#009 被害者の要求①

 あ~、オウチ帰りたい。帰っても野宿してるから家は無いけど、オウチ帰りたい……。


 場所は冒険者ギルドの会議室。隣には先生、向かいにはノルンさん、そしてハス向かいにはギルドマスターのグスタフさん。まるで保護者面談みたいな構図だが、もちろん話の焦点は俺ではなくクラスメイトについてだ。


「……それでですね、召喚勇者の問題行動が擁護できるレベルを超えています。処罰を求める声も日に日に大きくなっている次第でして……」

「はい、ウチの生徒がご迷惑をかけて本当に申し訳ありません」


 萎縮しっぱなしの先生。問題なのは『日本の常識をことさらに主張するクラスメイト』なのだが、先生も良くない。非があるとしても、コチラの要望や改善案を主張しないでは"落し所"は定まらない。何と言うか、横から見ていて『教頭先生にお説教されている』様な印象しかない。


 しかたない、出来れば連中には関わりたくないのだが……。


「それで、優先して解決するべき問題は"何に"なるのでしょう? 認識や常識の問題は、1つ1つ個別に解決していくしか無いと思います」

「そうだな、ノルン」

「はい、現在問題として上がっているのは大きく分けて3つです。1つは……。……」


 クラスメイトの問題行動の中で重要度・注目度の高い問題は、

①、生活環境の改善要求が度を越している。居住区の保証だけでなく、過剰な衣料品や娯楽用品、はては化粧品まで請求しており、尚且つソレを当然の権利だと思っている。


 この世界の人は、過酷な環境で淘汰されたのか、はたまた悪影響を及ぼす化学物質が使用されていないからか…………平均的に容姿が整っており、平民が化粧をする"文化"自体が存在しない。むしろ"変装"ととられ、怪しまれるほどだ。


 よって、要望を出されてもファンデーションやマスカラなんて流通すらしておらず、百歩譲っても化粧水などのケア用品が限界となる。しかし、それならキャンプ地でも売っているので『自分で買えよ』って結論に至る訳だ。


「先生、連中は狩りをした稼ぎをどうしているんですか? 冒険者は危険だけど、その分稼げます。無理にギルドに要求しなくても、ある程度は自分で買えるでしょう??」

「それは……」

「キョーヤさん。実は彼らの平均収入は、キョーヤさんの10分の1程度しかありません」

「は!? 10分の1って、クエストを1日1つクリアすれば達成できる額じゃないですか! なんで!!?」

「うぅ~、それは……」

「色々理由はありますが、まず集団が多すぎて圧倒的に非効率です。続いて、安全な場所でのトレーニングや余暇にあてている時間が多すぎます」

「つまり安全第一で、最低限の生活費を確保したところで切り上げているわけか……」

「そんな感じ。まぁ実際、危険な魔物もいるわけだし」

「前にも言ったけど、低階層で簡単な採取クエストをこなす班と、戦闘班に分かれたりはしていないんですか? 光彦たちは"バカ"じゃない。やっている事が非効率な事くらい理解しているでしょう??」

「そうなんだけど、第一階層でも出現率が低いだけで、危険な魔物は居るじゃない?」

「まぁ……」

「だから、結局護衛役が必要になって…………その、光彦君が"どこの"パーティーに入るかでモメちゃって」

「あっそ。もう心配するのもバカらしいな」

「うぅ~、だから恭弥君が戻ってきてくれたら~」

「絶対に嫌です」


 理由があまりにもクソすぎて、俺の脳が思考を拒否してしまった。俺もロマンを最優先に冒険者をやっているが、それでもルールは守るし、何より最低限の実績は上げている。いつまでも被害者ヅラして甘えていても、前には進めない。


「とは言っても、対策は講じてもらわねばなるまい」

「えっと、グスタフさん。ベテランでなくてもいいので"女性"冒険者を指導員として派遣してもらう事は可能でしょうか?」

「あぁ、その人たちにクラスの"皆"を引っ張ってもらうのね」

「いや、引っ張るのは男子数名だけです。とにかく、無駄に揃っている足並みを崩さない事には、何もできません」


 少なくとも男としては、美人にチヤホヤされれば舞い上がってしまうし、少しでも鍛えれば少数パーティーで行動できる。まずは美女をエサに男を切り離し、あとは残りを生産班にしてキャンプ地に籠らせてしまえば、黒字化は出来るだろう。最悪、光彦を総監督として戦線から下げてしまうのも手だ。時がたてば、連中もある程度"落し所"を見出してくれるだろう。


「なるほど。それは興味深いアイディアだ。冒険者はあくまで実力主義の出来高払いなのだが…………国から預かっている召喚勇者を無駄にする訳にもいかん。ノルン、何名か融通の利きそうな連中に声をかけてくれ」

「はい、やってみます」

「うぅ、本当に、ご迷惑をおかけします」


 まずは1つ。俺的には連中がどうなろうと知った事では無いが、それで俺の評判が落ちるのは嫌だし、何より連中には後腐れなく元の世界に帰ってほしい。


 俺にとってクラスメイトは、本当に赤の他人。たまたま同じ電車に乗り合わせた程度の関係。迷惑はしているが、だからと言って自らの手で殺したいとは思わない。ただただ、俺の生活圏と"思考"から出ていってほしいだけ。それ程に『どうでもいい存在』なのだ。




 冒険者ギルドでの話し合いは続く。

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