の先頭には薄く煙が上がっていた。おそらく先程の砲撃はあそこにある砲によるものだろう。チトセにぶち込まれた情報によるとカロネード砲とかいう武器らしい。でも、あんな時代錯誤な兵器で海獣を屠ろうというのか?
無茶だ!
僕の心配をよそに海獣は距離を詰め——およそ3000mを切った時、突然戦列艦が右方向へ回頭する! 帆船とは思えない速度で。
回頭が終わった時、戦列艦と海獣の位置は上から見ると「T」の字を描くようになった。
確かにこの形なら戦列艦の火力を十分に発揮できるとは思うが——この時彼我の距離は1000mを切った。
次の瞬間戦列艦が火を噴く!
ズドドドドドドドドドドン!!!
信じられないことにその砲撃感覚は異様に短い。1秒に1発、いやそれ以上だ!
予想だにしない激しい攻撃に海獣はうめき声をあげる!
GYOAKKKAAAAGGA!?
そうして20秒ほどであろうか。連続攻撃が続いた。
その結果、海獣の全身を覆っているトゲは殆ど砕け散っていた。醜いその顔も半分ほど吹き飛んだようだ。さらに長く太い首もあちこち穴が開いていてカラフルな血液が流れ出ている。
それは一目で重症だとわかる傷であった。
砲撃が終わり、艦の周囲を覆っていた噴煙が晴れるにつれ海獣を攻撃した武器が露になった。カロネード砲に比べ遥かに近代的なデザインの砲身が右舷より10門ほど生えている。その姿を見た僕は即座にチトセにぶち込まれた情報の中から最適解を見つけた。
その武器の名は、「オート・メラーラ社製62口径76ミリコンパット砲」。
その発射速度は毎分80発を誇る旧時代でもトップクラスの性能を持つ速射砲で、これは逆算すると海獣は僅か20秒という短い時間に200発以上もの砲弾を受けたことになる!
………………
…………
……
海獣は若かった。
初めての勧誘であった。
それがまさかここまでの深手を負うとは考えていなかったので海獣は混乱していた。もう一度攻撃してみるか?
それとも逃げて仲間を呼ぶべき?
なかなか考えが纏まらない。
その理由として経験不足な事だけでなく、脳を半分近く消し飛ばされたことで物理的に思考能力が低下していたことも影響していた。
頭が足りない、というやつである。
もしこの時直ぐに遁走していれば、もしくは直ぐ下から迫る脅威に気づけば海獣の未来は変わっていただろう。
………………
…………
……
先ほどとは打って変わり戦場は静かになった。
先ほどの砲撃以降、戦列艦も海獣もお互いに沈黙しておりその状態から数分が過ぎようとしていた。僕は不思議に思って曲直瀬に尋ねる。
「……両者ともどうして動かないんでしょう?」
「海獣の方は分からないけど、翠玉の方は見当がつく。きっと弾切れだろう。かの国は懐事情が厳しいからな」
「それじゃあ、この後どうなるんです?再び海獣が動き出したら…………」
思わず悪いイメージが脳内を駆け巡る。
「し、下……下から何かが、来る」
その時、力道に介抱されていた睡蓮が突然呟く。それと同時に海獣の手前、500mほど離れた場所の海水が突如として盛り上がる。そして中から鯨のような物体が飛び出してきた!
それは全長100mほどの、灰色の金属の体を持ち、中央より手前から小さな盛り上がりが見える。
あれは……潜水艦だ。あれも翠玉のものなのか?
幸いにも直ぐに答えが出た。
海獣は新たに登場した物体に興味を持ったようで近づこうとし——潜水艦の前方ハッチが開き中から
ドン!
砲弾は正確に海獣の頭部に命中。
これを爆散させることに成功した。
主を失った体は断末魔を上げる事も叶わずに沈んでいく。
「勝った…………ようですね」
力道がそう言うと曲直瀬の体がどっ、と崩れ落ちる。
緊張が解けたからだろう。
「た、助かったぁ~」
と団長にふさわしくないような情けないような、安心したような声を上げている。僕も少しでも油断したら地面にへたり込んでしまいそうだ。
ともあれ海獣の脅威がなくなったので少し余裕を持って艦を降りる事ができる。翠玉の戦列艦もこちらに近づいてきているので直ぐに救助されるだろう。いつの間にか先ほどの潜水艦の方がこちらを心配し、寄り添う様に近づいてくる。そのため潜水艦の側面を見ることができた。
つまり艦名がわかったのだ。
そこにはこう書かれている。
「2e escadron de destroyers "Surcouf"」
……ええと、シュルクーフ?
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