第10章:食ウ者、喰ワレル者。旅の終わりと歩ミ。

死を迎える圀

 七生マデ只同ジ人間ニ生レテ、朝敵ヲ滅サバヤトコソ存候ヘ

 ──楠木正成






「行け、お前たち! 何としても俺を守るんだ!」


 返事はなかった。当たり前だ。その機能をないことを望んだのは俺だからだ。

 数少ないPtを使用して「購入課金」した、低位のしもべたち。計72体。

 そうやって送り出した最後の味方は、とっくにLOSTした。極彩色の樹海に飲み込まれて。


 もう偉大なる械国日本かいこくにほんは、ただ俺1人だけ。


「くそくそ糞ッ! どうしてこうなった! 俺は、ただ……俺を中心として、平穏に、永遠に、生きたいだけだったのに!」


 羨ましかった。生まれつき強大な力を振るえるやつらが。

 妬ましかった。生と死を繰り返し、無条件に崇められるあの女が。


 自分の力は大したことがなかった。馬鹿にされまくった。

 だから頭で勝負した。そして、どうにか国の上の……まで上り詰めることができた。

 でも、そこで止まってしまった。壁が、あったのだ。乗り越えることができない、壁が。


 そんな時だった。俺は初めて、戦場に立った。そして見たのだ。






 を。

 極彩色ごくさいしきの、脅威を。


 あのさぁ、ダメだろあんなの。あんな存在、勝てるわけ、ないじゃないか。

 俺は観た。黒い湖から、音もなく、絶望を纏う王が出てくるのを。

 一瞬で悟った、アレに勝つ事は出来ないと。

 顔が開いて、その奥を垣間見て、俺は。

                   速攻で逃げ出した。

                            心の底から欲しいと、

 叫んだ。

    永遠が欲しい。

           世界宇宙が膨張しきるその果てまで続く、

                            命が、

                               欲しい。


  だから俺は、その誘いに乗った。

               鋼鉄の囁きに、

                     全てを差し出して、

                             肉を捨てて

 かいじんに、なった。

 いましめなんて誰が気にするものか! 

 それで永遠が手に入るのなら、安いものさ!


 こうして俺はになった。かいじんの、に。

 全ての中心になるのはなんと心地よいことか!

 俺は決めた。

 中心になるには、周りが必要だ。だから、このか弱き者たちを、連れて行こう。

 俺の楽園に。未来永劫平穏が続く、楽園に。


 そのためにはPtポイントが必要だった。

 だから、復讐も兼ねてを殺し、食べて、Ptポイントとした。すぐに絶滅すると、復讐の意味がなくなるから、ちまちま、ちまちまと。

 角から削るように、少しずつ、ちょびちょびと、殺し続けた。


 そして40年が過ぎた。

 もう、いいかな。

 Ptポイントももう十分に貯まったし。


 そんな時、何を勘違いしたのか、肉が攻めてきた。


 家畜ノ癖ニ、ナマイキダゾ。

 イラットシタノデ、全テひっくり返シテヤッタ! 嫌ナ土地ゴト! 俺タチノ居場所モ減ッタケド、心配ナイ。


                                何か、忘れて





 ダッテ、コレカラ楽園ニ行クンダカラ。






 だが、そんな時だ。

 かみさまばけものが来たのは。

 次々と周りが、減っていった。

 数、減って、追い出されて、トコロてん、押し出サレテ、


                                ポイントガ足りない! ドウシよう!


                                   殺せ!

ご主人様ノ、ヨウボウ通りに!                  

                                  グンソー・ヒロ……兎に角、殺セ、鏖殺だ!







「何故だ何故だ何故だなぜだ! あんなに数を、Ptポイントを、つぎ込んだのに! なぜ倒せない! まずいぞこのままじゃ…………何だっけ?」








 ギシギシという錆びた鉄が軋む音だけが、平野に響く。汚染されつくした、極彩色ごくさいしきの、平野に。

 空は内臓のように蠢き、ぐるるぅるるうると鳴り響き、意味もなく点滅する。


「俺、何をしていたんだっけ。何か、思い出そうと、忘れよう思い出してそれからそうだ楽園にいかないとえいえン…………何だっけその楽楽楽楽楽楽楽楽エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ」


 壊れた機械、人の形をどうにか保ちながら、ギシギシと、彷徨う。

 ぬるり、と頭部から塊が落ちた。しわしわの、灰色の、ニューロン細胞。

 また、ぽたぽたと、落ちる。

 知能が、ぱっくりと割れた、頭より、ぽたぽたと、ぬめりながら、とろりと、錆をつたい、つつぅ、と緩やかに、ぬたっと、地面に吸い込まれる。



「お…………rえ、Dあ、楽エ、行かなきゃ、えいえいえいえいまま、っる、生まれ変わる生まれ変わるううう??>?<ぅ、KOんdおkk、らk、エ年、、次こそ、うまれかかって、みなごろしぃ、楽園、めぃざzすnd」


 ころりと、体が落ちる。ネジが、歯車が、基盤が、小雨のように落ちる。

 火花がそこらじゅうで鳴り響き、機械は壊れていく。

 涙のように、オイルがとろとろと、いたるところから湧き出て、小さな清流を作り出す。ぷすぷすとあがる煙。顎の一部が腐り、乾いた音を鳴らす。


「び、、、。カか、どぉご、ら”きゅ、en、びぐ、ぞご、…………いやだ、終わりたく、…ニタク、ナa」


 頭部のライトが消えた。歩みが止まった。音もなく、バラバラに、崩れて。

 無音が再び支配権を取り戻す。

 歓喜の音はなかった。


 彼の名?

 そんなこと、どうでもよいではないか。もう消えたのだから、思い返す者もいないのだから。

 そういった存在は、

 




 






 ともかく、こうして3つの国が滅びた。

 エチオピアで、日本列島で。ある意思の元、滅んだ。

 とはいえ、最初から決まっていたことである。

 大いなる流れというのは、終点より始まったのだから。

 そう、全ては、流れの道は、決まっていたのだ。


 



 

                             

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