#007 奴隷ギルド①
「すいません。すこし見せてもらってもいいですか?」
「これはこれは、いらっしゃいませですハイ~」
絵にかいたような胡散臭いゴマすり商人が出てきた。
それはさておき、やってきたのは"奴隷ギルド"。ここは名前の通り、奴隷を販売するお店だ。この世界の奴隷は、まず大きな括りとして"犯罪奴隷"と"無犯罪奴隷"に分かれる。犯罪奴隷は、その名の通り犯罪者に適応される奴隷形態で、懲役制度の無いこの世界では罪を強制労働の形で償う事となる。当然、一般人には販売されていないのでギルドに行っても買う事は出来ない。
「ちょっと奴隷の購入を検討していまして、その下見に来たんですけど……」
「失礼ですが、お客様はもしや、話題の召喚勇者様でいらっしゃいますか?」
奴隷商はさり気なく視界を遮り、施設の奥を見せないよう立ち回る。
警戒されるのは当然だ。現在、クラスのバカが奴隷反対運動をおこなっている。そんな状況では、入店を拒否されても仕方ない。
「そうです。ただし、ダンジョンで野宿している変わり者の方ですけど」
「おぉ~、それはそれは。お噂はかねがね。それでしたら中へどうぞ」
先ほどよりも声のトーンが一段階上がる奴隷商。ちょっとした賭けだったが、どうやら俺の噂は奴隷ギルドにも届いていたようだ。
「その、すいません。同郷が迷惑をおかけしているようで。俺の方からもバカなことはやめるように働きかけてみるので、もう少し我慢してもらえないでしょうか?」
『なんで俺が謝らなければ……』と思わないくもないが、そこはグッと堪える。
「なるほど、噂通りの御方で安心いたしました。手前どもは職業柄、恨まれることには慣れておりますので、働き掛けに関しては気長に待たせて貰いますですハイ」
余裕の対応に安堵するも…………逆に言えば大きな権力を持っており『召喚勇者の抗議活動程度では揺るがない』と言う自信のあらわれなのだろう。
俺は奴隷商に連れられ、建物の奥へと進んでいく。施設の入り口はビジネスホテルのエントランスのような作りになっており、商談自体は奥にある個室でおこなわれるようだ。案内される途中でちょっとした舞台のような場所も見えたので、場合によってはオークションも開かれるのだろう。
「それではこちらにどうぞ」
通されたのはカラオケボックスのような個室。多分一番ランクの低い部屋なのだろう。
「お構いなく。えっと、申し遅れました、俺は………」
名を名乗ろうとすると、そっと手をかかげ制止される。
「お待ちください。当店では秘匿性を重視しております。正直に申しまして、お客様のお名前は存じておりますが、ココでは"お客様"と"担当"で統一しております」
「そうなんですか。それでは担当さん、よろしくお願いします」
「ハイ、よろしくお願いします。それでお客様はどのような奴隷をお望みで?」
「今の段階では、まだ物見遊山ですが、一応俺も冒険者なのでパートナーとして使える人材をと考えています」
「なるほど、それではお求めは"冒険者奴隷"のようですが、念のため、一通りご説明をばさせていただきます」
「はい、お願いします」
奴隷ギルドで取り扱われているのは全て"無犯罪奴隷"で、ようは金銭的な理由で身売りした者、つまり債務者だ。その場合、奴隷と言ってもある程度の権利が認められており、待遇や"用途"を選ぶ権利を有している。加えて、奴隷それぞれに"解放期限"が定められており、一定期間が経過すると一般人に戻れるシステムになっている。
無犯罪奴隷は、更に大きく3つのカテゴリーに分かれる。
①、冒険者奴隷。いわゆる傭兵で、体格や保有スキルに恵まれた者がなれる特別な奴隷。価格はピンキリだが一応80万から購入でき、この場がダンジョン内と言うこともあって、他の街よりも品揃えがいい様だ。そして奴隷期間は、この冒険者奴隷が1番短い。
②、売春奴隷。基本的には個人向けの娼婦ではあるが、中には普通に結婚相手として買われるパターンもあるようだ。殆どが若い女性で構成されている。価格は100万からだが、容姿や経験の有無で大きく値段が変動する。大抵は農家の末娘か、夢破れた女冒険者などらしい。
③、欠損奴隷。何らかの理由で手足や視力などの基本機能に障害を持つ者。また上記の2つに入れなかった者も欠損奴隷扱いになる。基本的に30万くらいで叩き売りされており、上記の2つよりも長い期間、奴隷としての労働が強制される。
「よろしければ何名か、お求めになりやすい冒険者奴隷をご紹介いたしましょうか? 流石にスキル持ちは高価になりますが……」
担当の視線は、腰の忍者刀にいっていた。多分だが、俺の稼ぎで『どこまで紹介できるか』を計算しているのだろう。俺の忍者刀は鞘などの
「そうですね、ですがスミマセン。今は俺も装備を整えている段階なので、まずは"荷物持ち"として欠損奴隷の購入を検討しています」
ここは変に背伸びはせず、身の丈に合った要望を出す。相手はプロで、俺みたいな素人のハッタリなど無意味。ならば腹を割って、ありのままを伝えるまでだ。
「なるほどなるほど、それなら戦闘経験のある者や冒険者志望の欠損奴隷を何人かご紹介いたしましょう」
「ちなみに、ステータスは確認させてもらえますか?」
「ハイ、それはもちろん。お客様の当然の権利ですから」
そんなこんなで、俺は淡い期待を抱きつつ、奴隷と対面する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます