#120 動機と狙い

「いやぁ、接触はしてみたけど、聞く耳持たずって感じだったよ」

「おいおい兄弟、簡単に言ってくれるじゃないか。それとも何か? 俺たちの信頼は、ココまでって事か??」

「そうカッカするなって。代わりと言っては何だが、良い情報を仕入れてきたからさ」


 寂れた酒場の片隅で、バロットをなだめるのは"トンスル"。


「情報だぁ??」

「単刀直入に言う。ヤツラの狙いは勇者の"仇討ち"ではない」

「はぁ? どういうことだよ??」

「ほら、肛門の破壊者がやっている、ソーセージとかを作っているヤツがあるだろ?」

「あぁ、三ツ星だったか? それがどうした??」

「そこで働いている女が、この前襲った村からでた奴隷なんだよ」

「あぁ……」


 バラバラだったピースが次々とハマっていく感覚を覚えるバロット。当初は(敵対しているとは言え)同郷のよしみで連続殺人を調べているのだと思っていたが、それは建前で、真の狙いは『村を襲った組織を壊滅させる事』だったのだ。


「上手くやったつもりだが、奴隷として買われた連中の中に、宿屋や猟師(魔物使いについての知識がある)が混じって居たんだよ。俺は前もって潜伏していたが、お前は犯行の時だけ村に滞在していただろ?」

「チッ! そう言う事か……」


 実際、勇者の暗殺は完璧であった。証拠とされる犬笛も、聞かれないよう細心の注意を払っていた。しかし『犬笛を聞かれた』と言うのが、そもそもデマだったのだ。バロットを犯人と睨んだ真の理由は"足取り"であり、狙いはバロット個人ではなく"犯行グループ"だったのだ。


 実際バロットは、カースマルツの召集を受け、わざわざユグドラシルから村に出向いて作戦に参加していた。それは滞在場所的に断れた召集であり、参加したのは金に目がくらんだからだ。


「そう言う事だ。それじゃあ、俺はココで……」

「ちょっとまて! お前、この事を組織に報告するつもりじゃないだろうな!?」

「さぁ、どうだろうな……」


 はぐらかすトンスル。本来なら、コレは証拠を残してしまったバロットの落ち度であり、組織の一員としてトンスルは報告する義務がある。しかしソレをすれば、バロットは消されてしまう可能性がある。


「分かった! 金は出す! どうせお前、金が欲しくて臭わせたんだろ!?」

「さぁ、どうだったかな~」


 トンスルは事件に関わっていたものの、元々村で活動していた事もあり容疑者として確定はしていない。それでも下手に動けば危うい立場である事は変わりないが…………そこは金次第。それこそ、金だけ貰って、即座にバロットを切り捨てる選択肢だってある訳だ。


「クソッ! こんな事なら、バカな勇者の依頼なんて、受けるんじゃなかった」

「そう言えば、ソッチの後片付けは、どうなったんだ?」





「そう言えば、サソリって、上手いのかな?」

「ん~、オレは、食った事ないな」

「どうでしょう? 毒があるので危険な気はしますが……」


 俺たちは、珍しく第五階層まで出向き、44Fの岩場でスコーピオンを狩っていた。


「いや、特別食べたい訳でも無いんだけど、地球には、サソリ料理もあったからな」

「その、ご主人様の故郷って…………わりと何でも食べますよね」

「それは、まぁ、そうかもな」


 職業柄と言っていいのか、どうしても最近は『既存の魔物の新たな利用法』を考えてしまう。


 第七階層解放に伴い、多くの冒険者が活動域を1階層上げている。それに伴い、雑多の冒険者が入り乱れていた第五階層からの供給品が減り、俺のところに依頼が来るようになったのだ。


「そのサソリ料理って、美味いのか?」

「美味いって言うか、珍味? 普段から食べるものでは無いかな??」

「それでは、あえて我々が加工する意味は、薄そうですね」

「そうだな」


 ハサミと針で必死に攻撃してくるスコーピオンだが、マンティコアに比べれば可愛いもの。毒があるので油断はできないが、それでも治療薬もあるので、即効性が無い分"安全"とも言える。


「どりゃあ!! ……ぐっ、やっぱり固いぞ」

「遠距離攻撃が無い代わりに、全体的にバランスがイイよな」

「ご主人様、やはりココは……」

「そうだな。仕方ない」


 隙をつき、懐に入って<バースト>を叩き込んで終わらせる。スコーピオンの甲羅は、あくまで物理耐性であり、魔法に対する耐性は殆どない。


「お見事です。ですが、やはりランクもあって、効率は悪いですね」

「<解体>を省けば、もう少し魔法主体で戦えるんだけどな……」


 いくら低燃費と言っても、解体作業に必要な魔力も考えると、俺の魔力量ではとても賄いきれない。せめて魔法学園の卒業生がウチに来てくれていたら楽になったのだが…………残念ながら3人とも、それぞれの道を歩んでいる。


「今度は、レアさんを誘ってみますか?」

「それだと…………戦力がな」

「「…………」」


 解体だけなら畜産家は有能だ。しかし、代わりに戦闘力が人並みしかない。そうなるとどうしても、第五階層では"事故死"がチラついてしまう。


「そう言えば、あれから"連中"は仕掛けてこないな」

「そうですね。直情的に私たちを襲ってくる可能性も考慮していましたが…………流石にそこまで浅はかでは無かったようですね」

「ニシシ、まぁオレが居るからかもだけどな」


 誇らしげに耳をピコピコするルビー。その可愛らしいお耳は今晩も可愛がるとして……。


 カースマルツ対策は、今のところ順調だ。まだ、種を蒔いただけなので油断はできないが…………1番の懸念だった『ユグドラシルから去ってしまう』パターンを回避できているのは大きい。


「そう言えば、イノリさんでしたっけ? 最後に残されたターゲットは、まだ無事なんですよね??」

「そうらしいな。まぁ、流石にな」


 その猪木だかエノキは、完全に守りに入っているので簡単には殺せない状況だ。まぁ、犯人からしてみれば、変装作戦が成功して繋がりが完全に切れている状態。この状況で、無理にエノキを襲う必要は無いだろう。


 後、どうでもいいが……。エノキは光彦を助けたくて殺し屋を雇ってデブを殺そうとしたのに…………その代金のせいでデブを相対的に活躍させてしまった。『策士策に溺れる』と言えばそれまでだが、エノキは他のバカとは違い、狂気を感じる。聖光同盟が宗教じみているのもエノキの指導のせいだと聞くし、何か更なる問題を起こさないかだけは、心配だ。




 そんなこんなで俺たちは、釣り人の気分で、ウキの変化を待つ。

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