有能の士は、どんな足枷をはめられていようとも飛躍する。

 ──ナポレオン・ボナパルト



「我々は精霊novis amicisの加護を受けし時以来、この祝福地帯ブレスド・リフト・ゾーンで慎ましく暮らしてきた。だが、ある時外の世界を見たいと飛び出した者どもがいた。そうして長きに渡り地間に光が入り、出ていき、また入り……彼らは帰ってきた。おぞましきを伴って! これこそ罪の証! その証拠に見よ、彼らの紋様は縮小し使う魔術精霊の加護も弱い!

その醜き白き肌、それは意思が弱き者の証。我らの黒と違い、白は何色にも染められる……そのような器に精霊novis amicisは宿らぬ……故に罪と、原罪となったのだ! 原罪は償わなければならぬ……そなたの白き肌もお主ら先祖の業故。これ以上その罪、その業を深めたくないのなら……その生涯をもって──」



 これは、そのおんなのこがものごころついたときから、聴かされつづけたおはなしです。ひるもよるも、まるでのように、のように。

 歌いつづけるは、刷りこみつづけるは、黒い肌をもつひとたち。

 聴きつづけるは、染まりつづけるは、白い肌をもつひとたち。

 そのなかに、そのおんなのこはいました。


 そのおんなのこのおじいさんは、でした。

 かれはとうぜん、白い肌のもちぬしでしたが、さきをみることのできるずのうのもちぬしだったので、国のなかではましなたちばでした。

 でも、かぞくはそうはいきません。

 そのおんなのこのおとぉさん、あかぁさんはひっしにはたらきますが、かせぎが足りません。

 血のつながっていない、おとぅとが生まれたばかりなのです。

 なので、そのおんなのこもはたらきます。

 まだわかいけど、りょうしんとおなじ稼業を、します。






 つまり、おとこのひと、おんなのひとに跪き、お礼を言って、唇をお客さんの踝につけて、そのあとは言いなりに、なるのです。

 たいていは口を使ってした後に、肉の浅い股を開いてせいいっぱいお世話します。


 そんな生活が10ねんはつづきました。

 転機はそんなとき、おとずれます。

 

 でも、それはしあわせではなく、より不幸な香りを孕んでいました。





「我ら魔術師魔人の、意志強者こくじんのために





その身でもって罪を贖ってもらう実験材料となってもらう





 すべてはかれら魔術師魔人の弱点克服のため。そのすろーがんの元、じゅうじかは生産されていきます。

 かのじょ、となったおんなのこのおとぉさん、あかぁさんもじゅうじかとなり、あしもとにころがりました。


 さぁ、かのじょのばんです。222361ばんです。

 じゅうじゅんなあくまのおんなみっつのにをしょうかさせてかみへとのぼらせる

 

 かのじょの情報子は改竄され、くるしみのひめいはとぎれ、大いなる流れから消えようとしていた、そのときです。





 ■■■■■?????は、かわいそうにおもいました。

 ■■■■■?????は、てをのばしました。

 へと。


 むすうのけんばんを押し、大いなる流れをかきかえ、

 その行為気まぐれは運命をかえました。





 かのじょはいきのこりました。

 だいさいがいすらこえる、人智をいつだつした力とともに。

 それゆえ、恐れられ、じっけんのでぇただけとりおえると、かのじょは捨てられました。おとぅとに会うひまなく。





 捨てられたさきは、こきょうよりはるかとおいばしょ。いっぱんてきには、極東とよばれるちいきの、魔素マキジェンなきばしょ。

 だから、だから──





 かのじょはすぐに死ぬはずでした。

 でも、ひろすくわれたのです。



 たすけてくれたじんぶつは、テセラクトと名乗りました。

 偽りのどうさで、魔素マキジェンをたずさえて。



 ふねのくにのわかきおひめさまは、わざと「試験のため送られてきた人物」という冷たいめいもくでかのじょをあつかいましたが、そのじつなかまとして愛していました。


 一転してかのじょは幸せになりました。あかるいとはいえなくても、みたされたせいかつ。


 そんなせいかつは、彼の登場によっておおきくかわりました。

 





 じぶんとにた境遇をもつ、彼。

 じぶんよりはるかに幼い、彼。

 じぶんとくらべ強すぎる、彼。

 身を挺して助けてくれた、彼。

 

 きがついたら、彼のことをめでおい、つねにいっしょにいて。とまどう彼のおせわをしていくうちに、心が満たされていました。

 それははじめての、恋。

 どうしてそうなったのか、じぶんでもよくわかりませんでした。ひょっとしたら「吊り橋効果」とか、そんなものなのかもしれない、もしかしたらおとぅとの代わりにしたかったのかも……でも、でも。

 なんどかんがえてもそのきもちは本物で。





 ついに彼に初めてを、おたがいに奉げたのです。

 はじめて手に入れた、ほんものの幸せ。


 ところが。世界は残酷です。


 やっと手に入れたものは、あまりにもあっけなく、もやがかかった目の前で奪われて。さらにおとぅとの命も故郷と共に吹き飛んでしまい。

 かのじょの目の前は、心はまっくらに覆われ。はかなく砕け散り……その生を自分の意思で止めてしまおうか。



 その考えは械人かいじんと邪神のしゅうげきのときにふきとびました。



 ……目の前で大切な人を奪われる、そんな事は二度とさせない!


 祈りは通じ、見事械人かいじんと邪神を退けることができました。


 同時にかのじょは気づきます。自らの体に起きた変化を。


 宿していたのです。彼との間にできた、愛の結晶を。


 結晶はかのじょに∞の力を与え、全ての垣根を取り払いました。


 もうかのじょは、のではありません。





 かのじょは、成りました。

 摂理ルールの枷を超えて受け継いたその力、振るうはただ1つの願いのため。


 もう1度、ヒロシ君と一緒に過ごしたい。ただ、それだけ。



────────────────────────────────────────────────────────

────────



 3年後。

 2301年、8月23日。

 籌略ちゅうりゃく都市イスマイリアにて。





「最後の警告だ。その子を渡せ」

「……お断りします! この子は、渡さない!」

「そうかい。ま、予想はしていた──だがね、おれにも事情というやつがあるから……」


 目の前の械人かいじん、腕よりナノブレードを展開。

 砂塵吹き荒れ、太陽翳るその下で。


 天命、ここに激突す。 





                        断章:罠ハ密カニ閉ジル。END

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