エピローグ

 永引いた生命は悲哀を永引かせる。

 ──『人間の願望のむなしさ』より サミュエル・ジョンソン『人間の願望のむなしさ』


 あきらめを知らぬ、本能的な女性は、つねに悲劇を起こします。

 ──『ろまん燈籠』より 太宰治






 ──風が吹く。

 ここは寒い。

 ──風が吹き荒れる。

 ここの支配者は極寒。

 ──染める色は、極彩色ごくさいしき

 異界の色が、全てを覆いつくす。


 時の流れすら、色に染まり、忘却となるこの地、その座標は。

 ──北緯84度03分、西経174度51分。

 即ち、到達不能極。その最北である。





 全ての始まり源泉の地、R'lyeh, the 7th極北の continent of 第7大陸the far northルルイエにて。



 



 聞こえる。何が?

 ──鳴き声。

 聞こえる。誰の?

 ──女の子の、鳴き声。

 聞こえる。何故?

 ──迷子になった、女の子の、鳴き声。

 聞こえる。何処から?

 ──地の底に続く穴から、迷子になった、女の子の、鳴き声。

 聞こえる。何時から?

 ──この星の生誕以来、地の底に続く穴から、迷子になった、女の子の、鳴き声。


 なんて言ってるの?

 ──かえりたい。■■の世界に、何もない全て1つの世界に、かえりたいよぉ。





 王は聞く。ずっと、ずうっと、嘆きの調べを聴いている。

 太陽アルデバランを模した仮面が、花開く。次々と。


 アネモネ見捨てられたマリーゴールド絶望ヒヤシンス悲哀ヘレニウムサンダーソニア望郷


 仮面の奥に見える貌は何処か苦衷に満ちていた。

 王は触手を5つ伸ばし、不揃いの異形な五芒星を掲げる。一辺がかぎ爪のような構造を持つそれの中央にHaxszthulrハスターの頭部が入った。

 人はそれを旧神の印エルダーサインと呼ぶ。

 これは純粋な祈りの証であった。






 ──何年も、何千年も、何万年も、何億年も、手に入らなかった。この世界、飽和宇宙サチュレバースから脱出する為の術を。今までは慣れるだけで精一杯だった。

 でも、ようやく慣れつつある。後はより効率の良い『情報収集』をするだけだ。

 故郷に帰るために──





 極彩衣の王、Haxszthulrハスターは地の底に続く穴より離れ、極彩色のローブヒアデスの外套をはためかせながら王座へと歩み始める。その途中、配下のGvhxamsth-owaガタノゾーアが己の心臓を取り戻せなかった、という報告を受けた。

 足元にはN'qzzs-Klivnclヌトス=カアンブルが跪いて指示を待っていた。やや震えているように見えるのは気のせいか。


「責めぬ故、ついてくるがよい」


 Haxszthulrハスターは男の声でそう告げた。





 それからどのくらい時間が経ったか誰にもわからないが、Haxszthulrハスター決して癒えぬ傷だらけの体を異星の巨大菌「ザイクロトラン」の根元にある王座に降ろす。

 その周囲を大勢の異形神がそれぞれの方法で、最上位の敬意を示しながら拝跪していた。


Gvhxamsth-owaガタノゾーアが、失敗しその一部が完全に欠けたそうだ。成りたてには経験が足りないということがよく分かる」


 王は懐より1冊の本を取り出す。それはこの星の情報が「絵」となって表記されているものだ。

 そしてもう1つ、懐より直径30cm程の珠を取り出す。これもまた、星の情報が「絵」となって表記されている。ただし、こちらは立体的に。


 本は英語、珠はハングル表記。あの時と違い、王は文字を読み理解することができた。

 2つを見て、捲り、確認し、見て、確認し……を繰り返す。やがて、次の目的地を見つけた。


 それぞれを複数の穴だらけの触手で支え、頭上へと持っていく。配下に見せつけるように。そして目標を触手で叩く。その場所はこの星で最も巨大な陸塊より横へ大きく飛び出た、巨大な半島。


「ここの情報収集を、ZhtygihxクトゥグアRknm Zhxikaqbhルリム・シャイコースに任せる」


 粘つく比較的低温な焔のZhtygihxクトゥグアは身体をくねらせ拝命の意を示した。色に染まった極寒の大地に灼熱が吹き荒れ、その喜びを体現する。

 一方で無機質な比較的高温の冷気を持つRknm Zhxikaqbhルリム・シャイコースも顔面より開く孔より喜びの吐息を飛ばし、蛆のような醜声を奏でる。


 そんな彼らの足元を蟲たちが這いまわる。かつて宇蟲シャッガイと呼ばれた最古の人間種は、永い放浪の末に知を喪い、石に罹り……今や異形の神々を慰める存在となった。

 かつての60億年前よりの栄光は、その影すらもなかった。





────────────────────────────────────────────────────────

────────





 歴史の出来事というのは全て偶然から生じるものである。

 少なくとも当事者は、そう考える。

 だが……

 



 3年後。

 西暦2301年、6月28日。

 旧ルーマニア領、戰遺都市ブカレスト郊外にて。

 両者は、逢った。


「…………久しぶりですね」


 片方はやたらと親しげに。そしてもう片方はというと。


「はぁ? 何言っているんだ俺とは初対面だろうが」

<ちょ、ご主人様そんな呑気なことを言っている場合じゃ>

「わかってる。コイツだろ、ブレイン。化け物共の王様というのは」

<データベース照合中……適合率、100パーセント。間違いない、どうしよう急いで逃げ──>

「無策で逃げられると思うか? ぶっちゃけ無理だろ。だから手っ取り早く逃げるためにさ、一戦、やろうか」


 男は格納されたナノブレイドを展開。更に周囲に磁気操作式ナノプレート群及び散布型反射緩衝フィールドを展開。全方位型攻撃とエネルギー系攻撃に備える。

 また、男の体を覆う格子状カーボンと流体衝撃緩和剤の複合装甲の上にプラセオジム磁石粉末を散布、電流を流し固定化させる。

 要は鎧を上乗せしたのだ。


「全く、単なる戰遺都市発掘隊レアアイテム掘り出し隊の護衛任務だったんだが。グアテマラの時といい、どうしてこうなるんだか。まぁいい。噂通り、王様はボロボロのようだし、ここで討伐すればこのクソゲーのクリアが近づくってもんだぜ。合わせろ、ブレイン!」

<あいあいさー!>


 その身に超々先史遺物シャッガイの遺物を宿す男は背面に電磁パルス波を発生させ、超高速移動を繰り出す。


 挑むその先は、極彩衣の王。

 双方、刹那の内に激突す。

 果たしてその結末は、世界に与える影響は、如何に。





      第10章及び『異形ト化シタ極彩色世界ノ冒険譚』、第一部  END





The Next Stage Is …………Europe,Fourth Reich.

お楽しみに!





 こんにちは、こんばんは。

 作者のラジオ・Kです。


 約10か月前より連載を開始したこの処女作も、ようやく一区切りとなりました。

 人生初の試みがこうして続けることができたのも、読者の皆様方の応援あった故でございます。簡素ではありますが、ここにお礼を申し上げます!

 さて、第二部ですが……順当に連載可能かまだ未定でございます。

 というのもこれより、私はニートを卒業し職探しの旅をしなければならないのです。そのため先に申した通り、連載再開は「未定」とさせて頂きます。


 最後ですが、もしこの作品が面白い! と感じていただけましたら☆評価やレビューをして下されば幸いです。


 それでは、またいつの日か、会いましょう。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る