~Advent~ 異形
幕を降ろせ、喜劇は終わった。
──フランソワ・ラブレー
カルタゴ。アテナイ。南宋。ヴェネツィア共和国。キルワ王国。スペイン。オランダ。大英帝国。そしてアメリカ合衆国。
いずれもこの星で期間・場所・規模こそ違えど、強大な力を持ち覇権を握った国家たちである。
彼らの共通点は、何か?
…………それは、Sea Power。
海上権力とも海洋力とも訳されるこの言葉は、領海・公海にまでその強制力や影響力を及ぼすことで海洋を支配する。それを潜在的に、顕在的に活用することができる能力を持つ国家の総称である。
知性あるものは、母なる海を統べることで、世界を支配するのだ。
見た瞬間にその
写真越しですら恐怖のあまり発狂するほどである。そんな存在が同時に8体も。群れのど真ん中に出現したら、その結果。
その数は5万とも、10万とも推定された。
『即死』した
神々はこの時、戦艦「信濃」を中心とした
輪形陣とは簡単に言うと主力を外敵(基本的には航空機・潜水艦の事をいう)から守るために円状に戦闘艦を配置する艦隊陣形のことで、一般的には防御に優れる。
故に大変不味い形となった訳だが、神たちにとってもあまり喜ばしい状態ではなかった。
理由その1。
神たちはバラバラに出現したため、それぞれが無数の『敵』に包囲されているという事。即ち、集中砲火を受ける可能性が高いというリスクがある。
理由その2。
まだ外側に一定数の『敵』が残っていて、包囲が完了されていない。これでは標的であるティマドクネスが脱出する可能性がある。
なので、神たちはまず多少時間がかかってもよいので包囲網を完成させるように動き始めた。
【さて、
【さて、
ほぼ完璧な人の
元となった生物の1つであるシロイルカのように極めて明度の高い白色の肌を持つが、その色を人に当てはめた場合これほどまで不気味なものになるとは誰が想像したであろうか。
一切の衣類を着用せず性器がむき出しの彼女の手にはそれぞれぬめりと輝きうねる獲物が2つ。ウルミと
総じて人らしさが残る故に、かえってその異形が際立つ神である。
黒と白のまだら模様を持ち、海から空へと駆け上がるは
元となった生物であるイッカクの特徴である螺旋をえがく牙を2本、持ちそれぞれ長さは10メートル、口元から飛び出している。
更に
ここまでであればどうにか許容できそうな見た目であったが、頭部をびっしりと埋め尽くす乱雑に生えた目玉どもが全てを台無しにしていた。
総じて比較的スタンダードな、異形を持つ神である。
次々と海より飛び上がる肉塊たちは、
腐り蕩けた魚肉を団子状にした体から蠅と蝙蝠を融合させたような醜い翼が生え、ザトウムシのような細い脚を無数に生やしている。そして目や鼻、耳や口、各種毛が法則性もなく突き出ている。
元となった生物はトビウオであったはずだが、どうしてその様な外見になってしまったのか。
総じて進化の正気を疑わせる程の、異形となった神である。
元となった生物であるホタテガイのようにアグレッシブに海面を跳ねまわりながら外周を移動するのは、
殻の外周に沿って無数の目玉が生え、更に殻の内側には無数の牙が並んでいる。そして殻の隙間からは無数の水管が触手の如く飛び出て、これらが水面を叩くことであたかも水切り石のように移動するのだ。
総じて目玉と口と消化器官しかない、まさに異形と化した神である。
甲殻類特有の強靭に見える外殻をまるで波のようにさざめかせながら滑るように移動するのは
元となった生物のエビ類のような複数の触覚にそれぞれ8つの目が集まった「片目」が2つある貌。アシナガツノガニのような極めて長い鋏と脚。小さな胴体。
総じてアンバランスな肉体を持つ、奇妙な異形と化した神である。
元となった生物であるミミックオクトパスのように変幻自在に姿を自由に変えながら進むのは
何を思ったのか今、
元の存在は確かな機能美と勇ましさを持ってはいたのだが、残念ながら粘液滴る極彩色の触手で再現するのは無理があるというもの。
総じて誠に奇妙な感性を持つ、異形な神である。
こうして30秒もしない内に神たちは
一拍置いて、
【少しばかり早まりましたが。手筈通りに、
彼らの目標であるティマドクネスがいる戦艦「信濃」よりおよそ15キロ離れた位置に
ヒトと同じ姿、つまり二足歩行をしているが……その全体像はこれまで紹介したどの神たちよりも異質な異形。
まず
どういう事かというと、大和の艦首部分に45口径46センチ3連装砲を乗っけたモノが、
更に無数の
繰り返すがこれが
そして
最低でも20隻を超える、第二次世界大戦で沈んだ、
静かに眠っていたはずの彼女らは今。その神聖な眠りから
そして──
「そんな。どうして。全然……全然、違うじゃ、ないですか。私達のときと……見た目も、大きさも、何もかも……」
完全に腰が抜け、へたり込みながらロジェストヴェンナが力なく呟く。
ロシア連邦の末裔国家であるウラジミール=ブリヤート・サハ都市連盟群を滅ぼした時、
だが、今やその大きさは優に100メートルを超えていた。体の構造も陸上兵器中心から、海上兵器中心へと変化し、ロジェストヴェンナが以前
戦艦「信濃」の艦橋内にいる人は皆、神が発する強烈な『圧』によって身動きが取れず、手足は震え、体中から汗が飛び出し、瞳孔は限界まで開かれていた。
その中には既に心臓の動きを止めたものまでいるほど。
彼らは思った。
──いいなぁ、すぐに死ねて。
──いいなぁ、これから起きる惨劇を目撃せずに済むんだから。
──
だが、余所者はそう思わなかった。
「……セメニーちゃん、
「ガイアン殿、ここに」
「うし。アルカマを急いで直すぞ。俺は飛び散った血液を片っ端から固めるから、そっちは新しいパーツ……顔と心臓の準備を頼むぞ」
「ちょっと、何をしてるのよあなたたち」
「見てわからないか? この子を直すんだよ」
「直すって……アルカマって子供、死んじゃったんでしょ? それにこんな事して一体何になるの──」
「先程あなたは『最後まで逃げずに役目を全うする。これが私の責任よ』と言ったな? そんな君主が真っ先に諦めて、この先民を導けると本気で思っているのか?」
「っ! そ、れは」
もっともな指摘に対し思わず赤面する
「
「?」
「10分だ。あと10分、何が何でも持ちこたえて欲しい。そうすれば少なくとも膠着状態に持っていくことが出来る」
「ほ、ほんとに?」
「ああ。
「そんなことは今どうでもいいから。あと10分あればこの状況を変えられるのよね?」
「ああ。信じてくれ。この子を信じる、俺達を」
「わかったわ。総員──」
そう言おうとした時だった。
「ふ、
彼女が見ている方角に目を向けると。こちらに向け急降下するプロペラとその奥にいる
機体略号 A6M5。制式名称は零式艦上戦闘機五二型。略称は、
その腹に抱えるは250キロ爆弾。
その『攻撃』を、不幸にも
効果的ではあったが、忌々しき邪道に通じるその攻撃の名は。
特別攻撃。
略して特攻という。
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