まだ見ぬ世界の猛者たち
あらゆるものに非の打ち所がないと悟ったとき、そなたは喉をそらし、天を見上げて呵々と笑うことであろう
── ゴータマ・ブッダ
西暦2299年 某月某日
中央大藩国、メディア州、州都イスラマバード近郊にて
ズゴゴゴゴゴゴ…………
ズシン、ズシン、ズシン、ズシン、ズシン…………
聞こえる。
感じる。
五臓六腑が震える。
辺り一帯の大地は今、規則正しい振動音によって支配されていた。
これまでの人類が経験したことが無いような桁違いの振動音だ。震度7クラスの地震のようで、人が直立不動することなど決してできないだろう。
一体何が動いて、歩みを進めているのか?
やがてその影が露わになり始める。
それは鋼鉄の
人と同じく直立二足歩行の、全長10~15mの様々な頭部を持つ、まるで宇宙空間で戦う有人操縦式の人型機動兵器のようである。
その手にはライフルではなくその巨体に見合う長さの無骨な剣や槍、大盾を装備している。それらの規格は全て統一されており、古代に存在したエリート軍団「不死隊」を彷彿とさせる。
さて、そんな規律良く行軍する巨人の後ろから、更に、更に巨大な鉄塊が地平線の彼方より姿を現した。
もし旧時代の人間が見たら何というのだろうか。
普通のサラリーマンならば「箱」とでも表現するだろう。
少し
鉄塊の見た目はそれで問題ないだろう。
問題は、その大きさ。
全長8000m、全幅2000m、全高50m!
その鉄塊は正真正銘のバケモノであった。全体の質量なぞ考えたくもないが、その値は
そして鉄塊の最も驚くべき点はその速さ。なんと時速15km!
鉄塊の名前は「2-я Уральская мобильная крепость "Сварог"」、「第2ウラル機動要塞 "スヴァローグ"」という。
その上空にはWの形をした「ベールシャメン」級空中空母と両翼に群がる影が2つ。
一つはダブルデルタ翼を持つマルチロール機「テジャスⅨ」。
もう一つは……多種多様な装飾をつけて飛行するワイバーンの群れであった。
その機動要塞の艦橋、司令部にて。
二つの人影が眼下を見下ろしている。そこには機動要塞の運行管理センターがあり、100人以上の職員がミズスマシのように動き回っている。
司令部にいる人影のうち一つは女性だ。人間離れした美貌、スレンダーな体系、すらりと伸びる美しい脚。かなり露出の激しい服を着ている。特に両足の黒のガーターベルトときらりと光るような純白の肌の対比が凄い。
もしこの場に男性がいたらまともに彼女を直視できないだろう。
さて、もう一人は男性である。いや、この場合オスと表現するべきか。
婉曲な表現を使わずにその男性のことを書き表せばこうなる。
「二足歩行の人間大トカゲ」と。
赤、黄、青と見る者を混乱させそうな鱗を照明に反射させながらトカゲはぎょろりとした、直径10cmはあるだろう目で女性を見据えながら長い舌を激しく出し入れしている。
その様子は何かを報告しているようだ。
残念ながらその
「……………………ュシーィュ…………キギギキィ…………―ュギシィー…………」
頑張ってみたがこれが限界であった。
ところが女性の方はその鳴き声の意味が分かるのだろう。耳介が長く張り出し、先端が尖っている形状の耳をピコピコと動かしながらしきりに頷いて報告を聞いている。
やがて、トカゲの報告が終わると彼女は呟く。
「そう。第Ⅵ型レーザー核融合の作動と反重石による
その言葉にトカゲは頭を上げた。
彼らにとってこれがお辞儀に相当する動作であった。
彼らが所属する軍団名は「第一中央軍団 "ハーヤーリム"」という。
同時刻
中央大藩国、キリキア州、とある遺跡都市にて
ビーッ‼ ビーッ‼ ビーッ‼
警告、警告。侵入者‼ 侵入者‼
「…………ぐはっ」
たった今、反乱軍最後の一人がその短い生涯を終わらせたところだ。丁度心臓の真上に当たる位置には手が添えられている。
その手の持ち主、【命の審判者】ガイアン・アブスパールは男の胸よりそっと手を引っこ抜いた。
鮮血が滴り落ちる。
「…………ハァ。退屈だ。つまらない。俺にも
ガイアンがそうつぶやくのも無理はない。彼は「王の刃」という称号を持っているのだが、プシィティグハーン(大王直属軍団)の中では「最弱」という不名誉なあだ名もあるのだ。
