成
有能の士は、どんな足枷をはめられていようとも飛躍する。
──ナポレオン・ボナパルト
「我々は
その醜き白き肌、それは意思が弱き者の証。我らの黒と違い、白は何色にも染められる……そのような器に
これは、そのおんなのこがものごころついたときから、聴かされつづけたおはなしです。ひるもよるも、まるでざつおんのように、こもりうたのように。
歌いつづけるは、刷りこみつづけるは、黒い肌をもつひとたち。
聴きつづけるは、染まりつづけるは、白い肌をもつひとたち。
そのなかに、そのおんなのこはいました。
そのおんなのこのおじいさんは、魔探者でした。
かれはとうぜん、白い肌のもちぬしでしたが、さきをみることのできるずのうのもちぬしだったので、国のなかではましなたちばでした。
でも、かぞくはそうはいきません。
そのおんなのこのおとぉさん、あかぁさんはひっしにはたらきますが、かせぎが足りません。
血のつながっていない、おとぅとが生まれたばかりなのです。
なので、そのおんなのこもはたらきます。
まだわかいけど、りょうしんとおなじ稼業を、します。
つまり、おとこのひと、おんなのひとに跪き、お礼を言って、唇をお客さんの踝につけて、そのあとは言いなりに、なるのです。
たいていは口を使って奉仕した後に、肉の浅い股を開いてせいいっぱいお世話します。
そんな生活が10ねんはつづきました。
転機はそんなとき、おとずれます。
でも、それはしあわせではなく、より不幸な香りを孕んでいました。
「我ら
すべてはかれら
かのじょ、となったおんなのこのおとぉさん、あかぁさんもじゅうじかとなり、あしもとにころがりました。
さぁ、かのじょのばんです。222361ばんです。
かのじょの情報子は改竄され、くるしみのひめいはとぎれ、大いなる流れから消えようとしていた、そのときです。
むすうのけんばんを押し、大いなる流れをかきかえ、
その
かのじょはいきのこりました。
だいさいがいすらこえる、人智をいつだつした力とともに。
それゆえ、恐れられ、じっけんのでぇただけとりおえると、かのじょは捨てられました。おとぅとに会うひまなく。
捨てられたさきは、こきょうよりはるかとおいばしょ。いっぱんてきには、極東とよばれるちいきの、ふねのくに。
だから、だから──
かのじょはすぐに死ぬはずでした。
でも、
たすけてくれたじんぶつは、テセラクトと名乗りました。
偽りのどうさで、
ふねのくにのわかきおひめさまは、わざと「試験のため送られてきた人物」という冷たいめいもくでかのじょをあつかいましたが、そのじつなかまとして愛していました。
一転してかのじょは幸せになりました。あかるいとはいえなくても、あるていどみたされたせいかつ。
そんなせいかつは、彼の登場によっておおきくかわりました。
じぶんとにた境遇をもつ、彼。
じぶんよりはるかに幼い、彼。
じぶんとくらべ強すぎる、彼。
身を挺して助けてくれた、彼。
きがついたら、彼のことをめでおい、つねにいっしょにいて。とまどう彼のおせわをしていくうちに、心が満たされていました。
それははじめての、恋。
どうしてそうなったのか、じぶんでもよくわかりませんでした。ひょっとしたら「吊り橋効果」とか、そんなものなのかもしれない、もしかしたらおとぅとの代わりにしたかったのかも……でも、でも。
なんどかんがえてもそのきもちは本物で。
ついに彼に初めてを、おたがいに奉げたのです。
はじめて手に入れた、ほんものの幸せ。
ところが。世界は残酷です。
やっと手に入れたものは、あまりにもあっけなく、もやがかかった目の前で奪われて。さらにおとぅとの命も故郷と共に吹き飛んでしまい。
かのじょの目の前は、心はまっくらに覆われ。はかなく砕け散り……その生を自分の意思で止めてしまおうか。
その考えは
……目の前で大切な人を奪われる、そんな事は二度とさせない!
祈りは通じ、
同時にかのじょは気づきます。自らの体に起きた変化を。
宿していたのです。彼との間にできた、愛の結晶を。
結晶はかのじょに∞の力を与え、全ての垣根を取り払いました。
もうかのじょはただ強い、のではありません。
かのじょは、成りました。
もう1度、ヒロシ君と一緒に過ごしたい。ただ、それだけ。
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────────
3年後。
2301年、8月23日。
「最後の警告だ。その子を渡せ」
「……お断りします! この子は、渡さない!」
「そうかい。ま、予想はしていた──だがね、おれにも事情というやつがあるから……」
目の前の
砂塵吹き荒れ、太陽翳るその下で。
天命、ここに激突す。
断章:罠ハ密カニ閉ジル。END
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