#008 奴隷ギルド②
「お客様、顔色が優れないようですが、一度休憩を挟みますか?」
「いえ、いや、違わないんですけど…………ちょっと俺の思っている人選と違う感じがするので、もう少し注文を追加させてください」
「畏まりました。なんなりとお申し付けください」
奴隷商に頼んで見せてもらった欠損奴隷は、正直に言って俺の精神をすり減らすのに充分であった。日本でも障害者は見たことがあるが、まじまじと欠損部位や、失った時の経緯を連続で聞くのは、覚悟していても堪えるものがある。
しかしそれとは別に、見せられた奴隷が俺のイメージとは異なるものだった。我ながら不純である事は理解しているが、ハッキリ言って『ムサいおっさんとは組みたくない!!』あと、出来ればベテランよりも、俺と同じで『意欲ある若者』がいい。性別や年齢は抜きにしても、俺はあくまで"ロマン"を抱いて冒険者を志している。だから常識や効率などで俺の目指す"冒険者"を否定されるのは我慢できない。
「お待たせいたしました。こちらの奴隷はいかがでしょうか?」
連れられてきたのは到底冒険者のサポートには向かない、小柄で頼りない少女だった。
「……………………」
しかも不愛想だ。
「この者は"イリーナ"と言います。商人だった親との旅の途中に魔物に襲われ、目の前で親を食い殺されております。欠損部位の"左手"はその時に失ったものです。幸いなことに魔物を過剰に恐れる様子は無いようですが、代わりに魔物を強く恨み、時おり過剰に反応してしまいます。そう言った意味では、心も欠損していると言えるでしょう。両手持ちの武器や複雑な作業も出来ません。しかしそれでも、本人は冒険者として使われる事を望んでおります」
イリーナの見た目は、中学1~2年生くらいの少女だ。しかし、目つきは鋭く、死線を潜り抜けた戦士のような印象も受ける。
俺は片膝をついて低い視線でイリーナに語り掛ける。
「俺はキャンプ地で寝泊まりもせずに、ダンジョンに籠っている変わり者だ。俺についてきても危険なばかりで良い暮らしは出来ない。それでも、ついてきたいと思うか?」
「……私を前線で使ってもらえるなら、それ以外は、何も望みません」
「担当さん、ステータスを確認させてください」
「ハイ、ただいま」
志は文句なしの合格。むしろ俺よりもストイックで、暴走の方を危惧するべきか。
・ステータス
名前:イリーナ
種族:人族(ドワーフ)
属性:無(火・土)
適性職業:復讐者(商人)
保有ギフト:なし
体力:B
魔力:F(C)
筋力:A(B)
器用:D(B)
敏捷:B(C)
知力:D(C)
精神:F(C)
判断:C(B)
補足すると、成長率と実数は同一では無いものの、成人の平均値は"C"とのこと。イリーナのステータスは平均"D"なので『力仕事以外は期待できない』くらいの評価となる。
「担当さん。確認なのですが、イリーナの種族は人族ですよね?」
「はい。見た目に反して妙に"筋力"の伸びがいいようですが、見ての通り種族は人族にございますハイ」
やはりそうだ。漠然と感じていたのだが、ギフトの補正なのか、どうやら俺は他人より詳しいステータスが見られるようだ。
イリーナの場合だと、見た目は完全な人族だが、ドワーフの血が僅かに混じっているのだろう、ステータスの伸びはその影響を受けていた。しかし、復讐心に駆られて適性が変容して"
「担当さん、イリーナは幾らですか?」
「ハイ、彼女は欠損1つ半ですが、全体的にステータスは低めですので2つ換算で、本来なら最低価格の30万になるところですが…………容姿に問題は無く、"初物"ですので50万となります」
「はつ!? いや、美少女なのは認めますけど、あくまで戦闘用としての購入なのですが……」
「…………」
イリーナは欠損奴隷として売られているが、用途は"冒険者扱い"になるので売春奴隷の様に性行為を強要すれば犯罪となる。バレなければ…………と考える者も居るだろうが、無犯罪奴隷は奴隷期間が終われば一度ギルドに返還する義務があり、そこで犯罪がバレてしまう。
因みに犯罪者奴隷であっても、奴隷として"最低限の権利"は認められている。アニメや漫画のイメージで言えば『奴隷は家畜以下の扱い』を想像してしまうが…………この世界では、用途外の労働を強制させたり、食事を与えなかったりすると普通に所有者に処罰がくだる。もちろん、贅沢は許されないが、労働さえ確りこなしていれば地球の受刑者程度の権利は主張できるそうだ。
「本人の"合意"があれば問題にはなりません」
「あぁ…………そういうシステムなんですね」
「ハイ~」
グレーゾーンと言うやつだ。別に『奴隷と恋仲になってはいけない』なんて法律は無いし、冒険者の中には『買った娼婦奴隷と結婚する』者もそれなりに居るらしい。奴隷としての区分はあるが、当人たちが合意していれば区分に縛られる必要は無く、奴隷側も待遇が良くなるのならソレを許す利点はある。
「分かりました。それでは、この子を買います。ですが…………今は装備を新調したばかりで手持ちがありません。前金を払って予約する形でいいですか?」
「ハイ~、よろこんで。では、こちらの書類に……。……」
下見のつもりが、勢いで購入してしまった。全く後悔はしていないが、それでも奴隷の代金と指輪代で60万。なかなかにヘビーな金額だ。
こうして俺は、俗っぽくも奴隷の少女を購入する事となった。
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