…………それにサル顔とイケメンの部類でもないしな。そう一人さみしく自嘲していると、ガイアンの白いパーカーが振動する。
電話がかかってきたようだ。
めんどくさそうに通話に出ると、
「今までどこに行っていたんですか師匠~!」
という中性的な、いかにも「ふぇぇ……」とか言いそうな弱弱しい叫び声が聞こえてきた。
「ああ? あのな、アルカマよぉ? お前もう成人しているんだろうが! ンな情けない声出すなよ全く。……そうだよ、反乱軍の討伐だよ! 全く全部俺一人に任せなくてもいいのにさぁ。いやになっちゃうぜ。……うん? 外が五月蠅い? ああ、警報の音な。心配すんな。奴らには俺が見えないからよ」
そう。
遺跡都市の防衛システムは全て健在であった。もしガイアンのような侵入者がいたら二桁以上の迎撃用ターレットによって全身が粉砕される、はずであった。
ところが目の前に侵入者がいるにも関わらずターレットは発砲しない。
それは侵入者を検知できても居場所が特定できないという人間には理解できない理由によるものだ。それは誠に奇妙な光景だった。
目の前に侵入者がいるのに!
ガイアンは電話越しにアルカマと通話しながらバランスが悪いような、奇妙な足取りで遺跡都市より脱出しようとしている。
その時、端末の光が偶然にも、一瞬ガイアンの後ろにある山を照らした。
山。人だったものの山。
死者の山。その数は2万。
その数は反乱軍全員と等しい。
もちろん、ガイアンたった一人の戦果だ。
彼にはいくつもの名前がある。ガイアン・アブスパール、【命の審判者】、「王の刃」、そして「最弱」。彼を悪く言う人物は知らない。最後の名前は意図的に略されていることを。
本当は「相性により最強或いは最弱」である事を。
ガイアン・アブスパール、人類最強の男。
そう、人類の中では…………。
同時刻
中央大藩国、
部屋には3人の男がいた。
一人は身長2mにもなる大柄、筋肉質な黒人だ。その眼差しはタカのように鋭く、精悍な顔つきをしている。本来であれば人によっては醜さともとれる完全なる脱毛症も、彼に関して言えば逆に魅力としても映る。
彼の名はバラク・マンデラ。中央大藩国軍全てのトップ、国家元帥の地位にある。
もう一人はマンデラと対照的に非常に小柄だ。身長はせいぜい1mと30cm程だろう。しかしその肉体はマンデラ以上の筋肉で覆われている。肉体の縦と横が同じサイズなのではないか? と錯覚してしまうほどだ。
もう一つ特徴的なのはその長い、長いあごひげだ。
複雑な形で結わえてあるそのひげは今にも地面につきそうだ。
もしこの場にポップカルチャーに詳しい極東出身の
「ドワーフだ‼」と。
彼の名は「雷の部族族長ルアバの息子、トールン」という。
最後に部屋の床より一段高い場所にある黄金の玉座に座る男がいた。彼こそこの人類最強の国家である中央大藩国の大王、キュロス3世である。
大王はとあるプロジェクトの進捗状況の報告を受けていたのだ。
「つまり、人造神が完成するまで4,5年はかかるということだな?」
「その通りでごぜぇます大王殿」
続けてトールンが言う。
「これでも大分短くなったんですぜ。
「……むごいことをするものだ、彼の国も」
マンデラがぽつりと呟いた。
その後も、もうしばらく2人は報告を続けた。
大王は2人を退出させると顔に手を当てて暫く考える。
5年、そう。あと5年だ。そうすれば翠玉の姫君を向かい入れることができる。人造神も「プロジェクト・メモリア」も完成する。
人類がようやく、反撃の狼煙を上げることができる…………!
だが、敵は、「王」は、極彩衣の王は待ってくれないかもしれない。
なるべく急がねば。
極彩衣の王がもし、先に戦力を終結し終えたのなら、
人類、いや、全ての知的生物に未来はない。
そのためには…………
王の熟考は続く。
まだ見ぬ世界の猛者たち END
やぁ。
また、会ったね?
この2つの話に出ていた人物、よーく覚えておくんだよ?
それじゃ、またどこかで逢おう。
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